表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/143

閑話“悲哀”

 家に帰って、

車椅子を室内用に乗り換える。

普通の人ならヘルパーか家族の手伝いが必要だが、

僕は“もや”を使って一瞬だ。

 “もや”は長時間の連続使用ができない。

根本から失った手足の代わりをさせるのに、

せいぜい十分。

戦闘になれば、三分が限界だ。

 代償は体力と魔力。

そう、僕は人でなくなった代わりに、

欲していた魔力を得た。

だが、ガーネットちゃんやネルちゃんのようには使えない。

使いたいが、そうすると“もや”が維持できない。

 今の僕は、右の顔が丸きりなくなっている。

骨が露出し、眼球はむき出し。

唇もないので、歯が露出している。

“もや”はそれらをカバーし、顔の代わりをしている。

 それがなくなると、かなり辛い。

瞬きができないため、眼球が乾く。

肉がないので目をうまく動かせず、ろくに見えない。

口はカラカラに乾いて呼吸がうまくできず。

むき出しの骨はわずかな揺れも、風も、

自分の呼吸の振動すら伝えて激しく痛む。

 それらを寝ている間もカバーするのは、

やはり超常の力なんだろうと感じる。

感じるが、それでは足りない。

まだ、足りない。

 鏡に映る自分の姿は今も慣れない。

自分が車椅子を動かしている姿。

しかも、手足はない。

 手洗い、うがいも“もや”を手の代わりにしてこなす。

文字通り手足のように自由に使える。

それのお陰か、幻視痛等の後遺症もかなり軽い。

 “もや”で消費される魔力は、

睡眠と食事によって補充される。

理屈は不明だが、

甘いもの、辛いものの方が回復量が多いらしい。

 僕は冷蔵庫からチョコレートを取り出して、

口へ放り込んだ。

一人でシャワーを浴びる前には、

必ずこうして魔力を補給しなければならない。

 他のメンバーにヘルパーを雇うよう言われたが、

この身体の事情を加味してくれる人がいない。

いたとしても、多分あの研究所の所員だ。

 例え、高額の報酬を提示しても来てくれない。

でも、僕の身体の観察ってことにすれば来てくれそう。

解剖とか治験とセットだと思うけど。

 シャワーも時間が短くて済む。

洗える部位が少ないからだ。

僕はタオルで自分の身体を拭い、

ドライヤーで髪を乾かす。

 鏡に映るのは白い“もや”を手足に見立てて歩く自分の姿だ。

この姿には違和感を感じなくなってきた。


「それでいいのか?」


 僕の右耳から、声がする。

僕は眉間にシワを寄せ、右の顔を睨み付けた。


「今のお前は最強だ。

お前の思い描いていたハンターだ。

なのに、こんなところで何をしている?」


 幻聴だ、と理解しているが、

その声は間違いなく僕の声だ。

“勇者”に乗っ取られていた時の僕の声だ。


「“同調”でリンクした他のハンターのスキルが使える。

つまり、お前は無限のスキルを持っている。

どんな敵も、お前の前ではカカシになるんだ。」


 実は、僕は乗っ取られている間も意識はあった。

記憶もあった。

でも、仲間を生かすため、それだけに全てを注力していた。

そのせいで、数万の人が殺された。


「違うな。

お前が殺したんだろ?」


 黙れよ。


「黙る?

何を言ってるのか、分からねぇな。

事実だろ?

 そのせいで、住民を皆殺しにして、

その上櫻葉たちにも迷惑をかけた。

櫻葉のスキルを根こそぎ破壊した。

お前の選択が、そうした。」


 魔王が僕の身体を奪ったとき、

僕は従魔にした蜃を使って重傷の仲間たちを助けていた。

 そこで魔王は、言葉巧みに。


「仲間を助けたいか?」


 そう言われた。

僕に仲間を見捨てる選択はできなかった。

彼女に二度と見捨てないと、誓ったから。


「それこそ、幼馴染みを理由にした言い訳だろ?

お前はついでに魔王も従魔にしようと企んでいた。

ポーチにあった、二枚目の契約書で。」


 その通り、従魔契約書は二枚あった。

僕自身、自分が片付け下手で良かったと初めて思った。

その最後の一枚に、

魔王が触れたとたん契約されるよう僕のもやをポーチの中に潜めて待っていた。


「お前は仲間を、幼馴染みを言い訳にして、

力を求めた。

櫻葉のような、何者にも縛られない力を。

 その結果どうなった?

魔王を従えようとして、どうなった?」


 そう、その結果、見せつけられた。


「何を?」


 格の違い。

いや、そもそも立ってる土俵の違いだな。


「あぁ?」


 お前こそ見ただろ?

スキルも体力もない。

精神力もギリギリで、

でも、立ち上がり拳を握る彼の姿を。

 超常の力を、スキルを失って、

人はどうなると思う?

僕は間違いなく狼狽するし、心が折れる。

 でも、彼は違う。

“往く”と、言いきった。

前へ、敵へ向かって、往くと。

僕が例えば彼の身体で、彼のスキルがあって、

あの状況になってたら、間違いなく逃げ出してる。

 僕は声に出して言う。


「冗談だろ?

“無限のスキル”?

バカ言え。

そんなもの、チートとは言わない。

“おみそ”とか、“ごまめ”だ。

 “ハンディキャップ”ですらない。

“タグアロング”なんて、無様すぎる。」


 右目が怪しく、紅く光る。


「あれには凄い装備がある。」

「あの装備は彼が万全であって使えるものだ。

あの極限ではあってないような代物だよ?

 僕なら知ってるだろ?

あのグローブだって、

火炎が出るのはスキルありきの効果だ。

 マントとスーツもだ。

スキルがあって初めて成り立つ効果だ。

足の新しいブーツも後から聞いた限り、

ただの丈夫なスパイクだし。」


 紅い瞳は憎らしげに僕を見つめる。


「チートも武器もなにもない。

むき出しの人間が化物と対峙して、

とれる選択肢は基本二つしかない。

逃走か諦観だ。

 それでもなお、

立ち向かえるのが本物のヒーローなんだよ。

それこそ、僕の思い描いたハンターの姿だ。

お前の言うプランに、なんの魅力も感じないね。」


 紅い瞳は目を細めた。


「じゃぁ、お前こそ、何故俺の事を誰にも話さない?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ