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1.転生してもまた




「これは...どうしてこんなことに...」


 朝起きて、豪華な部屋の中の全身を見ることができる大きさの鏡の前で茫然と呟く。


 鏡の中には、腰までのびたストレートのプラチナブロンドの髪に、小さい鼻、血色のよいぷっくらとした桜色の唇に、大きな桃色の瞳をした女の子が困惑した顔でほっぺをむにむにしながら、こちらをみている。


 数日前、ちょっとした興味本位からまだ使えもしない魔法を使おうとしたことが始まりだった。


 今まではなんでも1度でできたことから、失敗という2文字は私の中には存在しなかったのだ。

 まだ7歳ということもあり、要領を得ずに魔法を行使しようとしたが、何も起こらないうちに魔力が空になり魔力枯渇で死にかけた。


 生死の境を彷徨い、ついでに高熱もでたようで寝込んでいたが、今朝目が覚めたようだ。


 死にかけたことがきっかけになったのか、前世を思い出した。

 寝てる間に少し頭の中は整理されたが、すぐに現実を受け止めることができるかどうかはまた別問題。


(ラノベとかで起こるようなファンタジーなことが自分に起こるなんて....)


 自分の最後の記憶は、恋人と妹の浮気現場に遭遇し、ショックで大雨が降るなか家を飛び出したところ、トラックのライトを見たところで記憶が終わっている。


「まさか、「王子様と追憶の花」の世界に転生するなんて...しかもあのシェリル・ハーディングに...」


 そしてどうやら私は、ヒロインの腹違いの姉で悪役令嬢のシェリル・ハーディング公爵令嬢に転生したようだ。

 ファンタジー系の小説やラノベなどが好きだった妹に勧められて、忙しい中時間を作って読んだことがある小説だ。


 小説の内容としてはあまり覚えていないが、ヒロインの公爵家の庶子のアスターが、王太子であるアレクシスとある事件をきっかけに知り合い、お互い惹かれあっていく。アレクシスの婚約者である腹違いの姉、シェリルからの妨害にも負けずに、さまざまな障害を乗り越えて、最終的にはシェリルを断罪して結ばれるという、よくあるハッピーエンドの物語だったはず。


 私が転生したシェリルは、見目もよく、完璧令嬢と呼ばれるほど記憶力がいい。なんでもそつなく、完璧にこなしてしまう公爵令嬢だった。


 表向きはいつも微笑みをうかべ、才色兼備な非の打ち所がない女性として通っている。


 しかし、本性はまた違う。魔力量も多く、才能もあるが、何でもすぐに出来たこともあり、他の人の気持ちが理解できない。


 また、人を駒としか思っておらず、自分さえよければそれでいい。周りを見下している、我儘で傲慢な令嬢である。


 幼少期から才女として知られたことで王太子の婚約者になった。

 公爵家の権力にさらに、次期王太子妃という権力まで手に入れてしまって、止められる者がほとんどいなくなってしまった。


 頭がいいので、表立って権力を乱用することはなかったが、裏では権力を使って気に入らないものは処罰したり、排除したりということを日常的に行っていた。


 しかも、何事にも楽しみを見いだせなかったシェリルにとっては、排除した際の人が絶望したときの顔をみるのが唯一の楽しみだった。

 知略に富んだ追い詰め方も盤上の駒でどう攻めるかという、一種の娯楽。ただの遊びでしかないのだ。


(とんだサイコパスじゃない...)


 最終的には、ヒロインである異母妹が王太子に気に入られたのが気に入らず、嫌がらせはもちろんのこと、事故を装ったり、暗殺者を雇って殺そうとしたりして断罪されることになる。


 その後、さすがに庇いきれなくなった家からは勘当されるも、その頭脳が危険視されたため、平民として処刑される。


 小説内のシェリル周りの内容を思い返し、深いため息をつく。

 シェリルは基本、見聞きしたものは忘れないが、前世の記憶ともなればまた違うかもしれない。

 とりあえず、まずはこの世界のことを把握して、薄れていくかもしれない記憶を忘れないように、覚えていることを紙にまとめておこうと思案していた。



「それにしても...この世界でも姉だなんて...。腹違いとはいえ妹を邪魔して処刑される悪役令嬢だし...」


 ふと、前世の自分と被って憂鬱になる。


(一体、私が何をしたっていうの...ただ、一生懸命に生きてただけなのに...)


 前世は最も信頼していた妹と恋人に裏切られた。もう恋愛なんてこりごり。貴族だから政略結婚しろと言われたら結婚はするかもしれないが、自由意志であるなら断る。

 親が亡くなってからずっとせわしなく生きていた前世を考えると心身ともに平穏に生きていきたい。


(この小説のヒロインである異母妹、アスターもいるから私は結婚しなくてもどうにかなりそうなところは救いね)


 そう考えていたところ、不意に小さくノックの音が静かな部屋に響く。


「お嬢様、失礼いたします...」


 扉のほうをみると、とても静かに挨拶をしながらメイドが入ってきた。私と目が合うとビクッと体を揺らし、目を見開いた。


読んでいただきありがとうございます

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