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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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閑話“激情”

 気づいたら、自室だった。

相変わらず簀巻きのままだけど。

私はため息をついて、辺りを見回した。


「なんでもあるのに、

なんにもないなぁ。」


 溢れた言葉に自嘲する。

この部屋には私の好きなものが沢山ある。

可愛い服、素敵な靴、煌びやかなアクセサリー。

甘いものの特集が組まれた雑誌や、

ハンターの情報誌。

 でも、ここにはない。

私を強くするものが一つもない。


「……強くならなきゃ。」


 自分に言い聞かせるように呟いた。

もう嫌だ。なにもできないのは、嫌だ。


 死んだ。

 ゴミのように、コンバインで刈られた草のように。

 目の前で、親しい仲間たちが。


 夢に見るのは、あのときの光景。

掴んだ自分の腕が崩れて行き、

掴んだ仲間も崩れ落ちていく。

 私が強ければ、ああならならかった。

私がもっと強ければ、吾郎もあんな風にならなかった。

私が、彼くらい強ければ。

 私があらゆるコネを駆使して調べあげた彼の功績。

その中には、耳を疑うようなものもある。

ガーネットちゃんの魔法もあるだろうが、

魔法よりそれを使いこなす彼の方が凄い。

 パイルバンカーのテストの時に、

ネルちゃんに頼んでバフを体験した。

地面に倒れ込んで、全く立てなかった。

 力が強すぎて加減がわからない。

いつも無意識にしていた動作すらうまくいかない。

軽く動くことすら、ままならない。

腕に力をいれたら、そのまま全身がはね上がった。

足に力をいれたら、おでこを地面に擦ってしまう。

 これで、戦闘するのだ。

いつも通りに動くだけじゃない。

戦闘だ。殺し合いだ。

しかも、ポーション事件のとき私たちを助けた彼の腕は、

とっさだったと言うのに私たちを握りつぶさない程度に加減されていた。

 どれほどの研鑽がいるのだろう。

どれほどの鍛練がいるのだろう。

超常の力を、己の力にするためには。

 ガーネットちゃんも攻撃できるが、

彼と肩を並べられたのは魔王になってかららしい。

それまではずっとサポートだけだと言う。

 例の動画の学校のときの彼は、

バフをかけられただけであの虫の群れを全滅させた。

あの巨大なボスを倒した。

ダンジョンの見えない壁を破壊した。


 私もそれができれば、

仲間は助かったかもしれない。


 あの日あのとき、それだけの力があれば。

私にも力があれば。

簀巻きのこの現状すらどうにもできない、

貧弱な身体。

 今までも仲間との別れは何度も体験していた。

でも、今回は違う。

私には力があった。

助ける力があったはずなんだ。


 でも、誰も助からなかった。


 吾郎が満身創痍で助けた仲間たち。

その四肢と引き換えに皆は無傷だった。

助かった仲間たちは、吾郎を尊敬。

いや、崇拝している。

 せめて、吾郎と肩を並べて戦えれば、

仲間たちはもう少し助かった。

せめて、この“スキル”を使いこなせていれば、

もう少し助かったと感じる。


「端的に言えば走ってる間、

あーたはブラックホールになってるっス。」


 小田さんに言われたこの一言。

つまり、私が本気を出せれば誰にも負けない。

ただ、地球ごと全て消し飛ばす。

 加減ができないのは、使えないのと同義だ。

こんな凄い“スキル”でも、何にもならない。

 スーツのデザインをシンプルにまとめて速さを追求した。

鍛練も欠かさない。

スキルレベルが上がり、“韋駄天Ⅱ”となった。

効果は変わらず、

安全に連続使用できる時間が延びたらしい。


 それでも、足りない。


 今もあのときの仲間たちは私を見ている。

見つめられている。


 なら、どうする?


 私はなれる。

どんな役にでも。

そうだ、そうだった。


 私は、女優。


 なればいい。

彼(最強)になればいい。

そう求められている。

皆に、皆に、求められている。


 だから、この感覚は、感情は、記憶は絶対手放さない。

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