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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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第81話 黒幕

「チーフ、

しばらく見ない内に宗教学でもかじったんっスか?

それとも、とうとう頭がおかしくなったとか?」


 小田さんの悪態を鼻で笑い捨てる老人。


「貴様にはナノミクロンほどは感謝してるんだぞ、

小田。

お前のお陰で私は“タイムリープ”した。」


 自慢げに語り出す老人。


「あの日、

ポーション事件で私はあの女に裏切られた。

ダンジョンを埋め尽くさんと増殖し、

人を喰らう人造モンスター。

 だが、私は違う。

小田、貴様があれから生き延びたのを見ていた。」


 やはり目の前の卵は動かない。

老人から情報を聞き出すためにも、

ここは攻撃しないで待とう。

 俺は念話でガーネットたちへ手早く指示を出した。

ハンドクラップが三つ返ってくる。


「あれを参考にした抗体プログラムを、

自分のコントロール下にあった人造スライムに埋め込んで、

自分をスライムに飲み込ませた。

見事に私は生き延びた!

他の低能どもは死んだようだがな。」


 俺には声しか聞こえないが、

チーフは相変わらずの様だ。

むしろ、選民意識が強まっているように思える。


「人造スライムから脱出した私が目にしたのは。

過去の田園調布ダンジョンだった。」


 タイムリープ、タイムスリップ。

異世界から魔王やモンスターがやってくるんだ。

ないとは言いきれない。


「当然、私はまだ生まれてない。

私は鈴木、と言う名を使って、

黎明期の混乱に紛れて生活した。

 ただ、私は未来を知っている。

“勇者”たちを知っている!」


 なるほど。

“勇者”たちに取り入ったのか。


「アイツらは低能の集まりだからな、

ちょっと転がしてやればいい。

ちょろいもんだ。

 一味に加わって、

金も物も、被検体も、

好きなだけ用意できて良かった。

 ちょろいもんだ。

お前も含めて、な。

ミタニ。」


 老人の嘲笑う声だけで、

どんな顔が目に浮かぶようだ。


「なぁ、ミタニ。

お前、偶然あの日、

お前とアイツらがあの田園調布のダンジョン行った、と

思ってるのか?」

「……まさか。」


 ミタニさんは時間稼ぎの演技だが、

老人は満足そうに声をあげて大笑いする。


「そうとも。

お前のことも知っていた。

だから、用意していた協力者で研究者の竹谷に、

こう報告させた。

 田園調布のダンジョンの奥には、

寿命を伸ばす薬があるかもしれない。」


 自己陶酔して、

長々と種明かしをするのは悪役の決まりなのか?

それとも、何十年後しのドッキリ種明かしか?

 俺はうんざりして、思わずため息を漏らす。


「最奥には強力なモンスターがいるはずだから、

戦えるメンバーだけで固まって行こう。

一気に進む方が安全だから、

“賑やかし”は連れずミタニにサポートさせよう。

 すべて私の提案だ。

そして、あの日あのとき私の代わりにあのダンジョンにいたのは、

本物の“竹谷教造”だった。

勇者でもなんでもない、

お前に閉じ込められた哀れな研究者だよ。」


 念話でハンドクラップが三つ聞こえた。

三人は俺の指示を完遂したようだ。


「そこからは竹谷として生活した。

本当の竹谷の家族は居なかったが、

誰が顔を知ってるか分からなかったんでな。

ずっと顔を隠して研究していた。

 そして、作り上げたのが、“魔法使い”たちだ。」


 自慢げにつらつら話す声に、

俺は眠気すら感じてきた。

 もう準備も終えたし、

情報もこれ以上は不要だ。

この時間稼ぎに付き合うのもうんざりしてきた。


「長話はまだ続くのか?

できれば、書面で提出してくれ。」


 俺はそう言って、

ガーネットから受け取ったグローブを両手にはめる。


「まぁ、聞きけ。

日本に百万以上“魔法使い”を作った。

さすが政府主導の事業だ。

仕事が速い。

 それに、この技術はとうの昔に海外へ流出させている。」


 ギャラリーたちがざわめく。

忘れかけていたが、

あのギャラリーの大半は政府関係者だ。


「世界中、全都市に“魔法使い”たちが、

数百万いるんだ。

ほら、聞いてよかったろ?」


 子供のようにはしゃぐ老人の声。

余計に胸くそ悪い。


「そして、それらすべては私の制御下にある。

そこのモンスター化したものも含めてな。」


 予想通りだが、

俺には老人のこの話は何のための時間稼ぎなのか。

意図が汲み取れない。

 “魔法使い”たちと思われるものの悲鳴が聞こえる。


「後、その部屋の制御システムは私が作ったんでね。

君たちは部屋に閉じ込めさせて貰うよ。」


 老人がそう言う。

俺たちから扉までかなり遠い。

本当に扉が開かないのかすぐ確認できないが、

地下に閉じ込められたようだ。


「さぁ、政府の役人どもはもう用なしだ。

さようなら。」


 老人がそう言って指を鳴らした。

すると、周囲の“魔法使い”たちが一斉に苦しみ出す。

しかし、さっきの“富岳”隊長ほど劇的には変化しない。

 老人の眉間にシワが寄る。


「なんだ?

何故モンスター化しない?」

「本来の身体に保護の魔法をかけた。

これは俺の身体の治療用のものだが、

モンスター化も不完全だが妨害できるようだな。

 “魔法使い”たちは、気をしっかりもて。

自分で自分の名前を言い聞かせ続けろ。

自分を失ったらモンスター化するぞ。」


 時間稼ぎの間の俺の仕込みだ。

身体の一部が泡立ってるのがちらほら見えるが、

卵になったのはまだいない。


「ちっ!

なら、そこのにやらせるまでだ!」


 確かに既にモンスターになったヤツには効いてないようだ。

卵が動き出した。


 次の瞬間、

轟音と共に天井に大きな穴が空き、

瓦礫が降ってきた。


 俺は落ちてきた瓦礫を殴って砕く。

ギャラリーたちは逃げ惑う。

おじさんとタカミさんは一緒にいるミタニさんのバリアで無傷だ。

 天井に空いた穴から、人が飛び出してきた。

グレーのレインコートを着て、

フードを目深に被った人物だ。

一緒に落ちた瓦礫を足場にし、

ジャンプしてこちらに跳んでくる。

 身構えるが、どうにも目当ては俺じゃない。

人影は一直線に卵に向かい、

火球に一切触れることなく卵にしがみついて顔を押し付けた。

 俺からはよく見えないが、

何をしているのかすぐに分かった。

 みるみる内に卵型のモンスターがしぼんでいく。

まるで、紙パックのジュースを一気に飲み干してパックを潰すように。

 すると、あっという間に卵型から人に戻っていた。

レインコートは“富岳”隊長のうなじに噛みついている。

“富岳”隊長はしばらく青白い顔で痙攣して、

静かに地面に落ちた。

 レインコートはしゃがみこみ、

彼の目蓋を閉じてやる。

そのとき、レインコートのフードが取れた。


「あれだ。

ドラマ版とかでやってる番外とかが、

映画に合流するやつだ。

 わたしゃ、ドラマは長くて見てらんねぇんだ。

うちのカミさんは大好きなんで、

デーブイデーを沢山もってるんだがな。」

「どうしようか。

今から予約できるなら、予約しよう。

サブスクでもいいから、見直さないと。

健治も呼んで、みんなで見ようか。」


 おじさんとタカミさんがおちゃらけて言う通り、

ドラマ版とか見ないとな。

直感的に俺もそう思った。


 そこには口元を血で染めた吸血鬼がいた。


 ブロンドの髪をベリーショートに切り、

大きな青い瞳でこちらを見ている。

女性だ。

 膨れ上がった筋骨もさるとこながら、

ガーネットやネルに負けないくらい乳房が大きい。

レインコートのボタンが爆ぜそうな程の豊体だ。

 背丈は生身の俺とほとんど同じくらい。

レインコートは太陽光対策か?

 一番目立つのは、やはり口元だ。

血塗れのそこは、人のそれじゃなかった。

 下顎が正中線から左右に割れて、

蛇の顎のように開いていた。

上下に大きな四つの牙が生えている。

舌と言うべきか、

注射器の針の形の突起が付いた舌が蛇のように動いて

口元の血を舐めとる。

 俺は彼女に端的に問いかける。


「敵か?」

「……いがう。」


 どうやらあの口では発音が不自由らしい。

違う、と言ってるのは何となく分かる。


「なんだ。

失敗作がまだ生きていたのか?」


 柱の映像からそう聞こえた。

ほら見たことか、

ドラマ版とか見ないと分からんヤツだ。


「邪魔をしおって。

でき損ないが。

視界に入るだけで不愉快だ!」

「……こほす。」


 彼女の言葉は聞き取りにくい。

だが、高く澄んだ声が殺意にたぎる。

どうやら、老人が仇のようだ。


「これは、もう訳が分からん。

べらぼうに面倒だ。

考えるのは他に任せて、

あの老人を殴りに行こう。」


 俺はうんざりしながらそう言った。

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