白黒
“富岳”隊長が両ひざから崩れ落ちた。
息も荒く、肩で呼吸している。
俺が思うより消耗が激しいようだ。
魔法の行使によって何を消耗しているのか分からないが、
疲労困ぱいと言った様子だ。
「防御力重視じゃないものだとしても、
うちの研究所の装備に傷を付けて。
結果、焼ききれたのは誇っていい威力だ。
生身までは無理だったみたいだがな。」
彼は素直に称賛する俺を見上げて睨む。
息も絶え絶えで、彼は言い返した。
「うるせぇ……。
……はぁ……はぁ……。
あ!?」
突然、彼は苦しみ叫び出す。
見る間に彼の身体が、
火を入れすぎて沸騰したお粥のように泡立つ。
装備が破れ、肌が白く変色し、
餅のように膨れ上がって。
見る間に彼は白い大きな卵のような姿に変わった。
ギャラリーから悲鳴が上がる。
おじさんがガーネットから受け取ったスライムヘルムを俺に投げて寄越す。
俺はそれを受け取って、
被ると同時に“触手”スーツを全身に纏った。
巨大化した俺より膨れ上がって大きくなる卵。
卵に背面があるのか分からないが、
純白の翼が俺と逆の側に三対六枚開いた。
「コイツ、
最近街中に出るってモンスターか?」
俺はそう呟いて卵を睨む。
卵は真っ白に発光した火球をいくつも産み出して、
自分の周りに展開した。
錆びた自転車のブレーキのような不快な異音が大音量で響き渡る。
卵が出した音のようだ。
鳴き声か?
衛星のようにくるくる卵の周りを回る火球は、
遠くにあるのにさっきの何倍もの熱量を感じる。
脂が燃える匂いと、
焼き肉を焼いている網に顔を近づけたようなベタつきを肌に感じる。
「聞こえるか?!
こちら、小暮!
今ので“魔法使い”について分かったぞ!
こんな胸くそ悪い話はない!」
俺が持っていた松葉杖に仕込んでいた無線機から声が響く。
トラックで待機してる魔術研の研究員たちか。
「“魔法使い”は、
レベルのアバターをモンスターに乗っ取られた人間だ!
レベルアップで身体がアバターになるのを逆手に取って、
ステータスがない状態でモンスターを血液に混ぜ混む。
レベルアップで身体がアバターになっても、
血液だけは本物だ。
それは、我が主の身体が証明してる。」
俺は話を聞きながら、
動きがない卵を注視する。
「ステータスを取得して、
作成されるアバターにモンスターが混ざる。
そして、“魔法使いのモンスター”が生まれる。
魔法を所持して行使するのは、
人間じゃなくてモンスターだ。
だから、
ステータスに“魔力”のない者が適正あり、とされる。
魔力がある人間なら、
そもそもこの手術は不要だからな。
そうじゃない者は、
低レベルなら人間の意識が優位だ。
魔法もモンスターをコントロールして行使できる。
しかし、レベルアップや怪我などで人間の側が弱ってくると、
身体がモンスターのアバターに入れ替わる!」
上手くできている。
レベルでできたアバターのことなんて、
うちの研究所も最近たてた仮説だ。
この技術を作った人間は、
これにかなり前から気づいたのか。
「身体とアバターを繋ぐ血液がモンスターに冒されているから、
アバターだけじゃなく本来の身体ごとモンスターになっていると見ていい。
これではもう人間には戻れん!
人間の自我があるかも不明だ!」
なるほど。
確かにこれは、べらぼうに胸くそ悪い。
つまり、
今日本に百万以上のモンスターが野に放たれた状態で。
しかも、それを制圧する実行部隊すらモンスターだ。
俺は無線越しに質問した。
「魔法を使いすぎた。
それで身体が危機的状況まで弱ったから、
モンスターになった。
なら、他の“魔法使い”は魔法を使わず普通の生活をすれば、
モンスターにならないと保証できるか?」
「無理だ。
時間をかけて調査しなければ、
何の均衡が、どう崩れるか分からん。
今までそこいらでモンスターになったヤツがいて、
討伐されてきたんだ。
簡単に均衡が崩れると見ていい。」
嫌な予感がする。
「なんだ。
もうバレたか。
まぁ、いい。
計画を前倒しにしよう。」
広大な地下施設に響き渡る声。
この展開は、アニメや映画でよくあるやつだ。
巨大な柱すべてに人の顔が映写される。
老人が杖を片手に笑っている映像だ。
「竹谷教授!
これはどういうことだ?!」
“防人”の三陣隊長が怒気を込めた声で叫ぶ。
俺はそれを聞きながらも、
卵から視線を外さない。
卵は、まだ動かない。
「説明がいるのか。
低能どもの相手は時間がかかるな。」
老人は気だるげな声を放つ。
すると、視野の端のミタニさんが姿を現した。
「なんで、アンタがここいにいるの?
鈴木。」
「おぉ、本当にミタニか。
はっはっはっ。
死んでもなお、
復讐に取り憑かれた亡霊よ。」
ミタニさんが強く反応した。
彼女の身体から紫色の炎が溢れる。
と、言うことは“勇者”の誰かだ。
老人は笑いだす。
「そうだ、そこからだな。
私は竹谷教造。
そして、“勇者”の一人、鈴木哲……。」
「なに自慢げに語りだしてるんっスか?
チィーフ。」
老人の声を遮って、
無線機から小田さんの声がした。
やはり目の前の卵は動かない。
暴れだす素振りもない。
どうやら、嫌な予想は的中している。
この卵のモンスターは、
遠隔でコントロールできるようだ。
「物語の黒幕、みたいに出てきて。
自慢げに語ってるとこ、大変恐縮っスけど。
てめぇ、映像越しで、顔に面影すらないのに、
一発で分かる位どぶ臭い体臭を何とかしろっス。」
小田さんが吐き捨てるように言う。
卵と対峙したままの俺には何をどうしているのか、
全く分からない。
だが、
小田さんにはあの老人のことがわかるようだ。
「チーフ。
いんや、雛形チーフ。
そのクソザコ噛ませみたいな登場、
どんなけ練習したか知らねえっスけど。
似合わねぇ上に、演技も臭すぎっス。」
「……相変わらず、貴様の頭脳は称賛に値する。
人格は虫以下だがな。」
老人は忌々しげな声で言い返した。
周囲が騒然としているのが雰囲気で分かる。
「そうだ、私は雛形彰。
あの日あのとき、
神に選ばれたのだ!」




