第57話 勇役
ヘリは自衛隊の大型ヘリだった。
俺は数十分前の事を思い出しながら、
スタンバイを終える。
ヘリには車椅子を固定され、
青白い顔で乗っている財前がいた。
ガーネットたちは姿を消してついてきている。
やけに青い顔の財前。
確かに無茶振りしたが、そこまで負担だったか。
小田さんに足だけでもなんとかならないか提案してみようと思った。
呉羽さんたちがドローンを発進させる。
ヘリに追従できる高性能ドローンは彼らの謹製だ。
外装も泉屋さんの作った物なのでとんでもなく硬い。
しかも、今日は俺の新装備を積んだものらしい。
「マイクテス、マイクテス。
研究所各位、お兄さん、聞こえてるっスか?」
「聞こえました。
到着まで時間があるんで、
とりあえず、状況を今一度整理します。」
ヘリが飛び上がった。
大阪にダンジョン災害が起きたのは約二時間前。
繁華街をすっぽり覆うように広範囲が見えない壁で囲まれた。
電気や水道が大規模で断絶され、
周囲にも甚大な被害が出ているそうだ。
黒川さんたちは例の吸血鬼の件で近くにいたため、
その現場に派遣された。
「壁の内側に閉じ込められていた人を見て、
黒川さんがいてもたってもいられなくなったのは想像に容易いんだ。
今までは、壁越しに見てることしかできなかったけど、
あのパイルバンカーがあったから……。」
「否定はしません。
偽善とも言いません。
立派な正義感です。
でも、それはそちらだけで完結させてほしいと思う次第です。
道具は確かにうちの提供ですが、
使い方は使用者の責任です。」
「彼女には、よーく言い聞かせておきます。」
ヘリの操縦席のとなりに座った人がこちらに話しかけてきた。
「お話し中失礼します。
同行します“防人”の一陣隊長、里見と申します。」
“防人”は隊を七つに別けて、
日本列島を七当分した範囲を管轄している。
一陣隊は主に近畿を担当している隊だそうだ。
「最新の情報ですが、
モンスターたちは“大和桜”と“防人”のハンターたちが囲って、
食い止めているようです。
ただ、かなりの数がいて押され始めたところ、
黒川さんがほとんどのモンスターを引き連れて壁の中に入っていったと報告がありました。」
財前が、車椅子から落ちそうになるほど狼狽する。
俺は財前を車椅子に押さえて、
隊長さんに続きを促した。
「黒川さんの無事は不明ですが、
お陰でモンスターの数が減ってなんとか一般市民の被害は抑えられています。
今、外に出たモンスターを討伐できしだい、
今も空いている壁の穴から黒川さんの救援へ向かうよう皆動いています。」
ヘリは最速で飛んでおり、
飛行経路も最短距離を行っている。
約四十分程度で到着だが、戦闘時の四十分は長い。
「はい! 研究所っス!
財前さん、
蜃の“霧もや”はどれくらいの広さまで展開できるっスか?」
「え?!
広げるだけなら、半径三十キロくらい。
なにかするなら、半分の十五キロくらい。」
「自衛隊さん、
そのまま飛んであべのハルカスのヘリポート借りることはできるっスか?」
「やります。
そこなら、全速力で二十分ちょっとです。」
小田さんたちがざわざわと話し出す。
「おけーっス!
お兄さん、
一人であべのハルカスに降りてくださいっス!
財前さん、
あーたはそのままヘリで現場近くまで行って霧もや出して現場付近を“霧もや”で覆うっス!」
「しゃっ、ごら!
弾ぁ、用意したぜ!
追加ドローンを出しな!」
「ラジャー!」
泉屋さんが、いつもに増して声を張る。
「言っとくぞ自衛隊!
パーツ一個でも紛失してみろ!
予算が向こう十年は凍結されるからな!」
「厳命しておきます!」
今俺は自分の身体より大きな十字架のようなものを抱えて、
あべのハルカスのヘリポートにいる。
念のためもう一度、作戦を思い返す。
「簡単に説明するっス!
お兄さん、あべのハルカスから狙撃するっス!
財前さん、あーたは“霧もや”でモンスターを探知して、
お兄さんへ報告するっス!
あと、現場のハンターと“同調”して、
狙撃に備えるよう全体に通達するっス!」
「銃があるのか?!」
隊長さんが食いついた。
だが、山口さんが否定する。
「残念だけど、違うんだ。
僕らの火薬は端的に言うと“粒状火薬”だから、
火薬の歴史的に言うと一足飛びで近代的な状態なんだ。
そのお陰とも言えるけど、
威力が出すぎて撃つと銃が壊れるんだ!
弾丸にはまだできないんだよ!」
「でも、“弾を飛ばす”なら、
もっと原始的でいいんだぜ!
ヤマの火薬を弾にして!
打ち出せば、立派な銃だろ!?」
泉屋さんが割って入ってきた。
山口さんが強く否定する。
「だから、泉屋さん!
違うんだよ、それじゃぁ!
銃はね、火薬で弾を飛ばすんだよ!」
「うるせぇ! わかったって!
今送ったのは俺たち謹製の“ボウガン”だぁ!」
ボウガンはダンジョンでは一番ポピュラーな武器の一つだ。
高威力、長射程だが、
本体が大きいため取り回しに癖があることと、
連射ができないのが難点。
「射程は二十五キロメートル、
バレルだけで二メートル以上ある大物っス。
カタパルト付きっスから、もう、バリスタっス。」
「この前の自転車で失敗したタイヤと、
俺が作ったバネで弾ぁ、飛ばす!
弦を引けるのは、人類だとサクだけだ!」
泉屋さんの言うサク、は俺の事だ。
そりゃ、大きいだけ強い弦を使えるが、
引くのに恐ろしく力がいるなら実質的には意味がない代物だ。
多分、“触手”込みで引かなければ、
弦は動かせないとみた。
「後、お兄さんの身体を補助する装備を送ってるっス。
これなら、今のお兄さんでも多少動けるっス!」
今俺の身体はフルプレートアーマのような鎧を付けている。
これは鎧ではなく、パワーアシストスーツらしいので、
着けるではなく、付けるらしい。
ボウガンと同じ小田さんのゴムと、
泉屋さんのバネで身体の動きを補助するスーツだ。
防御力は低いが、動きやすい。
別れる寸前まで青い顔だった財前を心配しながら、
俺はボウガンを構えて霧もやが立ち込める目的地へ向き直る。
「んでもって、ここからは財前さん、
あーたは無茶してもらうっス!」
「い、言った以上、やりますよ!」
あべのハルカスへ向かうヘリの中、
財前が諦めたように頷いていた。
「お兄さんが撃った弾を、
“霧もや”でモンスターまで誘導して打ち込むっス!」
「簡単に言っちゃダメなやつ!」
端的に言えば、
俺が財前の指示にしたがってボウガンから爆薬を放つ。
“霧もや”に弾が入ったら、
財前は建物や人に被害がでないよう“霧もや”で弾を押したり引いたりして微調節し、
モンスターへ向けて誘導する。
「お兄さんの身体が本来のタフネスを発揮できない以上、
ボウガンでの遠距離攻撃が精一杯っス。
近接は財前さんが頑張るっス。」
「ぶっつけ本番だよ!?
下手したら、フレンドリーファイアじゃん!」
さすがに、財前の言うことの方が分がある。
俺は財前のフォローをした。
「小田さん、さすがにいきなりは無理では?」
「大丈夫っス。
財前さんが“同調”で、お兄さんと繋がるっス!」
「距離的に無理だよ!
“霧もや”で身体に触れてる人としか、
“同調”できないからね!?」
あべのハルカスから、現場まで約十二キロ。
ダンジョン災害はいびつな楕円形で、
しかも、広域に広がっているらしい。
端まで行くとなると約二十キロある。
財前の“霧もや”の展開範囲が十五キロなら、
ギリギリ届かない。
「二十キロ広げて、頑張れっス!」
「できなくないけど、制度が低くなるんだよ。
だから、そんな……。」
「私の身体なら一部でも良いのですか?」
俺は財前に問う。
「うん、一部でいいよ。」
「私の“触手”の最長距離が四キロ。
ただし、そこまで伸ばすと筋力か足りないから、
ピクリとも動かせない。
“霧もや”で“触手”を掴んでいられるなら、
それだけの長さを足せます。」
空に向かって延びる一本の“触手”。
その端は財前が“霧もや”で掴んでいた。
財前はヘリから“霧もや”を展開しながら、
スキルの“同調”を開始した。
「行けたかな?
櫻葉さん、どう?」
「問題ありません。
では、最終段階に移ります。」
俺はスライムヘルムを被り、
“触手”で身体を包み込む。
回りにいる“防人”の隊員にバレないよう、
姿を消していたガーネットたちは俺の触手スーツの中に入った。
「お兄さんの身体が完全じゃないなら、
あの時みたく合体すりゃぁ、いーんっスよ!
ついでにボウガンも取り込んで、
武装合体っス!」
俺の姿が角が生えた一つ目の巨人になっていく。
右腕には十字架がはまっており、
錨のように、停留ロープのように触手をヘリポートのあちこちに巻き付けて身体を固定した。
「私と私たちで演算した角度で撃てば、
外すことはないよ。」
“私もいますですし、お寿司。”
二人の賢者が笑って言う。
心強い限りだ。
「じゃあ、僕の補正は小さくて済むのかな?」
「状況次第だから、怠けないでね?」
「ミタニさんって、ハッキリ言うよね……。」
財前が肩を落として用意を進める。
「さぁて!
大阪の皆、後“防人”の人たち、
突然ごめんね。
財前です。
今視界を遮ってる“霧もや”は僕のスキルのせいだから、
安心して。
この霧に触れていれば、僕の声が聞こえるから。
今から掩護射撃が来るよ。
僕が合図したら、全員敵から離れて伏せてね!」
さて、初撃は数が多いところからだ。
財前が寄越す情報だと、
壁の外にいるモンスターは五体。
どのモンスターも馬のような見た目で、
角が二本生えている。
他のダンジョンにも出てくるバイコーンの亜種らしい。
普通のバイコーンと違って、
五メートル以上の巨体で顔がない。
のっぺらぼうの額に二本の角が生えていて、
身体に毛はない。
青ベースのマーブル模様の身体は宇宙人的な、
近未来的なSF感がある。
「頭を狙います。
着弾したら火薬が破裂して弾の中の小さい弾がさらに打ち出される、
条約ガン無視の榴弾だそうです。
着弾時に近くにいると巻き添えを食いますので、
ご注意を。」
「皆、今の聞こえたかな?!
櫻葉さんが攻撃するから、
逃げてって言ったら絶対逃げね!!」
財前が必死にハンターたちに説明しているが、
俺は既に発射体制だ。
「角度、方向よし。」
「皆、伏せて!」
俺は一撃目を撃ち出した。




