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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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閑話“無謀”

 私は現場に“スキル”で駆けつけた。

大阪に吸血鬼の噂の調査に来たが、

運悪くダンジョン災害が近くで起きるとか。

とにかく、急いで現場に駆けつけた。

 場所は繁華街の真ん中。

私も街ブラ系の番組で通ったことがある場所だ。

有名なカニの看板を横目に、現場を確認した。

 広い。

かなりの広さが見えない壁で覆われている。

先に現場を包囲していた“防人”の隊員と、

うちのメンバーに話しかける。


「状況は?」

「黒川さん!

不味いです。

休日の繁華街のど真ん中。

何人閉じ込められたか不明です。

 形はいびつな楕円形で、

一番広いところは直径十キロあります。

 しかも、電線や水道をここで切られてしまって、

周囲も停電、断水。

被害は甚大かと。」


 もしかすると、と思い私は訊ねた。


「ハンターは中にいる?」

「わかりません。

たくさんの人が閉じ込められたことは、確かですが。

 いつかのように、中で戦ってくれる人がいれば。」


 わかっていた。

そんな都合のいいことなど、何度も起きやしない。

でも、すがってしまう。


 櫻葉さんが中にいれば。


 私は頭を振ってその考えを振り落とす。


「“壁”はどこが一番近い?」

「黒川さん、今から行くんですか?」

「何もできないのは、わかってるけど。

行かないと気が済まないの。」


 私は彼らが指差した方へ歩きだした。

周囲は既にハンターや救急車、

警官たちが慌ただしく駆け回っている。

 以前はダンジョン災害が起きた場合、

“大和桜”のメンバーだけ派遣され、

壁の内側で死んでいく人たちを目視して

顔と名前を調べるだけだった。

 櫻葉さんが壁を壊して脱出してから、

ダンジョン災害時の対応が変わった。


「調子が良いこと。」


 私は思わずそう呟いた。

辛かった。

助けを求めて死んでいく人たちを、

ただただ眺めるのは、辛かった。

 そんな役割を押し付けられても、

壁の内側の人たちのために、と

財前は欠かさずこの任務を受けて参加していた。


「黒川さん!」


 誰かに声をかけられた。

そちらを見やると、

壁に集まっている人だかりが見えた。

 駆け寄ってみると、

壁の内側に人が集まっていた。

皆、見えない壁を叩いて必死に助けを求めている。

外側に集まったハンターたちは、

必死に壁へ攻撃しているがびくともしない。


「あの!

自分でも酷いこと言ってる自覚がありますが!

櫻葉さんを呼べませんか?!」


 壁の近くの一人が私に向かってそう叫んだ。

壁に集まってる全員が、私を見る。

 今までは壁は壊れないものだった。

だが、今は壊せてしまった。

壊せてしまったからには、

壁の内側に残された人々をこのままにするのは

“見殺し”したことになる。

 誰も彼も、悲痛な顔で、

呼んではいけないと知りつつも、

櫻葉さんの名を挙げる。


 彼は決してヒーローではい。

 彼は一人で、ただのハンターだ。


 しかも、ここは大阪。

彼の住む所からとても離れている。

今呼べたとしても、

ここにくるまで数時間はかかる。


“このパイルバンカーは、

彼があの壁を壊したときと同じ威力がでる。”


 私はこれをうまく使いこなせていない。

圧倒的にウエイトが足りない。

筋力もないので威力標的に伝わらず、

周りに散る。

 試しに彼の真似をしてスライムを殴ってみた。

素手でスライムを倒すには、

見た目以上に高等な技が必要だった。

ダメージがしっかり通らないと、

軟体は倒せない。

 このパイルバンカーも同じだ。

どんなに高威力でも相手に攻撃が通らないと意味がない。


 でも!


「離れて!

中の人も離れて!」


 やる!


 私の声を聞いてか、周りの人が道を開けた。

私は壁から少し離れたところから助走をつける。

 皆で合体したとき、

ミタニさんに教わった最高率の加速方法。

動きの初動だけ加速する方法。

だが、筋力がないのでスキルを解除した途端、

バランスを崩して地面に自分を叩きつけてしまう。


「行ける、行ける、行ける!」


 加速、解除、加速を交互に繰り返し、

私は自分の身体をレールガンの弾丸のように打ち出す。

全身でパイルバンカーの箱を壁に向けて付きだし、

杭を放った。


 轟音が鳴り響き、目の前が真っ白になる。


 私はいつの間にか仰向けに倒れこんでいた。

ガバッと起き上がり、急いで壁を見た。


 壁にはぽっかり穴が空いていた。

 人一人通れるくらいの大きさだが、

壁には穴が空いていた。


「早くこっちに!

塞がる前に早く!」


 私は出せるだけの大声をだした。

壁の内側に閉じ込められていた人たちが穴に駆け込み、

次々に外へ出てくる。

 救急隊員にこっちに人と救急車を回すよう指示を出した。


 やった!

 やったんだ!


 私はやったんだ!

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