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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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第64話 果勇

 爆発が収まり、

土煙が周囲に立ち込めて俺の視界を遮る。

俺には何も見えないが、

ネルとミタニさんに探知を任せる。


「まだあの場にいます。

動いてません。

アルジ様、お気をつけて。」 

「直撃だったんだけど、

何かで受け止めた感じかな。

私と私たちでも関知できなかったから、

警戒して。」


 徐々に土煙が収まり、

視界が開けていく。

俺の拳の着弾点に大きな穴が空いていた。

まだ土埃が舞っているが、

穴の真ん中になにかの影が見える。


「こちら、藤堂。

機体に損傷なし。

燃料もまだ余裕。

残弾数は三分の二くらい。」

「えーっと、財前です。

無事です。」


 俺からは視認できないが、

無線から二人の声がした。

二人とも無事らしい。


「気をつけてね。

多分、“神話級”って僕らが呼んでるタイプだ。」


 “大和桜”のダンジョン調査数は世界一だ。

そんな彼らが一番危険視しているのが、

“神話級”モンスターと俗に呼ばれるモンスターだ。

 外見が神話の神々に近いモンスターたちで、

それが出たダンジョンは必ず閉鎖される。

有名なのは出雲のダンジョンにいるヤタガラス。

三本足の巨鳥に出会ったら、

命はないと言われている。


「今思うと、

あのスフェーンとか僕のお腹の蜃も“神話級”だよ。

見た目が神話の神々と違うだけ。」


 なるほど、スフェーンと同じランクか。

チラリと自分の左手をみた。

グローブの中だか、

薬指にはあの指輪がはまっている。

 俺は無線へ向かって話す。


「すみませんが、

私はケイローンって神様を知りません。」

「俺知ってる。

櫻葉もやったゲームで、

たまーに出てくるよ。

知恵者でギリシャ神話の英雄たちの師匠、

だったっけ。」


 藤堂の声で何となく思い出す。

昔やらせてもらったゲームの

チャレンジモードのメニュー画面にいたヤツだ。

ひげ面で初老の男で、

下半身は画面から見切れていた気がする。

 俺は無線に応える。


「あのゲームの主役は、

アキレウスだったか?」

「そうだね。

有名なのはアキレウスを育てた師匠。

あと、ヘラクレスも育てたって話だ。

 ヘラクレスの手違いで万死の毒を受けて死んだ。

それ以外では不死の半神だよ。」


 財前が補足する。

何の作品でも、

師匠キャラは基本的にチートだ。

弟子に裏切られて、

ネズミと融合しても最強、とかある。

 だから、

退場する時は弟子をかばったり、

老いや不治の病だったりになる。

 財前が注意を促す。


「ケイローンの神話通りなら、

あんまり有名じゃないかもだけど、

ヤバイ相手かも。」


 藤堂が無線で付け足した。


「財前さん、忘れてますよ。

射手座の狩人は、ケイローンです。」

「超有名だったね。

ごめん。」


 土煙が晴れていく。

穴の真ん中には、

ケイローンが立っていた。

 財前が槍を突き立てた傷も、

俺の一撃を食らった傷も見当たらない。

黒ベースのマーブル模様に変化して、

体格も筋肉質に変わっている。

馬部分は、

見たことがない鎧のようなデザインになり。

左手に短弓を持っている。

 財前が無線に呟いた。


「“見えない壁”を取り込んだ、

と見ていいのかな。

ミタニさんの見解は?」

「正しくは、“元に戻った”みたい。

壁に自分のリソースをつぎ込んでた様ね。

壁を壊されたから、急いでリソースを回収した。

でも、破壊された部分は回収できなかったみたい。」

「こちら、研究所。

我輩は小暮だ。

その話、

とても興味深いがドローンの魔力計が異常値のままだ。

気をつけたまえ。」


 壁がなくなっても、

魔力計の針はレッドゾーンか。

俺は目の前のケイローンへ向き直る。


「動かないな。」

「様子を見てるのかもしれません。

アルジ様、ご注意を。」


 ネルの忠告を受け、

俺は“触手”の身体を作り直す。

ガーネットを覆うように頭を庇い、

ネルとミタニさんを庇うように胸部へも厚く巻き付ける。

 右腕に集めていた“触手”を両腕に巻き直し、

アンカーのようにしていたものも回収する。

四足の“触手”は蛇足に再構築する。


「なんか、櫻葉さんだとラーミアと言うより、

マーラ神っぽいんだよ。」

「なんだろ、それすごい分かります。」


 無線から財前と藤堂のやり取りが聞こえた。

今の俺の見た目の話だろう。

 特に何もイメージしてなかったが、

マーラ神と言われたので俺は腕を五対十本に増やす。

確か、死神と言うか殺人を司る魔王だったか。

取り込んだ外装を武器に見立てて、

増やした腕に持たせた。


「完全にマーラ神。

と、言うか第二形態の魔王マーラだよ。」

「うわぁ、勝てそう。

俺、処刑BGM聞こえてきた。」


 無線から二人の声がした。

目の前のケイローンが俺の変化していく姿を見て、

明らかに警戒を強めている。

さっきまで俺に怯えていた事もあり、

特別俺を警戒してるようだ。

 ケイローンが、短弓を構えた。

俺もいつでも飛びかかれるよう構える。

財前と藤堂も、口をつぐんだ。

 硬直状態が続く。

一分がやけに長く感じる。


 俺がまばたきした瞬間、

ケイローンの姿が消えた。


「瞬間移動だ!」


 財前がそう叫ぶ。

俺の目の前に、矢が唐突に現れた。


 ぽよん。


 だが、矢はスライムヘルムにぶつかり、

弾かれて地面に落ちる。


「矢も瞬間移動させてくるぞ!」


 俺はそう叫びながら、落とした矢を拾った。

矢は手のひらの上で瞬く間に消えていく。


「魔力を固めて矢の形にして飛ばしてる。

ガーネットちゃんの“拳”に近い。

 ネル、私と私たちは防御にまわる。

ネルは皆のバフが途切れないように注意して。

“賢者”はアルジ君のところへ戻って。

ガーネットちゃんは遊撃をよろしく。」


 俺の後頭部と腹部から二つのハンドクラップが聞こえる。

遅れて、

お寿司ーと、言う声が俺の頭の中から聞こえた。


「展開!」


 財前の声が聞こえた。

俺が振り返ると“もや”に包まれた人影が見える。


「皆、いくよ!」


 財前はそう叫んで、“もや”を広げて“濃霧”にする。

財前の“濃霧”にケイローンが呑まれた。


「“陽炎”!」


 財前がそう叫ぶと、

財前の姿が四つに増える。


「“同調”スキルで誰かの“スキル”を借りてるのか。」


 ミタニさんは、俺の呟きを肯定した。

おそらくさっきの救助隊内の誰かの“スキル”だ。

財前はケイローンを翻弄し、

その槍を突き立てようとする。

たが、槍の穂先がふれそうになった途端、

ケイローンの姿は消えた。


「そこ!」


 財前はなにも見ずに槍を投げた。

放たれた槍は、

“霧もや”で中継されてあり得ない角度で曲がる。

死角から襲いかかった槍の穂先がケイローンを掠めた。

 金属と金属が擦れる音がして、

焦げ臭い匂いが立ち込める。

ケイローンも辛うじて回避したと言う感じだった。

槍はまっすぐ財前の手の中へ戻った。

 どうやら、この敵は視覚で周囲を探知している。

分身した様に見えた財前だが、

ミタニさんによると“人の形の霧もや”に自分の姿を映写してただけだ。

ケイローンはそのハリボテに翻弄され、

今も死角からの攻撃に対応が遅れた。

他も何か知覚器官がありそうだが、

おそらく人間と同様に視覚がメインだ。


「財前がどこに仲間を潜ませてるか分からないから、

本気で殴るのは少し控えよう。」


 俺はミタニさんにそう伝えて、財前の助太刀に入る。

だが、ケイローンは既に近接距離での戦闘に強い拒否を示すようになっていた。

今では少し距離を詰めるだけで瞬間移動されてしまう。

 しかも、的確に矢を放ち、

距離を詰めたい俺と財前の行き先に矢じりを置く。

こちらは己から矢じりへ飛び込んでしまうので、

回避が難しい。

 財前の拡げた“霧もや”は、

矢の位置を事前に察知して回避する。

俺はミタニさんと“賢者”のアシストで回避していく。

お陰で俺たちは一定距離からなかなか近づけない。

 俺は腕の外装で矢を払いのけながら、

果敢に飛びかかる。

だが、ケイローンは俺が飛びかかると、

財前が飛びかかった場合より遠くで瞬間移動してしまう。

どうやら俺のグローブの爆発距離を含めて距離を計算されているらしい。

 今着けているグローブは、前の物とは違う。

以前はパンチの反動を吸収して放つグローブだった。

今のは“とにかく熱線を放てるグローブ”になっている。

お陰で弱った俺のパンチでも結構な爆発が起きる。 


「小田さんたち、ヤバすぎだろ。」


 藤堂はそう無線に呟いた。

俺が殴る度、

手榴弾以上の威力の爆発が起きる。

瓦礫が砕けてチリになり、

ガラス片の角は溶けて丸まってしまう。


「俺、要らないかも。

まぁ、戦闘機借りたし。

加勢しよう。」


 藤堂の声が無線から流れた。

声も発言内容もやる気がないが、

やると言ったらやる男だ。

 戦闘機はアクロバティックに飛び回り、

ケイローンへバルカンを放つ。

ケイローンがバルカンを避けた先には財前がいる。

瞬間移動したケイローンを待ち構えていた俺の拳が襲う。

 三人による波状攻撃に、

ケイローンは徐々に押されていく。

だが、目も鼻も口すらない顔には、

変わらず闘志がある。

 突然、ケイローンは何もない空へ向かって矢を放った。


「それ落として!」


 ミタニさんのその声に反応して俺が矢に追いすがる。

だが、矢は突然俺の視界から消え失せた。

ミタニさんが叫ぶ。


「しまった!

“壁”がもうないから!

矢はどこまでも飛べてしまう!」


 俺はミタニさんの言葉を理解した。

突然、離れた場所から爆音と黒煙が立ち上がった。


「非戦闘員を狙い始めた?!」


 財前がそう叫ぶ。

藤堂の舌打ちが無線から聞こえた。

二人とも察したようだ。


「べらぼうに腹が立つな、コイツ。」


 ケイローンの顔は、変わらず俺へ向けられている。

俺はケイローンを睨み付ける。

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