第56話 勇気
リハビリは相変わらず、目立った成果はない。
装備は小田さんいわく、
身体を戻してからがいいとのこと。
俺はもうかなりの間ダンジョンへ行けていない。
行きたいと思う反面、
以前より今の方が危険であるとも感じている。
いざというときうまく動けるよう、
研究所の疑似ダンジョンで鍛練は欠かさないが、
以前より身体がうまく動かない。
「おかしいっスねぇ。
身体能力は“ステータス”であがったのに、
動いてみると以前のようなキレがないっス。
順当に考えれば、
身体能力があがった分キレもよくなるはずっス。」
「これ、“ステータス”の弊害の一つかも知れません。」
「我輩は魔力計を見ていたが、
動く度そこそこの魔力が発散されている。」
「ヘイ!
今の観測データ、
簡素にまとめた概略渡すぜ!」
「ダンベルの新作できたぞ!
早速試そうぜ!?」
小田さんたちも、
この状態はおかしいと判断している。
確かに疲れないし思った通りに身体が動くのに、
結果的にうまくいかない。
俺は感じた違和感を小田さんたちへ伝えて、
また計測を始める。
「“鑑定”結果は問題ないのに、本人には違和感がある。
魔法でも観測できないのが、疑問です。
ネル、ミタニ様、そっちはどうでしょうか?」
「観測できないね。
何か、上部だけ見せられてる感じかも。
ネルちゃん、“賢者”さんはどう?」
「私でもダメでした。
“賢者”さん、なんで今日は私の中なんですか?
ミターニャと二馬力なら、何かあるかも?
結果はいかがでしたか?
上部だけ、は言いえて妙?」
議論は白熱するが、
成果はまだない。
こればかりは気長に行くしかない。
焦りがないというと嘘だが、
仕方がないと強く思う。
激戦を生き延びたその代償、と考えれば、
むしろ安い。
「え。
アルジ様、“賢者”さんが嫌な予感がする、と
おっしゃってます!」
「全員警戒。
ネル、ミタニさん、周囲を探知。
ガーネット、戦闘態勢。
小田さん、なんでもいいんで、装備をください。」
全員が一斉に動き出す。
俺は小田さんからマントとグローブを受け取り、
身に付けて念のためドゥティを巻いた。
呉羽さんたちがドローンを用意して飛ばす。
小暮さんが魔力計を出して周囲を調べだした。
泉屋さんは例の小盾を俺に渡し、
山口さんは爆弾を俺に手渡した。
ちゃっかりというか、
緒方さんは他の人たちとサンプル採取セットを用意している。
いやいや、何採取しようとしてるの。
避難してください。
そこへ、電話が鳴り出した。
研究所の固定電話だ。
これは嫌な予感がする。
「……周囲には何もありません。
ミタニさん、どうでした?」
「何もないよ。
ネルちゃん、“賢者”は何か言ってる?」
「あ、ガーネット様に帰るって。」
「今私のところへ来ましたね。
ん?
電話は取って?」
全員が、なぜか俺を見る。
俺は仕方なく受話器をとり、耳に当てた。
「助けて!」
嫌な第一声から始まった。
財前の声だ。
「落ち着いて。」
「今すぐ大阪に!
僕を解剖していいから!」
「黒川さんが何かしたんですね?」
財前の慌てようから、なんとなく推測できた。
今から大阪にか。
どんなに急いでも二時間以上かかる。
「ヘリ!
ヘリ用意したよ!
だから、早く!」
財前がここまであわてふためくので、
かなり厄介なことが起きたと見ていい。
「落ち着いて。
何があったか教えてください。」
「モンスターパレードだよ!」
そら見たことか、と
言いかけて俺は急いで飲み込んだ。
「ダンジョン災害が起きたんだ!
黒川さん、
あのパイルバンカーで壁、壊しちゃって!
でも、櫻葉さんの時と違って、
先にモンスター倒してなかったから!
モンスターが外に出てきてしまったんだ!」
なるほど、これは厄介だ。
「僕もヘリで行くから!
一緒に来て!」
個人的には行きたくない。
面倒な割になんの実入りもないし、
今の身体で出せるパフォーマンスでは無茶はできない。
俺は正直に言う事にした。
「この前の戦闘のリハビリがまだ終わってません。
日常生活は問題ありませんが、
ハンターとして以前と同じことは無理です。」
「え!?」
財前が更に狼狽える。
「なん、なんとか!
僕はなんでもする!」
言質を採った。
俺たちは互いに目を合わせて頷く。
「言いましたね。
なんでも、してもらいますよ。
底辺の動画配信者みたいに。」
「嘘?!」
研究所の職員共々、俺たちは笑う。
「悪いようにはしませんよ。
とりあえず、合流しましょうか。」
財前の悲鳴がこだました。




