時間は有限、時は金なり 〜仙石の場合〜
いつも通りの一日だった。
いつもより少しだけ気分の良い日だった。
だから、な?
「俺はお前のこと嫌いじゃないけど?お前が俺を嫌ってるだけ。」
「それがわかってるなら構わないで欲しいんだけど!?」
「弱ってるところに漬け込んでるんだよ、俺は。ほら、さっさと言えよ。俺と結婚するって。」
「〜〜〜〜っ!!」
俺を睨みつける惚れた女に、ぼんやりと今日の出来事を振り返った。
5:00 起床
「くっそ……こんな朝早くに誰だよ、エンジン吹かしてるやつは……クレーム入れんぞ。」
6:00 ジョギング
「あら、おはよう。今日も早いわねぇ。」
「おはようございます。」
「犬の散歩も良いものね。こんなイケメンに朝から会えるんだもの。」
「ハハッ、ありがとうございます。」
8:00 出社
「おはよう、仙石くん。」
「おはようございます、仙石さん!」
「おはようございます。」
「おはよ、仙石くん。今日の会議はよろしく頼むよ。」
10:00 惚れた女と目が合う
「おーっす、仙石。何見てんだ?」
「別に。」
「ん?あぁ、給湯室で何してんだろ、アレ。」
「さぁな。」
「あ、おい!」
12:00 昼休み
「仙石くん、一緒にお昼どう?」
「あ、ずるい!ご一緒して良いですか?」
「すみません、これから打ち合わせがあるので。」
「残念。」
「えー!身体壊さないでくださいね!?あ、私お弁当作ってきましょうか!?」
「お気持ちだけで。それでは。」
13:00 外回り
「いやぁ、仙石くんは仕事が早いし口が上手だねぇ!仕方がない、乗せられてあげよう!」
「ありがとうございます。」
「ところで仙石くん、今度ウチの娘と会う気はないかね?」
「すみません、彼女(予定)居るので。」
14:40 自販機前で邂逅
「お疲れ、桃瀬。」
「お疲れ、仙石。外回り?」
「そ。今帰ってきた。」
「お疲れ様。なんか飲んだ方が良いよ。」
「え、何?奢ってくれんの?」
「は?なんで私がアンタに奢らなきゃいけないのよ。」
「思いやりがねーなぁ。」
「ないね。」
「仙石くん!良いところに!ちょっと謝罪の付き添いしてあげて欲しいんだ!会議室Aに居るから!」
「…………俺の担当じゃないですよね。」
「頼むよ!ついでだろ?それじゃ!」
「……………………。」
「…………大変だね、仙石。」
「……はぁ……行って来る。」
「仙石。」
「!」
「仕方がないから奢ってあげる。頑張れ、気を付けて行ってらっしゃい。」
「……、行ってきます。」
16:30 事務仕事
「ただいま戻りました。」
「お疲れ〜。」
「お疲れ様です、仙石さん!」
「資料の確認お願いしまぁす。」
「そこ置いておいて。報告行ってくるから。」
「飲み物入れてきまぁす!何が良いですか?」
「あぁ、持ってるので大丈夫です。お気持ちだけで充分です。」
17:00 憂鬱な会議で隣の席が惚れた女
「桃瀬も呼ばれてたんだな。」
「帰り支度バリバリしてたんだけどね。」
「どんまい。」
「ほんと最悪。」
「定時に会議ぶち込むの好きだよな、お偉い様方。」
「えぇ、本当に。テレビ会議ならいらないでしょ、この人数。」
「空席あったら目立つんだと。」
「コンパかよ。」
「言いえて妙。」
19:00 退社
「お疲れ様で────」
「仙石さぁぁあん!!」
「…………。」
「待って!待って帰らないで!!仙石先輩!!お願い、助けてください!!このまま残業伸びればデートに間に合わないんです!!」
「そうか、頑張れ。」
「お願いです!見捨てないでください!!皆に見捨てられた後なんです!!会議終わりの先輩しか居ないんです!!」
「…………はぁぁあああ。ったく…、どれだ。」
「!ありがとうございます!!コレ!コレです!!この企画書の要望の部分です!!」
「資料は。」
「こちらです!!」
「……よくまとまってる資料だな。」
「はい!桃瀬さんがまとめてくれました!」
「そうか。じゃ、何が何でも終わらせないとな。ほら、アドバイスしてやるから、打ち込め。」
「はい!」
20:30 退社
「づっっっがれだぁぁぁあ。運転するのもだるい。でも歩くのはもっとだるい。つうかなんだよ今日は厄日か?あーでも、アイツと会話する機会があっただけまだマシか……。」
22:10 見慣れた後ろ姿
「何してんだ?アイツ。誰かと一緒っぽいけど……。て、あ?一人になんのかよ!このあたり駐車場あったっけ。」
22:30 偶然を装って
「アレ。桃瀬?こんなところで何してんの?」
「…………散歩。」
「散歩って……こんな時間にかよ。女一人は危ねーだろ、送る。家どこ。」
「教えない。家近所だし、心配いらない。」
「…………珍しいな。お前がそんな感じで俺を拒絶すんの。いつもはもうちょっと可愛げあんのに。」
「…………。」
「俺寝たら忘れるタイプだから、話してみ?俺相手なら言葉に気を使う必要ねーだろ?」
「……………………それもそうか。」
「おーい。」
22:35 惚れた女の手をとった
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感(ー人ー)謝