17、オーウェンとアレクシスと
次の日。王城に到着したとき、本日は予定があるためお茶会には行けないことを、アレク様へ伝言とあらかじめその旨を書いておいた手紙を届けてもらうよう頼んだ。
王太子妃教育が終わり、魔塔に向かう。オーウェン先生には「いつでも来たいときに来ていいよ」といわれているためアポなしで行く。
柔らかい日差しが差し込む廊下を歩いている途中で、廊下横の庭園の木陰で寝ている人影を見つけ近寄った。
「...オーウェン先生、こんなところでさぼってどうしたんですか?」
「…ん~…?あぁ…シェリルちゃんか…おはよう…」
ふわぁ、とあくびをしながら体を伸ばしてオーウェン先生が起きた。
「なんでこんなところにいるの?まぁなんでもいいけど…」
寝ぼけた感じで返されたので、今日の要件を伝える。
「あぁ、なるほどね、了解了解…」
ちらっと私の後ろのほうを見たが、にこーっと笑って肩を抱き寄せたかと思うと歩き出した。
いつもとは違う行動に驚くも、そのとき背後からどがんっと音が響く。思わず振り返ろうとするもオーウェン先生に強引に連れていかれる。
「あの、今の音は...」
「あぁ、大丈夫。いつものことだよ」
魔塔付近ではよくあることなのか。あまりこちらの方まで来ないのでわからないが、オーウェン先生がいうならそうなのだろう。
「あ、先ほどの件、すぐにというわけではないのでまだ内密にお願いします」
「わかってるよ~。まぁ、婚約解消できるといいけど…」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
ボソッと小声で言った言葉は聞こえなかった。
魔塔で話を聞くと前聞いたことと相違ないようで、オーウェン先生が推薦してくれるとのことだった。もう1人は探しておいてくれるそうだ。とてもありがたい。
お礼を伝えてその日は魔塔を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最初に契約のようなことで話してしまった負い目から、肝心な気持ちを伝えることができず、ただただ必死に言葉以外の方法でアプローチし、周りにはシェリルは自分のものだと牽制し続けたアレクシスは焦っていた。
猛アタックした結果として仲良くなることは出来た。しかしあくまで友人として。
前世のように浮気を疑われるような行動もしていない。にもかかわらず、恋愛方面について全く手ごたえがなく、一線ひかれたままそこからの距離が縮まらない。
定期的にプレゼントは必ず送り、会ったときにはくっついて離れず、どうしても会いたいときには公爵邸に突撃した。アスターは邪魔だったが、シェリルに告げ口され印象を悪くすることを避けたかったため愛想よく接した。
お互いが邪魔だと思っているようだったが。
さらには牽制しているにも関わらず、男どもがシェリルを恋焦がれたように見つめるのだ。彼女が男の視界に入るというだけでも不快なのに。
彼女の一瞬も、彼女の視線1つだって他の男に与えたくない。閉じ込めて、出られないようにして、他の誰の目にも触れないように隠して俺だけのものに──
そんな湧き上がる独占欲を笑顔の仮面に隠し、どうシェリルを攻略するかをいつも考えてたが、何も伝わることなく無慈悲にも時間だけが過ぎ、気づけば5年経っていた。
幼馴染で側近のルカは、生まれてからずっとそばにいた感情の起伏があまりなかったはずの幼馴染がこんなにも変わったことを最初は喜んでいたのだが──
強すぎる仄暗い独占欲にドン引きしつつも「言葉が言えないただのヘタレなだけじゃないか?」と内心思っていたが、自分の平和のためにも口には出さなかった。
お茶会がなくなったことでショックを受けていたアレクシスは、シェリルが王城に来ていることは知っていたため、どこに用事があるのか確認するため移動するシェリルについていった。側近のルカも見かねて同行している。
「アレク…これって前言っていたストーカーってやつじゃ…」
「しっ!」
口に指をたててルカを黙らせる。婚約解消されるかもしれない状況でなりふり構っていられない。ストーカーという自覚もあるが今は許してほしい。と誰にともなく許しを乞い様子をみる。
シェリルが魔塔への廊下を歩いていると、ふと立ち止まり庭へと降りていく。そそくさと庭が見える位置に移動して壁に隠れて伺いみる。
庭にはオーウェンがいて、会話までは聞こえないが、シェリルと言葉をかわしていた。するとオーウェンはこちらにちらっと視線をよこし、にやっと笑った。
カッと頭に血が上る。
オーウェンは俺とシェリルの事情もうっすら分かっているのか、このような形でたびたび挑発してくる。
シェリルはここ数年でさらに美しく成長した。幼い時から美しさは垣間見えていたが、子供から大人へと成長過程である今でさえ、なんというかとても色っぽくなってきている。
それはより一層、周囲の男の視線を掻っ攫っている。アレクシスにとってはとても腹立たしいことだが、今はそんな場合ではない。
オーウェンは婚約当初からシェリルに目をつけているのか、パーティーなどで会った際にもシェリルをじっとみているところをよく見る。
魔法オタクと聞いていたため、家庭教師でもあるし聖属性の複属性ということが珍しいからかと最初は思った。が、あの目は違う。
あれはアレクシスと同じようにシェリルに恋焦がれている目だ。最初はロリコンかと思い、不快には変わりないが大人になれば落ち着くかと思っていたが、今の様子をみるとそんなことはないとアレクシスは確信した。
オーウェンは虎視眈々とアレクシスとシェリルが婚約解消するのを待っている
シェリルもオーウェンには心を許しているのかアレクシス以上に気安く接する。
それに気づいてからは殺意を込めて睨みつけるも、オーウェンは飄々とした態度を崩さない。
アレクシスが嫉妬で気がおかしくなりそうになった時、なんとあろうことか、オーウェンがアレクシスもまだ公的な場でしか触ったことがないシェリルの肩を抱き寄せ歩き出したではないか。
アレクシスは沸き上がってくる更なる嫉妬という名の怒りで魔力が大いに乱れ、思わず壁に手をついたときに穴をあけてしまった。隣にいたルカが真っ青な顔になっている。
「おいおい、防御魔法が施された壁に穴を開けるなんて...」
壁は自動修復機能があるからほおっておく。
シェリルには婚約後から護衛を兼ねて王家の影をつけていた。もちろん女性の。
アレクシスは自分以外の男が彼女の様子を覗いていると思っただけで殺意が湧いてくる。顔も見えない程遠いとかそんなものは関係なく、シェリルのシルエットだけでも見るなど許せない。正直、本当は自身が四六時中側にいたいと思っている。
ただまだそれはシェリルの心情的にもアレクシスの立場的にも許されないことを理解しているアレクシスは影で妥協している。
ただ影からの報告を聞くだけでも、アレクシスはいつもオーウェンに対して殺意が湧いていた。
国にとってどうでもいい存在であれば即座にアレクシスに消されていたかもしれない。しかし若くして魔塔の序列4位となっている今ではそれも難しい。
そんなオーウェンとシェリルが仲良く魔塔は入っていくところを見送り、これ以上はついていけないためイライラしながらも執務室に戻る。
顔がとんでもないことになっていたとあとでルカに言われたが、そんなことはアレクシスにとってはどうでもいいことだ。シェリルに見られなければ。
シェリルに早く気持ちを伝えて正真正銘自分のものにしたい。来週のデート(いつも視察と言っているがアレクシスはすべてデートだと思っている)に向けて備えるため執務机に向かった。
嫉妬での苛立たしい気持ちが収まらないなか、デートへの逸る気持ちと受け入れてもらえるかわからないことへの不安で心はぐちゃぐちゃだったが、デートのために仕事を終わらせることにした。
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