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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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閑話“暴食”

 爆音と突風で目が覚めた。

おぼろげな視界と、あやふやな頭を振り払う。

上半身を持ち上げて、辺りを見回した。

 私は救急車に乗せられようとしていたようだ。

だが、私の乗った担架のまわりに救急隊員は一人もいない。

 近くの別の救急車が黒煙を上げて燃え盛っている。

よくみると私の担架のまわりに人が倒れている。

周囲にも怪我人や、手遅れの人が見えた。


「……あっ。」


 思い出した。

私は、私は……。


「私がやったんだ……!」


 私のパイルバンカーで、

ダンジョンの見えない壁に穴を空けた。

そこから、閉じ込められていた人たちを助けた。


 でも、モンスター達が追ってきた。


 穴から溢れるモンスターの大群。

阿鼻叫喚と断末魔の合唱。

私は地獄絵図とはこの事だと悟った。


 少し離れたところで、また爆発が起きた。


 私はモンスターの群れを引き連れて、

壁に戻した。

でも、壁の内側にまだ逃げ遅れた人たちがいて。


 モンスター達が、

その人たちを笑いながら惨殺した。


 また、爆発が起きた。

救急車が燃えている。

人々が逃げ惑う。


 ……私のせいだ。


 何かが飛来して、

人がそれに撃ち抜かれて死んでいく。

私は“韋駄天”を使って何が飛んできたか確認した。

矢だった。

 私は矢に駆け寄って手で掴んだが、折れない。

軌道を変えることもできなかった。


「人だけでもっ。」


 矢の軌道にいた人を引きずって移動させた。

限界まで使っていたスキルを解除する。


「え?」


 矢はあり得ない角度で曲がって、

私が逃がしたはずの人たちを穿っていく。

目の前であっという間に、人が死んでいく。

 また、次が飛来してきた。

私はまた、スキルを使った。

今度は遮蔽物のあるところへ人を移動させた。


「嘘……!」


 それでも、矢は遮蔽物ごと人を穿つ。

また、助けられない。


「また!」


 次々と矢が飛来する。

逃げ惑う人々。

私は“韋駄天”を何度も使ったが。


 誰一人として、助からない。


 お腹がすいた。

スキルの代償だ。

 救急車の残骸そばに、

知っている名前が刻印された点滴パックが落ちていた。

栄養剤だ。

 私はそれを急いで拾って、口へ注ぎ込んだ。

足りない。

 私は破壊されコンビニの付近で

地面に散乱した食べ物を見つけた。

迷わずそれを拾って食べて“韋駄天”を使う。

人々をなんとか矢から、引き離す。


 それでも、誰も助けられない。


 渇きと飢えと、虚無感が襲ってくる。

矢から人を引き離す。

矢は誰一人として逃がさず、殺し尽くす。


 助けられない。


 目についた食べ物や飲み物は、

どんな状態でも拾って食べた。

苦味や砂の味がしても飲み込んだ。


 助けられない。


 矢を両手で掴んでも、やっぱり折れない。

軌道を変えることも、できない。


 皆、死んでいく。


 助けなきゃ。

助けなきゃ。

何とかしなきゃ。


 私のせいだ。


 パイルバンカーは壊れてもうない。

あったとしても、

小さな矢に当てられる技量が自分にない。


 私のせいだ!


 思考なんて、

もうあってないようなものだった。

 誰も彼も矢に撃ち抜かれていく。

誰も彼も、何をしても助けられない。


 助けて。


 皆、死んでいく。

皆、皆、死んでいく。


 お腹がすいた。


 私は残飯のような状態の食料にも手をのばす。

食べ物は見境なく貪る。

 涙が溢れてきた。


 誰も見ないで。

 こんな私を見ないで。


 助けて、お願い。


 お腹がすいた。

 

 あぁ、ああああ。


 私のせいだ。


 助けて。


 お腹がすいた。


 燃え盛る炎が赤く照らす自分の顔を、

ひび割れた鏡越しに見た。


「……。」


 口のまわりに汚れなのか、血なのか。

よく分からないものかたくさんついている。

まるで、私の口が大きく裂けたようだ。

 私自身、何故かそれが笑っているように見えた。

グラビアや、ワイプで映るときの、

私の笑顔に見えた。

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