時間は有限、時は金なり〜零時の鐘が鳴る頃〜
手を引かれて、車に乗せられ。
「俺腹減ってんだよ付き合え。」
こっちの意見を聞く気があるのかどうか怪しい誘い文句に乗り、ちょっと良さげな雰囲気の店へ。
車をコインパーキングに止めてるから、そう長居はしないだろう。
「桃瀬は?なんか食う?」
「飲み物だけで良い。さっき食べた。」
「ふ〜ん?ま、俺が食ってるの見てたら腹減るかもだし、好きに頼めよ。」
タッチパネルでの注文らしいソレを慣れた様子で触る仙石を見つつ、運ばれてきたお冷を飲む。
つきだしの枝豆も美味しそうだ。
「何飲む?ビール?」
「仙石飲むの?」
「俺車だから飲まないよ。」
「あ、そっか。じゃあ私、烏龍茶。」
「気にせず飲めば?」
「付き合い以外で飲む気ない。」
「そっか。」
注文を終えたのか、パネルを台座に置く。
「仙石、こういうお店よく来るの?」
「いいや。この間お得意様に教えてもらった。雰囲気の割に値段は安いから入りやすい場所だってな。」
「へぇ……。」
「烏龍茶二つでーす。」
「ありがとうございます。」
「どうも。」
乾杯しよって言われて、軽くグラスを合わせる。
冷えた烏龍茶が身体に沁みる。
「それで?」
「ん?」
「何があったんだ?」
「…………。」
ぶっきらぼうに見える問いかけ。
なのに、声はすごく優しくて。
「アンタが優しいって……。」
「んだよ。俺は優しいって評判だぞ?」
「知ってる。…………別に、誰が悪いってわけじゃない。ただお互いに子供のままじゃ居られないってだけ。」
「…………。」
「…………大好きだった初恋の幼馴染。今でも好きなんだけどさ、彼のママが昔から大嫌いでさ。まぁ、あっちにも嫌われてるから痛手にはならないんだけど。」
「何があったら嫌われるんだよ。」
「息子大好きなママなんだよ。そんな息子を好きだって言う私が昔から気に入らないみたい。で、付き合うってなるとママと関わりも持ってくる可能性があるでしょ?」
だから、初恋を終わらせてたの。
そう言って烏龍茶を一口のみ、枝豆をもらう。
うん、甘くて美味しい。
「お前、初恋引きずってたの?」
「言い方。」
「まぁ、なんにせよ。自分の中で一区切りつけたってことだろ?前に進めるきっかけになれば良いな。」
「…………そうだね。」
うん、お互いに過去のことにして前を向けるきっかけになったとは思う。
まぁ、しばらくは恋愛はしないだろうけど。
なんか、疲れたし。
「付き合ったりしてたのか?その初恋のやつと。」
「一回も付き合ってない。幼稚園の頃から大好きだっただけ。マジもんの純愛。」
「あー、お前相手なら仕方がねーわな。」
「喧嘩売ってんの?買うよ?」
両手をあげて苦笑する仙石。
そんな私達の間に店員さんが唐揚げや串焼きを置いていく。
「大切にしたいって思ったら下心なしの純愛になるのは仕方がねぇって話。俺もお前相手には他の女みえーな扱いできねぇし。」
「へぇ。いっぺん女に刺されれば良いと思う。」
「ひでーな。」
「女癖悪いやつは滅べば良いって思ってるから、私。」
コイツの噂は入社当時に比べれば減ったが、全部が全部ガセネタじゃなかったのが問題だ。
仙石は仕事ができるうえに顔が良いから、女性が放っておかないんだけど。
「俺も含まれてんのか、ソレ。」
「さぁ?自分の胸に手当てて考えれば?」
「…………うん。俺は該当しない。」
「…………。」
ニコニコと微笑む。
マジでコイツのこういうとこ嫌い。
「嫌悪感が顔に出てんぞ、桃瀬。」
「…………唐揚げもらう。」
「おー、食べろ食べろ。美味いぞー。」
小皿にとってくれる唐揚げ。
お礼を言いつつ割り箸を割れば、失敗する。
まぁ、今日はそういう日だったんだろう。
「いただきます。」
パクリと一口かじれば、パリッとした食感とジュワッと肉汁が口いっぱいに広がる。
「……っ!!」
「ハハッ、美味いだろ?」
ウンウンと頷いて、咀嚼する。
「余っても食べてやるから、食べたいって思うもん、注文入れろよ。」
そう言いながら、串焼きに手を伸ばす仙石。
「……、仙石ってさ。」
「ん?」
「誰かを好きになったことあんの?」
「んだよ、藪から棒に。」
「ふと思って。モテるし、社内でも告白されてるの見かけるし、デートに誘われてるのも見かけるし、誰かと付き合ってるって噂も流れてる。」
「付き合ってねーよ。」
「事実かどうかは別に良いの!問題は、仙石が好きな人居るとか彼女居るって振られたって女の子たちが大量発生するのに、仙石の恋人(?)が全然噂にならないこと!!アンタ、本当に相手のこと大切にしてる?」
「アレ、俺の人間性疑われてる?」
心外だなぁと仙石が楽しそうに笑う。
仕事中は貼り付けた笑顔を浮かべるか無表情かの二択なのに。
ちゃんと感情の乗った笑顔。
「俺、好きな子には親切。あと、仕事中もなるべく波風立て無いように振る舞ってるから全員に親切。」
「え、どこが?時々私に嫌味言ってくるのは?」
「親切心。」
「モラハラで訴えんぞ。」
「好きな子ほどいじめたいって心境。」
「んなガキ大将精神小学生で捨ててこい。」
イラッとしつつ、パネルを操作し唐揚げとネギマと茶碗蒸しを注文する。
「とまぁ、冗談はココまでにして。」
「…………。」
「俺、好きな子相手ならちゃんと目を見て話すし、好きな子相手なら自分からご飯行こって誘ったりする。そのへんにいる普通の男。」
「…………。」
「あと、俺が桃瀬に嫌味言いに行くのは、ストレス発散させてやろうかと思って。」
「は?私のストレスにしかなってませんが?」
「そろそろ爆発しそうだなぁって頃合いで声かけてるんだよ。俺に怒鳴ってスッキリしてるだろ?」
「否定はしない。」
怒鳴ってスッキリと言うか、言いたいことを遠慮なく言わせて頂いてる。
「もう少しマシなやり方なかったの?今日みたいに話聞いてくれるとか、そういう感じの。」
「普通に誘ってもこねーだろ。俺のこと嫌いだから。」
「まぁ。」
「ほら。」
店員さんが笑顔で注文したものを置いていく。
ソレにお礼を言いつつ、ネギマを食べる。
別に、出会った頃から嫌いだったわけじゃない。
「そもそも嫌いになった理由は仙石だから。」
「俺?」
「嫌いじゃないって答えてるのに、何回も俺のこと嫌い?って聞いて来たじゃない。アレがすっごく不愉快だったから嫌いになれた。おめでとう。」
「何もめでたくねーな。」
ため息交じりにそう言いながら私の注文した茶碗蒸しに手を伸ばす仙石。
まぁ良い、後で頼みなおそう。
「だって桃瀬、俺のこと“嫌いじゃない”って答えるだせで“好き”って言ってくれなかったし。」
「当たり前でしょ?普通って言ったらアンタが不機嫌になったから、嫌いじゃないって答えるようにしたのに。」
「じゃあ好きでよくね?」
「好きじゃない。ただ、嫌いじゃないだけ。このニュアンスが伝わらない時点で私達の相性最悪だから。お疲れっした。」
「したー、じゃなくて!」
「お、ノリツッコミ。」
「んじゃあ、俺が好き?って聞いたら、なんて答えるんだよ。」
「好きじゃないって答える。」
「天邪鬼か。」
「んじゃあ、普通って答えさせてよ。」
「無理。」
「子供か。」
イヤじゃなくて無理って答えるあたり、特に。
「関わりあんまりないのに好きとか嫌いとかなくない?まぁ、今は嫌い一択だけど。」
「ひどいな。俺は結構桃瀬のこと好きなのに。」
「あっそ。それこそ報われない思いね。」
「お前が俺を少しでも意識してくれれば報われるんだけどね。」
「へーそー。」
適当なことばっかり。
こういう軽口叩くところ、全然変わらない。
「なぁ、桃瀬。真面目な話な?」
そう前置きして、烏龍茶を一口。
私は唐揚げに箸を伸ばし、小皿に取る。
「俺、お前のこと一人の異性として好きなんだわ。」
「へぇ。」
「…………。」
「………………………………は?」
掴んでいた唐揚げが小皿の上に落ちる。
「言ってるだろ?何回も。意識してくれれば報われるんだよ、俺。」
「何言ってんの?」
「俺、マジで桃瀬のこと好き。」
「ちょ、ちょっと待って。は?酔ってる?」
「一口も飲んでねーんだわ。」
そりゃあ、聞き飽きるぐらい言われた。
口喧嘩するたびに言われた。
“俺、お前のこと結構好きなのに”
私が怒るのを見て楽しそうにケラケラ笑って、何度もその言葉を口にしてる。
数えるのもやめたくらい、言われてる。
「初恋終わらせて、前を向くきっかけはできた。現在付き合ってる男も居ない。気になる男も居ない。」
「…………。」
「だったら、俺と付き合えるよな?」
「なんでちょっと偉そうなの?私、アンタが嫌いって何度も言ってると思うんだけど。」
「でも、気兼ねなく付き合える異性は俺だろ?なんだかんだ言いながら俺の晩飯付き合ってくれてるし。」
ニヤニヤとする眼の前の男を睨みつける。
愚痴を聞いてもらおうとノコノコついてきた私が悪いのか。
そうか、悪いのか。
「仙石、彼女居るんじゃないの?」
「お前。」
「オマエさん?どこの部署の方ですか?」
「桃瀬恵っつう彼女(予定)の(暫定)婚約者が居るって断ってる。」
「妄想が暴走したか?ちょっと理解できなかったわ。もっぺん言って?」
私の聞き間違いかと思い、お箸を置いて烏龍茶を飲む。
ちゃんと聞いとけって笑う仙石は、真剣な瞳をしていて。
「桃瀬恵っつう将来を見据えて彼女にしたい女が居るからっつて断ってんだ。」
「肝心なところ抜けてたよね、さっきの言葉!!え、何!?じゃあ社内で噂の彼女は私ってことになってんの!?」
「安心しろ、名前は出してない。いずれかはバレるだろうけど。」
「バレるバレないの問題じゃないよね!?なんで!?なんで私!?他に居るでしょ!?」
「俺にボロクソ言う女って貴重で面白いなって。それに、俺結構桃瀬のはっきりしてるところ好きだし。仕事中ほとんど喋らねーし、仕事はやいし、定時退社基本なところも俺は結構好き。飲み会とか不参加だから人付き合い悪いとか言われてるみてーだけど、俺は好き。」
「私、失恋したあとなんだけど。いや、失恋って言う表現が正しいのかもわかんないけど。というか私嫌いだって言わなかった?」
そう抗議すれば、ネギマを一つ頬張る。
どこまでもマイペースな仙石に私だけがついていけてない。
「俺はお前のこと嫌いじゃないけど?お前が俺を嫌ってるだけ。」
「それがわかってるなら構わないで欲しいんだけど!?」
「弱ってるところに漬け込んでるんだよ、俺は。ほら、さっさと言えよ。俺と結婚するって。」
「〜〜〜〜っ!!」
余裕そうにニヤリと口角を上げる仙石。
「ま、逃がすつもりはないからせいぜい頑張れ。」
「仙石。」
「お前は言うほど俺のこと嫌いじゃねーよ。そんな顔できんのが、その証拠。」
「!!」
両手で自分の顔に触れるけど、どんな顔してるかなんてわからない。
ただ、顔が熱いっていうだけ。
「今度から手加減なしで攻めるから、よろしく。」
「攻めるな、やめろ。私はアンタが────」
「好きって言わせるから。」
「…………っ。」
「で?俺のこと、嫌い?」
頬杖をついてニヤリと微笑むから。
「だいっきらい!」
お望み通り、いつもの言葉を吐き出した。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝
二人のAfter Storyどうするか悩み中……。
(ー_ー;)