13、話の行方は
「…え?」
「私もこの国の王子として早々に婚約者を探さねばならない。シェリルも今後婚約の申し出が殺到するだろうから、早めに決めておいたほうがいいのではないか?」
「も、申し訳ありませんが、それは…。この際なのでお話ししますが、私は誰とも結婚する気はなくて…」
いきなりの話に戸惑いつつも今日の目標でもある結婚する気はない、ということを伝える。
「…公爵令嬢で結婚しないというのは、いささか厳しいのではないかと思うが…理由を聞いてもいいだろうか」
「そうですね。そこは私も貴族の娘ですから、政略結婚なら致し方ないかと思っております。ですが、できるなら、自分で自立し、家に頼ることなく貴族として国に貢献していければと思っております。…私自身が誰かと親密といいますか、そんな関係になるのが嫌なのです。…もう裏切られるのは嫌なの…」
最後はボソッと言ってしまったので聞こえてないはずだが、本心だった。思わず前世を思い出して涙が零れそうになるも耐える。
アレクシスはあまりにも悲しそうに涙を堪えているシェリルをみて、それ以上何も言えなくなった。
「しかし、それならなおさら、私と婚約したほうがいいのではないか。そういった事情も考慮しよう。ひとまず婚約しておいて、その後どうしても婚姻はしたくないということがあれば、そのときまた話あってもいい」
「しかし、王族との婚約となったら、そう簡単に婚約の解消などできないのではないのですか?アレクシス様にも迷惑が掛かってしまいます」
「そこは気にしなくていい。どうとでもなる。お互い婚約の煩わしい話を避けることができていいと思うのだが。あまり権力を乱用することはしたくないのだが、私であればシェリルを守ることができる」
「...いわゆる契約のようなもの、ということでしょうか?」
「...その認識で構わない。ただし、他の者には秘密にしてほしい。それでないと意味がないからな」
「なるほど。概要は理解しました」
逆に婚約破棄してもらうことで傷物にしてもらった方がそのあとも結婚は避けられるかも。
なんていっても王太子との婚約破棄だ。その傷も大きかろう。
婚約したくない理由は、小説の通りにならないためと、自分が誰かを好きになるかもしれない状況にしたくなかったから。
しかし婚約自体が避けられないものであるのならば、相手は小説通りの相手にはなるが、話し合いに応じてくれるアレクシス様にお願いしてもいいのかもしれない。
そして先ほどの他国からも縁談、なんてどこまで本当のことなのかわからない。お父様にも聞いてみなければいけない。
じーっと私から目をそらすことなく見据えていたアレクシスは心なしそわそわしているようにも見える。
「...わかりました。私の一存で決めることはできませんので、ひとまずお父様にも相談してからのお返事でもよろしいでしょうか?」
するとその言葉にアレクシス様はばぁぁぁと嬉しそうに目をキラキラさせて頷いた。
「それでかまわない。ありがとう」
少し泣きそうになりながら頬を赤くして笑顔でお礼を言われる。まだ婚約すると言ったわけではないのにこの喜びよう。そんなにアレクシス様は困っていたのか。
あぁ、ヴァネッサみたいな子がたくさんいるのかも。納得。
ヴァネッサへの返答はおざなりだったが、明確に婚約者にはなりませんとは言わなかったのでセーフになるだろうか。
「ただ、お約束していただきたいことがあるのです」
「約束?言ってみてくれ」
「もし、好きな人ができたりして婚約をやめたい場合などは、すぐに言ってはくれませんか。穏便に婚約の解消をいたしますので…」
「…シェリルは私が浮気をするような、愚かものに見えるということか」
悲しそうに言われハッとする。いきなり浮気前提の話をされたら誰でも嫌な気持ちになるに決まっている。
ただ、小説の内容を知る身としては、好意の有無にかかわらず婚約関係が邪魔になる場合に備えたい。
「そうではありません!ただ…人の気持ちは変わりやすいものですので。国政も今後どうなるかわかりません。今はよくともこの婚約がアレクシス様の枷になるのではないかと思っただけです」
「そんなことはこの先もありえない。...が、ただ言葉だけでは信用もできないと思うから、今後の対応で判断してほしい」
「かしこまりました。不躾に申し訳ありません」
「いや、いい。他にはあるか?」
「.....いえ、今のところは大丈夫です」
「それなら、私からもいいだろうか」
「はい、なんでしょうか」
一方的に約束事があるのは不公平かと思い、聞いてみる。
「私たちは婚約者となるわけだから、仲睦まじくする必要がある。他の者につけいらせないためにも。そのため定期的に会う機会を設けたい。シェリルの様子から鑑みるに何か不安なことがあるのだろう?それを解消するにも信頼関係を築くのに、交流は必要だと思うのだが...」
まだ婚約者ではないのにずいぶんぐいぐいくる。親密な関係は避けたいが、冤罪と処刑回避のために信頼関係の構築はたしかに必要な気がする。
「わかりました。もし婚約者になった際には、そのように致しましょう」
(友人にはなっても恋愛関係にならなければ大丈夫よね。そもそも相手は子供だし)
「ありがとう!」
そう言ってとても嬉しそうに笑ったアレクシス様はとても可愛らしかった。
そんな私を見て、アレクシス様が何を考えているかなんて考えもしなかった。
そして契約書という形で残しておかなかったことを後悔することになる。




