18、視察という名の
視察の日になり、アレク様から送られてきた淡いラベンダー色のワンピースを着てアレク様を待つ。城下は貴族街を抜けた先にあるのでいつもアレク様が迎えに来る。
アレク様は、時間ぴったりの午前10時に迎えにきてくれた。
玄関ホールでアレク様を待っていると、到着したようで出迎える。
紺色のジャケットを着こなし、少しだけ長めの横髪を片耳にかけている彼は神々しさすら感じる美しさだ。盛装ではなく普段よりはラフな格好をしているが、高貴オーラが隠せていないのはいつもと同じ。
そう、さすが小説の男主人公というだけあってとてもアレク様は美しい。かっこいいというより美しいのだ。
普段から鍛えている身体も着痩せしており、繊細な美しさを引き立てている。
「シェリー?」
「あっ、すみません…とても、似合っていて美しいなと…」
じっと動かない私を見かね、声をかけてくれたアレク様にぽろっと本音を溢してしまい、少し恥ずかしくなる。
アレク様は着飾ってなくても、立っているだけでも絵になるなあと思っているうちに、ついじっと見つめてしまっていたらしい。特に彼の黄金色の瞳が、私は好きだった。
するとアレク様は片手で口元を覆い、そっぽを向いて固まってしまった。
何かまずいことを言ったかと思い慌てるも、悪口的なことは言っていない。
「...そういうところがずるいんだ」
「え?なんて?」
「いや、なんでもない。シェリーこそ、そのワンピースとても似合っていて可愛いよ。行こうか」
「あ、ありがとう、ございます。」
ボソッと言った言葉は私には聞こえず。サラッと褒めてくれた言葉に社交辞令とは分かっていても少し照れてしまう。
やがて差し出された手を取ると大きくて温かくて、緊張してしまう。緊張するようになったのはいつからだったか。
そのままお忍びなので見た目は地味だが、中身は豪華な馬車に乗り込み、向かい合って座ると、黄金色の瞳と視線が絡んだ。
「…どこか行きたいところはあるか?」
「そうですね...今日の予定はどうなってますか?」
「いや、何ヶ所か行きたい場所はあるが、特にどこと決まっているではない。商業通りに行こうかと思っているくらいだ」
「わかりました。少し見ながら考えてみますね」
今日は貴族や富裕層向けの区画を視察するようだ。貴族街からすぐのため程なくしてついた。
アレク様のエスコートで馬車を降り、そのまま通りに向かって歩いていく。
通りを歩いていると多くの視線を感じ、声もちらほら聞こえてくる。
「まあ、なんて素敵な方なのかしら」
「隣の方はどなた?羨ましい…」
「とても気品が溢れているわ。きっと、とても高貴な方なのね...」
やはり女性達は皆、彼を見て色めき立っているようだった。そしてもちろん、その視線は私にも向けられる。
すると、アレク様が眩しいくらいの笑みを浮かべ、私の腰に手を回し顔を近づけ耳元で話しかけてきた。
「シェリー、のちほどあのカフェに行こう。シェリーが好きな苺のタルトが美味しいそうだよ」
「苺タルト....楽しみにしてますね」
好物の苺のタルトが食べれると聞いて嬉しくなるがそれは顔にはださず、はしたなくない程度の笑顔でお礼を告げる。
アレクシスはその笑顔に内心身悶えていたが、外面のポーカーフェイスを崩さず、ギリギリのところで笑顔の仮面をかぶっていた。
先ほどは隣にアレクシスがいるにも関わらず、熱い視線を送っていた男どもがいたため、殺意を込めて睨みつけ恋人のようなことをしたのだが、上目遣いで頬を赤くして返されるとは思わなかった。
ちらっと周りの様子を伺うと、やはりシェリルの笑顔にやられている奴らばかりだ。見せたくなかったのに裏目に出てしまったようだ。
可愛いすぎは罪だな...更に自覚がないからタチが悪い...なんてアレクシスは思っていたが、当のシェリルは苺タルトに思いを馳せていた──
少し歩くと、行列ができているお菓子屋さんが見えた。最近人気のある、フィナンシェがとても美味しいと評判の焼き菓子のお店だ。この世界ではまだ珍しくクッキーにも着色がされており、ウサギなどのかわいらしいクッキーも人気である。
まだ噂に聞いていただけで食べたことがなかった。アスターにお土産もかねて買っていこうか迷っていると、私が見ていたことにアレク様が気づいたようだ。
「最近噂になっていた焼き菓子の店か…エリーにお土産を買うのに付き合ってくれないか?」
「はい。では並びましょうか。……ありがとうございます、アレク様」
「少し並ぶのもまたいいだろう」
エリーとは今年7歳になるアレク様の妹の王女様だ。私のこともシェリル義姉様と慕ってくれている。婚約解消予定なのが申し訳ないが。
アレク様は私が視察だからと遠慮しないように言ってくれたようだった。いつも私の様子を見て気兼ねない形で希望を叶えてくれる。
こういった優しさがありがたいとは思いつつも、いつか終わる関係を思うと少しいたたまれない。
回転が速いのか行列の割に意外とすぐにお店の中に入ることができた。お菓子の甘い香りに包まれ幸せな気持ちになる。
このシェリルの体のいいところはいくら食べても太らないところだ。お金もあるので好きなものを好きなだけ食べることができる。
私はアスターと屋敷の人たちにフィナンシェと猫のクッキーを、アレクシスはウサギのクッキーを買ってお店をでた。するとどこからか人が来て、荷物を持って行ってくれた。
甘い匂いを嗅いだせいか、お腹がすいてきた。列に並んでいるうちにもうお昼は過ぎていたようだった。そのためさっき話に出ていたカフェに行くことになった。
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