22、甘い祭りと突然の
次の日のお茶会は、恋人繋ぎをしたところから始まった。
――あれは一度きりではなかったらしい。
お願いしたことは“継続”されるものだったのか。
自然な顔で、当たり前のように指を絡められる。
お茶会のたびに、私は「話し合いをしましょう」と切り出す。
婚約について確認しようとする。
けれどそのたびに、質問ひとつにつきお願いひとつ、という約束を持ち出される。
話は進まない。
その代わりに、頭を撫でられ、頬を撫でられ、しばらくよしよしとあやされる。
――これはペットへの接し方では?
そう思い始めたころには、腕を絡められて座らされ、肩や腰に手を回されて密着し、ついにはアレク様の膝の上に座らされるまでに“進化”していた。
毎回「今日こそは!」と気合を入れてお茶会に臨むのに、気づけば返り討ちにあっている。
アレク様はとても楽しそうだ。
悔しい。
けれど――。
嫌悪感はない。
むしろ、可愛い、好き、愛している。
真っ直ぐすぎる好意を何度も何度も向けられるたび、だめだと思いながらも胸が高鳴る。
「嬉しい」と思ってしまった自分がいる。
もう何が正解なのかわからない。
でも、あんな美形に真正面から口説かれて、ときめかない女性がいるだろうか。
……いない。きっと、いない。
そう開き直ることにした。
それでも、危うくなりそうなときは前世を思い出して頭を冷やしていた。
裏切られたこと。
信じて、捨てられたこと。
それを思い出せば、自然と熱は引いた。
――はずだった。
最近、その効果が薄れていることに、うすうす気づいている。
そんなふうに曖昧な関係のまま時間は過ぎ、立太子の儀を二週間後に控えたころ、新緑祭が開催された。
◇◇◇
祭り当日は晴天だった。
この時期にしては暖かく、外にいれば汗ばみそうな陽気だ。
今日は黄色いワンピース。
もちろん、アレク様から贈られたものだ。
ちなみにアスターには、今年はアレク様と行くと伝えた。
この世の終わりのような顔で絶望していたが、やがて立ち直り、「では私はマーサと回ります。祭りでお会いしましょう」と圧のある笑顔で告げられたので、私はこくこくと頷くしかなかった。
◇
「よく似合っている。本当に可愛い」
「あ、ありがとう、ございます……」
そして今日も今日とて、猛攻は止まらない。
迎えに来たアレク様は、馬車から降りるなり私を褒めちぎった。
贈られるものはどれも素敵で、私に驚くほど似合う。
悔しいけれど、センスがいい。
「行こうか」
自然に手を取られ、エスコートされる。
馬車の中でも、当然のように隣に座られ、隙間なくぴったりと寄り添われた。
そして、指を絡め直される。
私は内心どきどきしっぱなしなのに、アレク様は上機嫌で、今にも鼻歌を歌いそうなほどだ。
私ばかりが意識しているようで悔しい。
「今年は花火を打ち上げるらしい。魔塔で開発されていたものが、ようやく安全と認められた」
「そうなんですね。初めて見る方も多いでしょうし、盛り上がりそうです」
「あぁ。夜はきっと綺麗だ。楽しみにしていてくれ」
「はい、楽しみです!」
――前世で見た以来だ。
胸が少しだけ懐かしくなる。
王都の商業区域に到着すると、すでに祭りは大賑わいだった。
式典までの間、露店を回り、祭りならではの食べ物を買い、ベンチに座って串焼きを食べる。
本来ならアレク様が口にするものはすべて毒見が必要だが、私の聖魔法で消毒してから口にしている。
串焼きを食べる姿すら優雅で、食べ物と雰囲気があまりにも合っていない。
そのギャップに思わず笑ってしまう。
ずっと繋がれたままの手。
――離れる気が、しない。
視察のときもこうだったのに、今日はやけに意識してしまう。
じっと見ていると、気づいたアレク様がさらにぎゅっと握った。
顔を上げると、心底嬉しそうに微笑んでいる。
思わず目を逸らし、その場に立ち止まってしまう。
「……何がそんなに、楽しいのですか」
「シェリルといると楽しい。最近は特に、俺を意識してくれているのが伝わるからな」
そんな理由。
それだけで、こんなにも嬉しそうにするのだろうか。
胸が締めつけられ、なぜか泣きそうになる。
「わ、私は……」
――婚約を解消してほしい。
その言葉は、喉の奥で消えた。
言ってしまえば、きっとこの手は離される。
それが――怖かった。
アレク様も、それ以上は何も言わなかった。
◇
やがて式典の時間が近づき、関係者待機場所へ移動する。
着替えのため、アレク様は一度手を離した。
離れた手を見つめながら、寂しいと感じた自分には気づかないふりをする。
椅子に座って待っていると、思いがけずお父様が現れた。
「……お父様」
驚いて立ち上がる。
「ここにいたのか。あぁ、殿下の挨拶があるからか……座っていなさい」
会話は続かない。
久しぶりに顔を合わせたというのに。
――こんなとき、何を話せばいいのかも、わからない。
そこへ、着替えを終えたアレク様が戻ってきた。
「ハーディング公爵。来ていたのだな」
「陛下より、花火とその反応を直に見て報告するよう命じられまして」
「そうか。私もシェリルも楽しみにしていた。良いものになるといいのだが」
「殿下、こちらです! ご挨拶を!」
運営の者に呼ばれ、アレク様は壇上へ向かう。
「少し待っていてくれ」
そう言って、私の頬をひと撫でしてから。
――挨拶は滞りなく進んだ。
終盤に差しかかり、私は立ち上がって出迎えようとする。
その瞬間、背後から耳をつんざく爆発音が響いた。
ドオン――という衝撃と、一拍、遅れて凄まじい爆風が身体を打つ。
何が起きたのか、理解するより先に――視界が、反転した。
身体が、宙に浮き――落ちていく。
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