12、いざ対面
王子とのお茶会当日。ひとまず今日の目標はもし婚約の話になったらお断りすること。処刑回避のための保険として良好な関係を築くこと。と決意して、再びお父様と馬車で王宮に向かった。
この間行った庭園ではなく、本日は王宮の奥の方にある庭園の東屋で行われるようだ。お父様とは庭園に入る前に別れた。
ここは先日のガーデンパーティのように広々とした空間があるわけではなく、東屋を中心として色鮮やかな花々が咲き誇り、燦々と降り注ぐ陽の光を浴びていた。
東屋の席まで案内され大人しく座り、庭を眺めていると、男の子が近づいてきたのが視界に入った。
急いで立ち上がりそちらを向くと、カーテシーをしてそのまま待った。
しばらくすると、近くで足音が止まった。
「頭をあげてくれ」
言葉に従い顔をあげると、太陽の光をキラキラと反射した綺麗な金髪に、王家にしか受け継がれないという黄金色の瞳。シミひとつない透き通るような真っ白な肌。天使のような見た目の王子殿下がいた。まだあどけなさはあるものの将来が楽しみである。
「今日はわざわざ来て貰ってすまない」
「とんでもない事でございます。お招き、ありがとうございます。拝謁できまして、光栄でございます」
「こちらこそ、会えてうれしい」
礼を述べて膝を折った。言葉通り、本当にうれしそうである。王子にとっては義務の一環であるお茶会だと思っていたんだけど。
そこへ殿下が歩み寄り、目線を伏せていた私の正面にすっと手を差し伸べてきた。
「顔を上げてくれないか。私は今日、君と話をしたいんだ」
差し出された小さな手を、じっと見つめてしまった。恐る恐る殿下の手に自分の手を添え、顔を上げ立ち上がる。
目が合うと殿下は頬を赤くし、とても嬉しそうに笑った。そのまま、殿下は私をエスコートし、椅子へと案内してくれた。初対面なのに、不思議と好感度がとても高い気がする。
侍女たちがお茶の用意をし、テーブル周辺からすっと下がっていく。彼女たちの仕草に一切の無駄がなく、且つ洗練されている。
「今日は2人だけのお茶会なのだから、そこまでかしこまらなくていい。先日のパーティーでは不始末があったようで申し訳なった。アレクシス・シュットガルトだ。アレクシスと呼んでほしい」
「かしこまりました。アレクシス様。シェリル・ハーディングと申します。先日のことでしたらお気になさらず」
「シェリル...と呼んでもいいだろうか」
「…どうぞご随意に」
距離をつめてくるのが早い気はするが、かわいい男の子ににこにこと嬉しそうに言われれば、こちらから拒否することもない。
でも油断は禁物。親しくはなっても婚約まではいかないようにしなければ。改めて気を引き締める。
アレクシス様はにこにこといろいろな話題を振ってくれて、会話も楽しい。
さすが王子はこういったことも教育をうけるのかな、とどうでもいいことを考えつつ、当たり障りのない会話をしていた。
「…最近は何か興味あることとかは?」
「そうですね...最近は少しばかり早いのですが、魔力鑑定をしたので魔法の勉強が楽しいです」
「あぁ、そういえば聞いたよ。特例で魔力鑑定をしたそうだね。なんでも聖属性と水属性の複属性だとか...」
「はい、そうなのです。聖属性で複属性は珍しいそうですね。まだ基礎中の基礎しか習っておりませんので、魔法を使える段階にありませんが、今後が楽しみです」
「そうか...そういうことであればなるほど...」
途中から何か小声でぶつぶつ言いつつ考え込んでいる。声が小さくて私まで聞こえないが。
「...アレクシス様?」
呼んでみたけど、考え込んでいて聞こえてないのか反応が返ってこない。少し待っていると、意を決しような真剣な顔をしたアレクシスと目が合った。
「シェリル.......いきなり本題に入るが、私の婚約者になってはくれないだろうか」
「…え?」
「すまない。いきなりで驚いたか?」
「はい…それは…えっと、はい。理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
いきなりの話題転換に驚いたが、婚約はしたくない。たしかに終始嬉しそうにしてくれて楽しく会話できたが、何か考え込んでいたことから理由がありそうだと感じた。
「そうだな…まずは政略的な理由をあげるのであれば、希少である聖属性の魔力を持っていることでも注目は集めるが、さらに水の属性も加わり複属性であるのは、私も聞いたことがない。おそらく今後この話が広がれば、公爵家と家格も申し分ないとくれば他国の王族からも婚約の打診があるだろうことが予想される。国としては希少な人材流出は避けたい。おそらくもう、公爵には国王から話は言っているのではないか?」
「そ、うなんですかね…お父様とそんな話はしたことがないので、わかりかねますが…」
私の知らないところでそんなことまで話が進んでいるのかと驚く。
「そして政略以外の理由だと何より、私がシェリルがいいと感じた」
アレクシスはまっすぐ私の目を見て、逸らすことは許さないと言わんばかりの力を込めて私をじっと見据えた。




