第59話 勇名
“霧もや”に向かって黒い翼で飛翔する。
俺は財前から“触手”の一本を回収して速度を上げた。
数分だが、走るよりやはり早い。
「壁の穴付近に手の空いたハンターが集まってくれてる。
僕もヘリから降りたから、合流しよう。」
無線から聞こえた声に反応して横を見ると、
白い“もや”を飛行機雲のように引きながら飛翔する財前が見えた。
ミサイルのような飛び方だ。
細かい制動はできないようだが、かなりの速度だ。
「私の背中に乗りますか?」
「いや、このまま目的地に降りよう。」
降りていく財前を追って俺も降下する。
財前がいうとおり、
五十人程度の人だかりが見えた。
俺たちはそこへ向かって降り立つ。
誰も彼もが俺たちをみた。
俺はいつもの事だが、
財前はその特異な風貌と死亡の通知も合間って注目を集めている。
財前はいつもの槍を携えて、
白い“もや”の手足でハンターたちに歩み寄る。
「やぁ、皆。
僕はこの通り、
生きてるけど一人では外を歩けない身体だ。
早速で申し訳ないが、今から壁の中へ入る。
皆には僕の手足になってもらうけど、
かまわないかい?」
「ジョークにしては悪趣味ですよ。」
「櫻葉さんがツッコむの、珍しいなー。」
俺たちのやり取りを聞いて、
周りのハンターたちが笑った。
これが財前吾郎。
一瞬でこの場を掌握したようだ。
「簡単に説明すると、
僕と皆で突入する。
しんがりは櫻葉さん。
もし、途中で壁が塞がっても、
櫻葉さんが壁のそばにいたら割れるからね。」
なるほど、ありがたい。
周りのハンターたちは何故か俺を見て何度も頷く。
「しかも、今日の櫻葉さんの見て?
この大きい十字架。
ダンジョン仕様のボウガンだよ。
櫻葉さんしか撃てない特注品だよ。
掩護射撃を見てた人、
あれ、彼があべのハルカスのヘリポートから撃ってたんだよ。
だから、後ろから櫻葉さんのボウガンで露払いしてもらって、
僕らが突入する。
黒川さんや取り残された人を見つけたら、
五人一組に別れて身柄を確保して壁の外へ退避。
救急隊員に引き渡したら、壁の中へ再アッタクする。」
俺はため息をつきながら、
右腕のボウガンを前に出して見せた。
ハンターたちから歓声が上がる。
「後、壁の外には櫻葉さんの仲間が戦闘機に乗って旋回してます。
モンスターが壁から外へ逃げ出しても、
彼が打ち落としてくれる。
戦闘機はダンジョン仕様じゃないけど、
彼の“スキル”でダンジョン仕様の物に変換しています。
チートでしょ?
でも、戦闘機を運転してるのは彼の腕前。
チートはスキルじゃなくて、彼自身だね。」
藤堂のスキルは特別秘密にしていない。
“大和桜”のメンバーは殆ど知ってるほどだ。
それを財前は他のハンターにも説明しながら、
藤堂の名前は出さなかった。
律儀な人だと思うが、
彼がいつもよりたくさん話すのは余裕がない時だ。
黒川も、財前を知らない人だとたくさん話す人見知りと言っていた。
今の状態が恐らくそうだろう。
「財前さん、早く行きましょう。」
「そうだったね。
時間が惜しい。
来てくれる人、挙手!」
その場のハンターの殆ど全員が手を上げた。
挙がらなかったのは怪我人だ。
人数は三十三人。
日本全国でハンターの数が減っているなか、
よく集まったと思う。
財前は周囲の“霧もや”を回収して、
俺の後ろにハンターを集めた。
「櫻葉さん、壁の穴からなにか見える?」
「何もなさそうですが、一発いきましょうか。」
ガーネットとネルに、合図を送る。
ミタニさんと“賢者”が、周囲を探る。
「壁の中は結構な広さです。
こちら側には殆どなにもいません。
ネル、ミタニさんとバフを用意して。」
「わかりました。
アルジ様、ガーネット様、ミタニさん。
行きましょう。」
念話で聞こえる四人のやり取りを確認して、
俺はボウガンを構えた。
周囲の建物や何かに“触手”を伸ばして身体を固定する。
背後のハンターたちから息を飲む気配がした。
「櫻葉さんが撃ったら突入だ。
全員、構え!」
財前の号令でハンターたちが構えた。
俺はこの号令とほぼ同時にボウガンを放つ。
「突入!」
ボウガンの弾が遠くで爆ぜた。
ミタニさんと“賢者”によると、
二頭ほど仕留めたそうだ。
財前を先頭にハンターたちが壁の中へなだれ込む。
俺はボウガンに弾を装填し、
建物から“触手”をほどいてからその最後尾についた。




