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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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第62話 勇進

 夕日に戦闘機が映える。

映画のワンシーンのようで、とても絵になる。

 俺は繁華街の廃墟に降り立ち、

周囲を見回した。


「敵が見当たらないぞ?」

「油断するな、藤堂。

さっきのやつは姿を消せた。

見えないが、いる。」

「よし、本来の用途とは違うが、

フレアを撒くか。」


 藤堂はそう言い、戦闘機を操る。

俺の周囲を旋回しながら、

戦闘機はフレアを撒き散らす。

朱に燃える火花が辺りに散りばめられた。


「いたな。」

「あぁ、藤堂。

いたぞ。」


 俺から少し離れたところで、

降り注ぐフレアが見えない何かに触れて左右に散る。

 大きさは地上から約六メートル。

姿は見えないが、確かにそこに何かいる。


「ミタニさん、どうなってるか分かるか?」

「光を空間ごと歪めて、

自分に反射しないようにしてる。

これに攻撃しても、

空間ごと曲げてるから当たらない。

 ネルちゃん、ガーネットちゃん、

同じパターンが他に近くにないか調べましょう。」

「動きがないのが不気味だ。

櫻葉、挨拶でもしてみるか?」

「それなら、藤堂。

スライム男より色男の方がいいんじゃないか?」


 俺と藤堂は警戒したまま笑う。

順当に考えれば、この見えないモンスターが斥候か。

巨大だった天馬か的確に俺たちへ太陽光を照射していたのは、

コイツが俺たちの場所を知らせてたためだろう。

 だが、斥候が追跡対象に見つかったなら、

逃げるはずだ。

見えないモンスターは、

フレアが降り終わってもそこにいる。

俺には見えないが、何となく存在を感じる。

 無線から藤堂の声が聞こえた。


「俺たちの攻撃が当たらないから、

逃げる必要がないとか?」

「私と私たちで、演算したけど。

戦闘機のバルカンは当たらないね。

ミサイルは撃ったら逃げられるだろうし。」


 この様子じゃ、俺が殴っても当たりそうにない。

これは、硬直状態か?


「周囲に同じパターンはありません。

と、言いますか、

壁の中のモンスターはこれ一体だけのようです。

 それよりガーネット様、

壁の範囲縮んでません?」

「ネル、貴女もそう思いますか?

徐々に数ミリずつ縮んでる様です。

“賢者”さん、ちょっとこっちに戻ってください。」


“おー寿司。”


 了ー解、のようにそう言って、

俺から離れる“賢者”。

そこまで寿司が楽しみか?

今更だが、彼女に味覚とか触覚とかあるのか?


「……精査完了。

壁の範囲が確実に縮んでますね。

凄く小さい、時速何ミリとかのレベルです。」

「壁で挟んで押し潰そう、と言う感じじゃないな。

全体を縮める理由がわからない。

櫻葉、学校の時の壁の穴は突然閉じたよな?」


 思い返せば、藤堂の言う通り壁の穴は突然閉じた。

今回みたいに二ヵ所も空けてないが、

空いている時間も短かった気がする。

 無線越しに藤堂の声が聞こえる。


「今回は壁が広すぎて壁の穴を速く塞げなかったとか?

今壁全体を縮めて、穴を塞ごうとしている?」

「あり得る。

今私と私たちで穴も見たけど、

確実に穴が小さくなってる。

 カメラのシャッターみたいに、

壁を絞って閉じようとしてる。」


 なら、この動かない敵は恐らく俺たちの見張りか。

俺たちが動かなければ、何もしない。

ただ、また壁に穴を空けようとすれば、

襲ってくるのだろう。


「あり得る考察ですね。

小田様、

ドローンの観測の途中経過を教えてください。」

「ラジャーっス!

端的に言って、

壁の中の物質はまだダンジョン仕様になってないっス!

 壁の内側に取り込んだものを、

作り替えてダンジョンにしてる、と仮説するっス。

今みたいに壁の範囲を縮めるのは、

取り込める質量が減るので、

ダンジョン側は痛手だと思われるっス。」


 この場の物質は、まだダンジョン仕様になってない。

今近くのビルからナイフとか包丁を持ち出しても、

それでモンスターにダメージは与えられないのか。

コンクリートの欠片で殴っても同じだろう。

 一旦取り込まれてから、ダンジョン仕様になる。

それなら、研究所の地下室はどうだ。

ガーネットが魔石を使ってバリアを張り巡らせたら、

ダンジョンになった。

人口の疑似ダンジョン。

 この二つは全く別物?


「後、その見えないモンスターっスけど。

動かないのは、

動いたら迷彩が防御と一緒に解除されるから、って

のもあり得るっスよ?

 空間の歪曲なんて、

かなり高度な演算が必要だと思うし、

エネルギーも大量に消費するだろうし。

 何より動いて自身の座標が変わると、

自分で曲げた空間の迷路に入りそうっス。」


 そう言われてみれば、そう言う見方もあり得る。


「壁の穴を増やしてみるか。

ガーネット、思いきり行こう。」

「お任せください!」


 俺は頭の“触手”をほどく。

そこから、

ガーネットが出てきて藍色のローブを翻した。

 彼女は見えないそれに見せつけるように、

空へ両手をかざす。

オレンジ色の空に、白く輝く魔方陣が展開していく。

 俺と藤堂はあの時のものを見てないが、

すごいことをしているのが分かる。

胸元にいるネルが怯むのも分かる。

ミタニさんも、

ネルをなだめながら苦笑いしている。

 透明なモンスターが、

慌てるのが何となく見える。

 ガーネットの角に黒い炎が灯る。

爆弾へ向かって導火線の火が駆けるように、

地面を覆い尽くさんばかりに広がっていく魔方陣の光。

 透明なモンスターは突然動いた。

まさかの逃げの一手だ。

同時にガーネット以外、全員がそれを追う。


「逃げるとは思わなかったぞ?!

櫻葉!

戦闘機じゃ細かいところまで追えない!」


 まるで積もっていた雪が落ちるように、

透明な何かがモンスターの身体から落ちていき、

その姿が露になる。

 下半身が馬。上半身は人。

ケンタウルスだ。

このダンジョンはSF風の馬がコンセプトか?

 やはり毛のない身体に、

白ベースのマーブル模様。

近くでよく見ると、既視感の謎が解けた。

祭りとかの夜店の水風船みたいだ。

 人の部分は頭部、腕、身体の

シルエットは人間そっくり。

見えるのは後ろ姿だが、どこにも毛はない。

のっぺりした見た目で、

本当にシルエットだけが人間に似ている別の何かだ。


「任せて!

私と私たちでナビする。

アルジ君、速く走って!」


 俺はミタニさんの許可を得たので、

“触手”スーツの足を作り替えた。

 瓦礫だらけの繁華街。

あちこちで建物が倒壊している。

馬の脚では通れない所もある。

だが、多脚では速度がでない。

 藤堂の笑い声が無線から聞こえる。


「櫻葉、お前、それ。

蛇足、てか?」


 俺は胸から下部分を蛇のような芋虫のような、

ミミズのようなものに変えて速度を上げた。

 蛇腹に編んだ“触手”は、

地面に触れたものと触れていないものが同時に別の動きをするよう意識する。

イメージはムカデと蛇の動きだ。

 加速した俺は、ケンタウルスを追い詰める。

ケンタウルスは瓦礫を避けて走るため、

馬の脚の利点が死んでいる。

追い付くのは造作ない。


 俺は手を伸ばし、

ケンタウルスの身体を掴んだ。


 次の瞬間、俺は空を掴んでいた。

ケンタウルスは離れたところにいて、

駆けていく。

 俺は急いで追いかけ、

今度はケンタウルスの前に回り込んで掴みかかる。

 のっぺらぼうの顔、

男性とも女性とも取れない身体。

その細い肩をめがけ、俺は突進した。


 掴んだ。

その瞬間、ケンタウルスの姿は消えた。


「コイツ、

捕まる瞬間にテレポートしてます!

移動距離は、

五十メートルあるかどうかの短距離です!

 ガーネット様、不意打ちに気をつけてください!

ミタニさん、追跡だけでなく、

周囲の索敵も同時にお願いします!」


 ネルが叫んだ。

なるほど、今度は鬼ごっこだな。

 久々にホラーのチェイサー役だ。

俺は張り切ってケンタウルスを追いかけた。

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