閑話“進行”
空を覆う程の化物の群れ。
星のようなそれ一つ一つが、
地上へ魔法を放って来る。
「地下だ!
地下鉄へ!」
「盾持ちは並べ!
避難路を確保しろ!」
それでも“大和桜”たちは、
いつものように救援活動を行う。
逃げ惑う人を集め、助け。
誘導して逃がす。
仲間の誰がいなくなっても、やりとげる。
「弓は届かない!
ボウガンは?!」
「届いた!」
「大弓なら、届くぞ!」
防戦一方ではない。
彼らは降り注ぐ火球や石つぶてをかわしつつも、
空へ向けて矢を放つ。
「絶対行かせるな!
全員助けるぞ!」
警察も一般のハンターも、
やっぱり彼らを頼った。
今まで積み重ねてきた実績は伊達じゃない。
彼が積み重ね、
彼女が誇った実績は簡単には崩れない。
「見ろ!」
ハンターの一人が夜空を指差した。
そこには、空を駆ける闇夜より黒い人影が見える。
その人影は手にしたなにかを空へ放った。
次の瞬間には卵型のモンスターに風穴が開き、
次々に落下していく。
「あっちもだ!」
次に指差した先にいたのは、
異形だった。
下半身は六本足の巨馬。
上半身は巨人。
頭に角を生やした緑の一つ目が空を睨んだ。
異形が何かを空へ向けて構える。
そこから放たれた光が、
無数に枝分かれして空を飛ぶモンスターを貫き落とす。
「二人が来たぞ!」
「放れろ!
巻き込まれるぞ!」
彼らはG県の“大和桜”メンバーから聞いていた。
あの二人が来たらとにかく離れるように、と。
「すげぇ!」
「バカ!
見とれてると巻き添え食うぞ!」
見とれた仲間を叱咤したハンターの目の前に、
異形が降り立つ。
それは目の前の二人に声をかけた。
「“大和桜”のメンバーか?」
二人は混乱しながらも、なんとか首を縦にふる。
「モンスターの行き先は田園調布だ。
避難は東京から放れるようにと通達しろ。
後、避難路に地下は止めろ。
大量の水を放つやつもいる。」
二人は異形から端的に伝えられた情報を、
的確に無線で全員へ伝える。
「お二人はどこへ?」
「田園調布のダンジョンだ。
元締めを殴りに行く。」
人のようなモンスターのような、
ロボットのような異形は光の塔を指差してそう言った。
「影響範囲は世界中全てだ。
安全地帯はないものと思え。
とにかく東京から放れろ。」
そう言い残して、異形は走り去る。
ハンターたちはその話をそのまま無線へ流す。
「やっぱり来てくれた!」
「ちくしょう!
見たかった!」
ヒーローではない。
決してそうではない。
だが、来たからにはなんとかなる。
彼らはどちらかと言えば、怪獣だ。
放射能を浴びた恐竜だったり、
空飛ぶ亀だったりと同じ。
来てくれた限り終わらせてくれる。
「誰かテーマソングをかけろ!」
「テーマソングなんてねぇだろ!?」
「ワルキューレのなんちゃらだっけ?
クラッシックのやつ!」
「大佐のやつか!
よっしゃ! かけよ!」
“大和桜”の一部のメンバーが大音量でクラッシックを流した。
その場の悪ノリ、と言えばそこまでだ。
だが、逃げる人々の耳に届いたその音楽は、
彼ら二人の進撃を的確に伝えた。
来てくれた。
その瞬間から人々はただ怯えて逃げ惑うのではなく、
生るためにまっすぐ逃げ出した。
「来てくれた!」
「やった!」
希望が感染していく。
逃げる人々の顔がどんどん明るくなる。
「速やかに退避!
ファンクラブ会員たるものが、
彼らを邪魔する訳にはいきません!
速やかに! 退避!」
インターネットから流れる、
聞き覚えがある少女の声。
「どうせ国は動かん!
我々は勝手にやるぞ!
ハンターどもを援護しろ!
機動隊員は今からスライムを殴ってこい!
ハンターになっても給料はあげられんが、
ボーナス査定は三年間満額にしてやる!」
無線機から流れるその怒号は、
警察庁からの一斉通信だ。
「こちらも勝手にやるぞ!
乗り物をありったけ用意しろ!
人を乗るだけ乗せて東京から放れろ!
トラックの荷台! ヘリ!
船も! なんでもいい!
乗れるだけ乗せて逃げろ!」
こちらは公安調査庁からの無線だ。
「おい!
あれ!」
“大和桜”のメンバーが突然現れた人影を指差して言葉を失った。
「ひゃっはっはっ!」
夜空に響き渡る笑い声は、
誰も彼もが知っていた。
でも、彼は絶対そんな笑い方ではなかった。




