第83話 黒子
地上に上がると、
大型トラックと藤堂が近くまで来ていた。
おじさんとタカミさんをトラックに乗せている最中らしい。
「おう、櫻葉。
ホントに口説いてたのか。」
藤堂がそう言いながら、
吸血鬼を指差した。
「そだ。
俺は藤堂健治。
君はなんて呼べば良い?」
「……。」
吸血鬼がレインコートの裾の端をめくって見せる。
そこにはアルファベットで“MIKE”と書かれていた。
「マイケル?
マイク?」
「櫻葉、どう見てもマイクはないだろ。
ミケとかだろ。」
だが、吸血鬼が俺の方を指差して言う。
「あたひ。」
「当たりなのか。
マイクって、呼べば良い?」
「藤堂、
さすがにいきなりファーストネームはどうかと思うぞ?」
「確かに。」
「ハイクれひひ。」
マイクで良いらしい。
俺は自己紹介を簡潔にして、マイクに再確認する。
「改めて、櫻葉涼治だ。
それで、マイクは一緒に着いて来れるのか?
乗り物とかは?」
「俺と櫻葉は走るんだけど、かなり早いよ?」
「ふひてひけふ。
あったまふまれ、
ひかんがひふ。」
着いていけるそうだ。
暖まるまで、というのがよく分からないが。
「マイク、“鑑定”してもいいか?」
俺はマイクに聞いてみた。
「ひひ。」
ガーネットに頼んで“鑑定”をしてもらう。
「……彼女はすごいです。
常に綱渡りみたいな状態です。」
ガーネットはそう前置きして言う。
「まず、ステータスは藤堂様くらいあります。
また、スキルに“体液操作”というものがあります。
これで身体能力をあげてます。
心拍数が毎秒数百を越えても身体に異常は起きないことを利用し、
身体能力にバフをかけるみたいです。
心拍数を稼ぐのに時間がかかるから、
暖まるまで、とおっしゃいましたね?」
マイクはガーネットの声に頷いて応えた。
「エンジンが暖まるまで時間がいるのか。
なるほど。
じゃ、俺はまっすぐ田園調布に向かう。
一直線だ。
建物があっても曲がらないし、止まらない。
マイクは暖まったら追い付いてくれ。」
俺は東に見える光の柱を指差した。
マイクは頷いて屈伸を始める。
「俺は櫻葉が開けた穴を通り抜けようか。」
「藤堂、俺は建物に穴を空けるなんて言ってないぞ?」
「登るのか。
なら、ワイヤーがある分俺も負けないな。」
「富士山経由だぞ?」
俺たちは笑いあいながら、
着々と戦いの準備をする。
そう言えば、今日はやけに星がよく見える。
「アルジ様、あれは星じゃありません。
あの卵のモンスターです。」
ネルがそう言いながら空を指差した。
遠すぎてよく見えないが、
よく見ると夜空の星が動いている。
ミタニさんが忌々しげに言う。
「世界中から田園調布に向かってるみたいね。
守りを固めるつもりかな。
私と私たちであれを駆除する方法を探る。
どういう策があるか分からないけど、
これ以上時間を稼がせたくない。」
トラックから小田さんたちが出てきて、
こちらに向かって駆け寄る。
何故だかマイクは驚いて三歩下がる。
あぁ、小田さんの姿を見て驚いたのか。
小田さんはロボアームをタコのようにくねらせて、
地面を高速で這ってくる。
「ジャスト、モーメンッ!
そっちのバンピールちゃんの簡易装備っス!
後、無線機!
こっちの処置が終わったら、
我々も田園調布に向かうっス!」
「高速道路が封鎖されるかもしれませんよ?」
「方法はあるっス!
お楽しみっス!」
俺たちハンターの全速力で走って、
田園調布付近まで三十分から四十分はかかると見ている。
バフを盛って二十五分くらいだ。
車なら、一時間以上。
高速道路が使えないともっとかかるはずだ。
卵のモンスターかなにか分からないが、
移動中に必ず邪魔が入るだろう。
移動に時間がかかるほど不利だ。
だが、狂人たちが方法はある、というのだから、
たぶんヤバい方法を用意してるだろう。
俺はひとまず任せることにした。
「とりあえず、走るか。
マイク、装備だ。
そのレインコートの下に着るといい。
一見皮のコートだが、
ダンジョン仕様で変な装備より頑強だ。」
マイクはおずおずと小田さんのロボアームから装備を受け取った。
俺は藤堂に目配せしてから、
身体を再構築する。
イメージは馬。
以前倒したケンタウロス。
早さが必要だ。
足は三対六本。
ソリをひくばんえい競争の馬と軍馬をイメージして、
巨馬の下半身を構築する。
藤堂が声をあげて感嘆する。
「すっげぇな。
スレイプニルだっけ?」
「あれは八本足だったっけ?
軍馬だからサラブレッドというよりは、
象とか虎チックにしてみた。」
俺は六本足の各部に適宜アシストスーツを着けて、
走り出す準備をする。
「乗るか? 藤堂。」
「まさか。
絶対追い抜く。」
藤堂はニヒルに笑ってそう言った。
俺も笑い返す。
俺は一足飛びで数百メートル飛び上がった。
ガーネットとネルのバフはさすがだ。
藤堂にもバフがかかっていて、
スーツの筋肉をバンプアップさせて着いてくる。
俺は着陸して駆け出し、
藤堂はアンカーとワイヤーでビルを掴んで身体を引き寄せる。
「クモというよりは怪盗っぽいな!」
俺はそう言って、笑って藤堂を追い抜く。
「そっちはなんかのエンディングに見えるぞ!」
今度は藤堂がそう叫びながら俺を追い抜いていった。
俺は笑いながら速度をあげていく。
「そのペースなら、
二十分くらいで着きそうです。」
「邪魔が入るとその分ロスです。
ネル、周囲を警戒してください。」
俺は二人のナビに耳を傾けつつ、
光の柱へ向かって全速力で駆ける。




