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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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第32話 獣道

 ダンジョンに入ると、広大な草原が広がっていた。

遠くに山があり、森も見える。

俺は大和桜が用意したマップを見る。

 ここはいつも通うダンジョンと違って、

上下で階層が分かれていない。

横に広大なダンジョンで、

出入り口を中心に一部だけ調査されている。

調査済みの地域を“踏破区域”、

未調査地域を“未踏破区域”と呼ぶ。

また、未踏破区域の側の踏破区域を“深域”と呼ぶ。


「このダンジョンの特性は、

扉を潜ると草原の真ん中に出ることと、

空があり、太陽があり。

時間によって日が暮れ、また昇ることです。

 モンスターは時間によって特殊行動をするものもいるので、

夜間のアタックは推奨されていません。

朝から夕方頃までを目処に日帰りでアタックすることが、

最良とされています。」


 草原の真ん中に扉がちょん、と置いてある。

ここから入って来たのか。

広大でも出口もここだけなら、管理は容易い。


「夜間の見回りの場合は、

必ず暗視ゴーグルを使い、

松明やライト等の明かりは持たないように。

夜間のモンスターは、

光に過敏に反応して襲いかかります。」


 ガーネットとネルが周囲を熱探知や魔力探知で探る。


「この扉をモンスターが潜ることは今までなかったのですが、

万が一のためご用心ください。

 後、扉の周囲も安地ではありません。

普通にモンスターが襲ってきます。

扉を入った途端、待ち伏せに襲われることも

よくあります。

逆に帰りを扉の前で待ち伏せされることもあります。」


 大和桜の若手と紹介された六人が武器を構えて周囲を警戒する。

俺もスライムヘルムを被る。

財前も俺も武装しており、

武器こそ構えないが警戒は怠らない。

 俺はいつものスーツの胸の穴を鉄板で塞いだものを着ている。

小田さん曰く、

大和桜からもらったドロップアイテムの鉄板なので、

小さいながら頑強だと。

ただ、神装は装着せず、鐵鎖も引っ込めてある。

緊急時は使うが、可能な限り役人たちに見せたくない。

 スライムが俺の頭を包む。

何故か歓声がわく。


「いやぁ、やっぱり櫻葉さんはそれを着けてると絵になりますね。」


 財前がそう言うが、俺としては腑に落ちない。


「僕の槍なんて、見た目はただの鉄の棒ですからね。

そのヘルム位インパクトが欲しいです。」

「なんでも貫く槍でしょう。

それなら、そっちの方が価値は高い。」

「なんでも、なんて無理ですよ。

矛先が固いだけで、

貫けるかどうかは僕の技術と腕力次第。

ホント、嫌になる。」


 財前のため息は、

ポーション事件の時の事を思い出してのものだろうか。


「黒川さんはいーなー。

櫻葉さんのところ(研究所)の装備が使えるんでしょ?」

「財前さんは、既に大企業と契約済みでしょう。

その装備一式で土地付きマンションが一棟買えるくらいの高級品だと聞きますが。」

「この前の事件で、委員会と繋がってた企業でした。

すぐに契約解消したいんですけど、ごねられて……。」


 色々あるのか。

俺はため息をつく財前を無視して、

早く進むよう促した。

財前がごねるが、俺はスルーする。


「では、皆、よろしく。」


 財前がそう言うと、

若手の六人は見学の俺たちより先行して進む。


「ざっくりとした解説ですが、

このチームは前衛三名、後衛三名の構成です。

アタッカーは後衛の大弓を構えた彼です。

前衛は索敵と、盾や槍での壁役です。」


 前衛は望遠鏡や地図を見ながら、

後衛はいつでも攻撃できるよう矢をつがえて構えている。

アタッカーと紹介されたハンターは、

和弓の大きなものを構えている。


「アルジ様、進行方向から九時の方向に敵です。」


 ガーネットが耳打ちしてくれる。

俺が緩く構えると、

財前が気づいて自分の槍に手を置いた。


「モンスターだ。

数は四。“ホイール”だ。」


 前衛の望遠鏡がモンスターを見つけたようだ。

ホイールとは、モンスターの名前だ。

大体のモンスターはゲームや物語の化け物に似ているため、

その名前を流用される。

ただ、当てはまるものがない場合は、

その見た目の形状に合わせた名前がつけられる。

 斜め左前方から

高速で回転する円形のモンスターが

一直線に駆け寄ってきた。

ホイールはタイヤのような形のモンスターで、

見た目が醜悪な部類に入る。

土埃と返り血で汚れた円形の肉の固まりに、

目玉らしき球体の器官がいくつも付いている。

口や鼻は見当たらず、体当たりで攻撃する。

 アタッカーの和弓が唸った。

矢はホイールの一体を貫き、仕留める。

前衛は後衛とモンスターの間に立ち、盾と槍を構えた。

後衛はどんどん矢を放つ。

モンスターの数がどんどん減るが、一体討ち漏らした。

前衛は体当たりを盾で受け流し、

槍を突いて対応するがホイールの方が早く槍が掠りもしない。

前衛がモンスターと肉薄したため、

後衛が攻撃できなくなる。

 前衛がいなしそびれたホイールが、

俺の方へ向かってきた。

ガーネットがすかさずパワーバフをかけてくれる。

俺はスナップを効かせたジャブを打つ。

ホイールすれすれに小さな爆炎が上がった。

ホイールが異常に怯えて無理矢理方向を変える。

そこに、和弓からの矢が放たれ、

最後のホイールは討伐された。


「……ホイールって、怖がるんだ。」


 財前が呟いた。

他の人たちも俺を見ている。


「ホイールは火に弱いって資料作ったのは、

貴方のクランでしょう。」

「ダンジョン仕様の松明を燃やして押し付けたら、

効果アリだったってこと。

でも、ホイールがあんな金切り声を上げて

怯えることはなかったよ?!」


 財前の敬語が崩れる。


「あれかな、火力が高いと怯えて近寄らないのかな。

火炎放射器並みだもん。」

「本気じゃないパンチでですからね。」

「本気だと、高層ビルが半分消し飛ぶからね。

火炎っていうか、ロケットエンジンだよ。」


 俺と財前のやり取りを見ていた見学者がおずおずと質問する。


「それは、櫻葉さんのスキルですか?」

「いいえ。装備の効果です。」

「ドロップアイテム、ですか?」

「いいえ。うちの研究員(オタク)の作品です。」


 見学者たちがざわめく。

若手のハンター達が色めき立つ。

和弓のハンターが声を上げる。


「その装備、販売の予定はありますか?!」

「黒川さんのテスト次第です。」

「え!?

黒川さん、テスター契約したって話、

櫻葉さんのところのこと?!」

「あー、僕言わなかったのに。

言っちゃったー。」


 財前が頭を抱える。


「クラマス!

俺たちも櫻葉さんのところと契約したいです!」

「櫻葉さんの許可無しでは無理だからね。」


 財前が横目で俺を見る。

クラン•マスターの略でクラマスか。

俺は瞳を輝かせる若手のハンター達に言う。


「今、新規テスターは募集してません。

クランを立ち上げる予定もないですからね。」

「テスターの募集あったら、

真っ先にクラマスの僕が行くからね!

皆は後だよ!」

「クラマス、さすがにない!」

「そうだ、そうだ!」

「横暴!」

「今こそ権力の使いどころだから!

そんな戯言、聞く耳持たん!」


 防衛省の代表が割り込んできた。


「あの、今回の警備隊の装備候補に上げても良いでしょうか?」

「さっきもお伝えした通り、

まだテスト段階ですので無理です。」

「いや、今の威力を見たら……。」

「私だから火が出るので、

財前さんが試すとまた違いますから。」


 俺は簡単に仕組みを説明する。

パンチの反動や衝撃を吸収して、

熱に変換し追撃として拳から放つ。

なので、普通のハンターなら殴った相手が

火傷を負う程度のはずだ。


「威力、十分だから!」


 財前が叫んだ。

聞いていた全員が頷く。

俺としては誰でも俺のバフありのジャブくらいの爆発を起こせて、

爆風があまり広がらないのが理想なのだが。


「黒川さんもそれ使うんですか?」

「黒川さんのスキルとか、

要望に合わせるのでまだ未定です。」

「販売する場合、どういう形をとりますか?」

「研究主任と話してるのは、

槍のような長い棒の両端に火が出るよう仕込みたいと考えています。

棒術なら、

腕力がなくても遠心力で威力が補えるはずなので。」


 歩きながら話す。

若手のハンターたちは警戒を怠らないが、

耳がこっちに向けられている。

これじゃ、うちの商品のプレゼンだ。


「アルジ様、さっきと同じモンスターが、

進行方向の三時方向から来ます。

数は八です。」

「あ、アルジ様。一体、大きい、身体です。

ボスではないと思いますが、ご用心ください。」


 ガーネットとネルが耳打ちしてくれる。

大きな四つの乳房が両肩の上に乗る。

柔らかいが、結構重い。

こんなもの常に付けていたら、動くのも億劫だろう。


「あー、皆様。

三時の方向から敵です。

ホイールみたいですが、

そのうちの一体は少し身体が大きいみたいです。」


 俺は財前に念のため槍を抜いておくよう伝える。

財前は、頷いて槍を手に構える。

若手のハンターたちも、三時の方向を注意深く探る。


「こんな時に聞くのは間違ってるかもしれませんが、

なんでわかったんですか?」


 防衛省の代表が俺に問う。


「地面の揺れ、振動です。

屈んで手を地面につけると分かりやすいかと。」


 それを聞いた若手の一人が屈みこんで地面に手を付いた。

何か感じたみたいで、他の五人に共有している。


「なんか、揺れてる。

トラックが来るときとかの感じかな。」


 そうこうしているうちに、ホイールが視界に入る。

ガーネットとネルが言う通り、数は八。

一番後ろに、

他の個体よりふた回り位大きなホイールがいた。

 若手のハンターたちは、先程と同じ陣形をとる。

今度は矢を放つ際、

あえてホイールの進行を塞ぐよう地面へ打ち込んでいる。

誘導されたホイールは、和弓の一矢に貫かれて倒れる。

前衛がいる近接距離まで近づかせないつもりか。

あっという間に大きなホイール以外は全滅する。

 だが、大きなホイールは地面に付き立った矢を蹴散らして、

一直線に若手の前衛たちへ向かっていく。

前衛は槍を手放し、両手で盾を構えて固まった。

ファランクスと言うか、

三人だからアメフトのスクラムのようだ。

派手な衝突音が響き、ホイールと前衛が正面衝突した。

三人は吹き飛ばされたが、

受け身をとり即座に盾を構え直す。

衝突でバランスを崩したホイールへ、

矢が次々打ち込まれる。

 無数の矢をその身に受けながらも、

ホイールは回転を止めない。

ドリフト旋回し、

後衛に向かって行くホイール。

前衛がその間に割って入ったが、

構えが取りきれずに三人とも吹き飛ばされる。

後衛が矢を捨て、腰の刃物を取り出した。

ホイールの突進を闘牛士のようにかわして、

剣やナイフを振るうが腰が引けていて

まともなダメージにならならい。

 復帰した前衛がホイールを盾で受け止めた。

三人がかりでも一瞬しか止められない。

その隙に、後衛が弓を構えて矢を放った。

至近距離から放たれた矢がホイールを穿つ。

ホイールの回転が弱まったところを

すかさず前衛が盾で地面に押し付けて、

死体が消えるまで押さえ込んだ。


「イレギュラーだったけど、よくやったね、皆。」


 財前が労いの言葉を掛けながら近寄る。

六人は死体が消えたのを確認し、

落ちた魔石を広い集める。


「ホイールの魔石は一つ大体の三万円で、

ゴブリンと同額です。

今ので12個集まったので、一人頭二万円。

入場料が4400円なので、稼ぎは15600円です。

ここから、矢等の消耗品の購入費、

怪我をした場合はその治療費を捻出します。」

「金額が少ないように思えますが。」


 公安の代表がそう言った。


「イレギュラーだったこともありますが、

安全を考えると、ここが引き際です。

深域まで距離はまだまだありますが、

出口から見れば結構進んでいます。

モンスターもここから先では

ホイール以外のものも混ざりだします。

これ以上の稼ぎを求めるなら、

ハンターはリスクと向き合う必要があります。」


 発言者だけでなく、

見学者たちはもっとハンターが儲けていると思っていたらしい。

俺も昔は大儲けしている職業だと思っていたが、

実情を知るにつれて一攫千金のバクチだと理解した。


「普通にハンターをしているなら、こんな感じです。

ただ、違法なことをしているハンターは、

もっと稼ぎます。」


 財前がそう言うと、

見学者たちがざわめく。


「例えば、ここで一人が裏切って

他のハンターを皆殺しにします。

魔石を独り占め、他のハンターの装備を売り、

更衣室の荷物も奪います。」


 見学者たちの声がじわじわ小さくなる。


「例えば、更に奥へ行き、後衛を置き去りにする。

または、逆に前衛を囮にすれば、

もっとモンスターを討伐して魔石を稼げます。

人数が半分になるので、取り分も倍になります。

死者の更衣室の荷物も売って、

山分けすれば更に儲かります。」


 見学者たちの声が聞こえなくなる。


「例えば、深域を一目だけ見よう、と提案します。

モンスターとの戦闘は可能な限り回避します。

深域まで行けたら、

突然一人だけ出口に向かってダッシュします。

他の五人はあわてて追いかけますが、

追い付けません。

それどころか、

モンスターに見つかって戦闘になります。

走っていたため不意打ちされた上に、

一人抜けたせいで上手く連携できません。

 逃げた一人は、隠れて待っていた本当の仲間と合流。

モンスターに苦戦する五人に襲いかかります。

男性は殺して身ぐるみをはぎ、

女は死なない程度に痛め付けて身ぐるみごと売ります。

 人身売買?

違います。

怪我をさせて自分達と繋がりがある病院へ運び込み、

“治験”へ回して病院から金をもらいます。

合法ですよね。

男性より女性の方が軽くて持ち帰りやすいですから、

よく標的になります。

 また、世間的に見れば、

傷ついた他のハンターを病院へ運んだ、と称賛されて

株が上がります。

罪悪感?

そんなもの、彼らにあるわけないでしょう。」


 誰も彼も、何も音を出さなくなった。

沈黙というより、静寂だ。


「皆さんはそんな犯罪者たちを相手にするのです。

隊員たちだけでなく、貴方たちも関わるなら、

お覚悟ください。」


 満面の笑みで財前は話終える。


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