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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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第61話 勇壮

 俺は加速した感覚を越える速度で飛ぶ。

コントロールは荒くて良い。

標的がデカイ分、そこは気にしない。

 ただ、思ったより天馬までの距離がある。

天馬が逃げに転じたためか、

天馬の大きさで錯覚したか。

いや、ミタニさんのたちの演算はそんなことで狂わない。


「空間を湾曲させて、到達を遅延させてる!

私の権限で私たちの演算を再構築!

皆、速度が落ちないよう、加速して!」


 俺は地面に残していた“触手”を急いで回収し、

身体を可能な限り小さく、流線型にする。

ガーネットとネルは風の魔法で推進力を足す。


「再演算、完了。

ゆったり曲げられて、

大降りに右カーブさせられてる。

でも、届かない距離じゃない。

 逃げた!

追っかけて!」


 俺たちが遠回りさせられている間に、

天馬が空を駆け出した。


 絶対に逃がさん。


 天馬が悲鳴を上げて駆ける。

俺たちは追尾して、その巨体へめがけて飛ぶ。

六つの水晶は俺たちの速度についてこれず、

攻撃できないようだ。

 ミサイルのような形状の俺たちはさらに加速した。


「質量、速度共に十分です!

アルジ様、衝撃に備えてください!

ネル、衝突と同時に回復を!」


 俺の胸元からハンドクラップが聞こえた。

俺もガーネットへ応える。

 目の前に銀の巨体が迫ってきた。

天馬は悲鳴を上げる。


「今さら怯えても、もう遅い。」


 俺は静かにそう言った。

俺たちは天馬の後ろ足太もも辺りをめがけて、

さらに加速する。


 衝突と同時に被っていた“触手”を開き、

俺は引き絞った拳を天馬へ向けて放った。

 新品のグローブが文字通り火を吹く。

いつかのようなレーザー程ではないが、

白く光る程の爆炎が天馬を焼く。


「追撃です!

ネル!

合わせてください!」


 ガーネットが拳の魔法を放ち、

ネルは風の魔法で天馬のバランスを崩す。

 下半身に重大なダメージを受けた天馬は、

繁華街へ墜ちていく。


「まだまだ!」


 俺は取り込んだ外装をパズルのように組み込み、

“触手”を作り変えた腕にガントレットを構築した。

ガーネットは即座に魔法で俺の足場を作る。

ネルはバフをパワーバフに切り替えた。

 構えは不十分だが、追撃の追撃だ。

派手に叩き込む事にしよう。

俺はガントレットをつけた両腕を鞭のようにしならせ、

天馬を地面へ叩き落とした。

 轟音響き、商業ビルが天馬の下敷きになる。

余波で周りの建物もどんどん倒壊していく。


「不味い。

落下の衝撃に逃げた人たちを巻き込んだか?」

「大丈夫。

私と私たちで墜落地点の安全は確認済みだから。」


 ミタニさんの演算は本当にありがたい。


“私もいますし、お寿司。”


 “賢者”、わかったから。

“賢者”は今俺の中にいて、

ミタニさんの指示を俺でも理解できる形に変換してくれている。

座標とか数字で言われてもわからないから、

視界に印を打ってくれたり、大変助かっている。

 ありがとう、“賢者”。

終わったら寿司を用意しよう。


“アルジ様の握ったのが良いですし、お寿司!”


 さすがに握り寿司は作ったことがない。

三年くらい下積みがいるとか、聞いたが。

いなり寿司か巻き寿司で勘弁してくれるか?


“職人の動きはインプットしたので、

アルジ様のお身体へインストールしますし、お寿司!”


 貴女は本当にチートと呼ばれて良い存在だな。

俺は思わず苦笑いした。

俺が笑った気配を察して、

ガーネットが“賢者”をたしなめる。


「“賢者”さん、アルジ様を困らせないように。

 アルジ様、まだ敵は動きますね。

浮き上がる気配はないですけど。」

「ガーネット様、太陽が大分傾いてきました。

地面からでは、あの太陽光の攻撃は難しいかと。

 別の攻撃が来る可能性が高いので、

バリアを張り直しましょう。」


 なるほど、まだ終わらないか。

俺たちは気を引き締め直す。

 土埃が晴れていき、天馬の姿が見える。

天馬の左後ろ足は太ももの辺りから大きく裂けていた。


「……なんだ、あれ。」


 俺は思わず呟いた。

大きく裂けた天馬の傷口から覗いたのは、

血でも肉でも骨でもない。

 天馬の傷口は、

バイコーンの身体を鮨詰めにしたようなものだった。

全て個々別々に生きているようで、

絶えずうごめいている。

 歌川国芳の小人が集まって人の顔を作ってるの絵とか、

作者は知らないが野菜でできた人の顔の絵みたいな状態だ。

 日が陰り周囲が薄暗くなってきたので、

陰影がはっきりしてかなり異様だ。

ガーネットは冷静に分析する。


「“群体”、とも言えませんね。

どちらかと言うと、

バイコーンは血肉の代わりにされてます。」

「どこかに本体とか、核みたいなのがいるのか?」

「それならダメージを受けたときに、

身体の一部を切り離せばダメージを軽減できるはずです。

 切り離してないので、恐らく、

あのバイコーン全てが核で本体です。」

「一匹残らず潰さなきゃいけないのか。

べらぼうに面倒だ。

リハビリには、重すぎる。」


 俺は地面に突き立てたボウガンを一瞥して、

無線機に向けてオーダーする。


「呉羽さん、

ドローンでボウガンと散らばったアシストスーツを回収してもらえますか?」

「オッケー!

全員回収!

解禁、“収集”!

バイコーンの素材は全部貰えるぜ!」


 無線の向こうで歓声が上がる。

研究所は相変わらずで、ホッとする。


「こちら、藤堂。

さっきからでっかいモンスターが見えるけど、

大丈夫か?」


 無線から藤堂の声も聞こえてきた。


「今デカイのは叩き落とした。

コイツやバイコーンが外に出るかもしれない。

藤堂は穴の付近の警戒を強めてくれ。

後、怪我人が穴に向かってる。

救急車も集めるよう、“防人”に通達を頼む。」

「わかった。

無理そうなら呼んでくれ。

戦闘機が通れる穴さえ開けてくれれば駆けつける。」


 視界の端に戦闘機が見える。

“賢者”によれば、

俺たちは入ってきた穴より北の方へ来たらしい。


「デカイのが起き上がるみたいだ。

俺たちも降りて殴ろう。」


 二つのハンドクラップが聞こえる。

動き出した巨体をめがけて、俺はまた落下していく。

 落下と同時にガントレットでもう一発叩き込む。


「回避!」


 俺はミタニさんの声に反応して翼を拡げ、

急旋回する。

 またガラスを引っ掻いた音が鳴り響く。

俺がさっきいた辺りに、

イワシの魚群のような水晶の群れが通りすぎた。


「今度は水晶をぶつけに来たか。」


 横目で見ると天馬の背中の水晶が四つしかない。

二つ割って飛ばしてるのか。


「ネル、スピードバフを。

ガーネット、バリアを頭部と胴体に絞れ。

ミタニさん、形を変えます。

補助を頼みたい。」


 二つハンドクラップが聞こえた。

ミタニさんは既に演算を終えて、

“賢者”経由で結果を提示してくれている。

 俺は蛇行しながら身体を作り変えて、

水晶の群れへ向き直る。


「これこそ、“触手”の使い方だ。」


 俺は編み上げた両腕の“触手”を

向かってくる水晶の群れに向けて投てきした。

それは見事に開いて、網になる。

 俺は水晶の群れを回避し、

すれ違いざまに網を引き絞った。

“触手”の投網に水晶の群れは一匹残らず捕獲された。

投網に捕らわれた水晶の群れが暴れるが、

俺はそのままの勢いで網を振り回す。

 そして、鉄球のようになったそれを、

思い切り天馬に振り下ろす。

天馬は残りの水晶を盾にして受け止めた。

ガラスが砕け、軋み、引っ掻き、

割れる異音が大音量で響き渡る。


「ガーネット!

捕まえた水晶をボックスの魔法へ収納!」


 “触手”の網の中の水晶の群れが、

ガーネットの魔法で消えた。


「背中の大きい水晶は、

まだ天馬とリンクしてて収納不可でした!」

「十分だ!

ネル、パワーバフを!

ミタニさん、全開で一撃行きます!」


 俺はヒビだらけの水晶をかかげた天馬に向けて、

拳を引き絞る。

天馬はそれに気づいて、

残りの四つの内、二つの水晶を砕いて俺へ向けて飛ばしてきた。


「無駄です!」


 ガーネットは俺を中心にバリアを構築した。

球体のバリアを削るように水晶の群れがぶつかる。


 だが、もう遅い。


 ミタニさんと“賢者”の検査結果では、

俺は本気のパンチを三発打つと体力が底をついてしまう。

今振りかぶったこれは、その一発だ。


“これ、あの時の巨獣のブレスですし、お寿司。”


 振り抜く俺の拳に合わせて、

ガーネットがバリアに穴を開ける。

水晶の群れがその穴に飛び込むが、

俺の拳から放たれた熱気で全て蒸発した。

この穴を通って、

一本の熱線が天馬に向かって行く。

 天馬は残りの大きな水晶を盾にしていたが、

それらも熱線が触れたところから蒸発した。


 驚愕の表情を浮かべた天馬は、

熱線を浴びて消し飛んだ。


 俺のグローブが一瞬で手首まで焦げて散る。

俺はグローブを脱ぎ、

ガーネットにボックスへ格納して貰う。


「対象の消失を確認。

私と私たちで、

周囲を探しても欠片も残ってないよ。」

「ガーネット様、

今のうちにアルジ様のお身体を精査ください。

 アルジ様、回復魔法はさっきかけました。

本気のパンチは念のため後二発にしましょう。」


 俺のうなじに悪寒が走る。

ガーネットの鑑定魔法だ。


「……目立った問題はございませんが、

病み上がりなので急ぎ財前と合流しましょう。」

「藤堂です!

今の何?!

ダンジョンの見えない壁にまた穴空いてるけど、

俺ここから入って良いの?」


 マジか。

俺は殴った方を見ると、

壁の上空に大穴が空いているのが見える。


「こっちに入って貰いましょうか。

藤堂さんなら、色々見られて困らないし。

ネルちゃん、ガーネットちゃんもいい?」


 ミタニさんの問いの答として、

ハンドクラップが二つ聞こえた。

俺はため息をついて、無線機へ応えた。

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