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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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第77話 白兎

 松葉杖を突いて現れた俺を見て、

スーツ姿の自衛隊員たちは驚き怯む。

“防人”の隊員たちは律儀に敬礼してくれる。

 あの日に留置所で会った“富岳”の隊員には睨まれた。

あの時は見なかった“富岳”隊員も大勢いるようだが、

そっちの人には目を背けられる。


「こ、この度は守山駐屯地にお越しいただき、

ありがとうございます。」


 広報の人だろうか。

スーツ姿の一人がそう言った。

俺はタカミさんとおじさんのことを横目に見ながら、

会釈しておく。


「怪我人を呼び出しといて、

迎えは寄越さない。

報酬なし、経費も自腹のボランティア。

これは、さすがにいかがなものかと思いますね。」


 おじさんの一発目が飛ぶ。


「まぁ、仕方ねぇよ。

田園調布のヤツとか、いわきのヤツとか、

防衛省も被害を受けてんだ。

風評被害をな。

 うちのカミさんも、

あんなんで一番税金が使われてるなんて、

信じらんねぇ、って言ってるよ。」


 タカミさんの一発目が広報にヒットしたようだ。

スーツ姿の人たちだけ目が泳ぐ。


「さんざん頼って、

いざとなったら命までかけさせて、

挙げ句にこれはいかがなものかと。」

「先生、それ言うと公安も警察も立つ瀬がねぇよ。

実行力って名目だけの所よりは、

働いてるんだぜ?」


 相変わらずこの二人の会話は不穏だ。

今回自衛隊でカメラが用意されており、

テレビで生放送中らしい。

ゴールデンタイムのこの時間帯の生放送で、

このセリフはカットできないだろう。

 更におじさんのネクタイピンと俺の松葉杖に仕込んだカメラが作動している

 その映像を見ているのは藤堂と小田さんたちだ。

大型のトラックに乗って近くの駐車場で控えている。

トラックには簡易な研究設備を詰め込み、

藤堂のスーツや武器をいつでも利用可能にしていた。

なお、この動画は秘密裏にWebで生放送してるらしい。

 そして、姿を消してついてきたガーネット、ネル、ミタニさんが魔法で周囲をくまなく調べている。

“賢者”がそれらを情報として統合、整理し、

トラックに送っている。

トラックでは、

研究所の所員全員フル稼働でそれらを調査している。

 俺はこの“魔法使い”には不穏な感じがして信用できない。

世間は賛否両論だが、

俺たちは否に寄った見方をしていた。

 やはり、魔力値なしで魔法を使うのはおかしい。

魔法を使うとなにかを消費するものだ。

それがなにもないのは、おかしい。

 なにも消費せず発動する“スキル”もあるが、

その場合は効果や発動条件が限定的だ。

例としてはどんな足場でも転ばなくなる“不退転”、と

言うスキル。

そのスキル保有者が

ローションを満たしたウレタンの坂道を

するする駆け上がっていく動画は、

いまだにいろんなメディアで再生されている。


「訓練場は普通の設備では耐久に難があるので、

別棟を特別棟に改築しております。」


 いつのまにか広報の説明が佳境に差し掛かっていた。

俺は意識を切り替えてその話を聞く。


「今からそちらへ移動しましょう。

 あの、……車椅子は用意していないので、

ゆっくり着いてきていただけますか?」

「怪我人を呼び出して、

立ったまま長話を聞かせて、

挙げ句に歩け、と。

 自衛隊は、

災害時の怪我人にも同じことをなさるのですか?」


 今度はおじさんの一撃が広報にクリティカルヒットした。

言葉にならない声を漏らして動揺する広報。

 難癖とは言いきれない、

絶妙なさじ加減で切り込まれた言葉は、

ここまで威力が高いのか。

俺は声に出さないが、驚愕しつつ感嘆する。


「車椅子っつても、

涼治君の乗れるサイズのヤツを用意するのは無理だぜ?

 事前にこっちから車椅子を持っていく、っつても、

拒否されたしよ。

そもそも歩かせる前提だったんだろうよ。」

「なるほど、

自衛隊は怪我人は無視するのが新しい方針ですか。

流石、国家権力ですな。

 次の災害時は怪我人はイコール死人ですね。

被災者数が数えやすい。

大阪の時の反省が活かされていますね。」


 広報も後ろのスーツ姿の自衛隊員も否定するが、

かなり声が小さい。

大阪のダンジョン災害後、

バイコーンにバラバラにされた遺体はほとんど身元不明のままだ。

今も正確に数えきれていない。

 そこを引き合いに出すおじさんの攻撃はえげつない上に、

情け容赦がない。


「施設内のセキュリティの問題で、

持ち込める機器に制限がありまして……。」

「じゃぁ、ここは怪我人を呼ぶような所ではない、と

事前に分かっていたんですね。

 それなのに出頭要請を出した。

どういう意図か是非聞かせていただきたい。」


 しどろもどろに広報やスーツ姿の自衛隊員が弁明するも、

おじさんに転がされるだけだった。

 やっと解放され歩き出した頃には、

広報の顔は別人のようにやつれて青ざめていた。

 案内されたのは三枚の分厚いバルブ付き鉄扉を潜って、

更に地下へ長い長いエスカレーターでおりた先。

広大な基地の敷地とほとんど同じくらいありそうな地下空間が広がっていた。

 広大な空間は壁でしきられておらず、

巨大な柱が数本等間隔で立っているだけだった。

地下貯水施設に似た作りだ。


「ここは近隣の緊急時の避難所で、

頑丈な作りになっています。

“富岳”隊員の訓練にも耐えうるため、

訓練場として改築されております。

 もちろん、

緊急時の避難所としても利用可能です。」


 俺が戦った魔王たちはどれも強力で、

なおかつ潜行、感染と言った特殊な形の攻撃だった。

地下と言う頑強さに加えて、

あのバルブ付きの扉は気密性が高いと思われる。

水になって襲われても、霧を撒かれても、

ここなら一時的な安全は確保できそうだ。


「思っていたより、

“富岳”隊員の数が多いのですね。」


 おじさんは自然に訓練中の“魔法使い”たちへネクタイピンのカメラを向けた。


「はい。

ここだけで八千人の“魔法使い”がいます。

“富岳”隊員の三千人、

その訓練生が五千人います。」


 俺の想像していた数より桁が多い。


「“魔法使い”の手術は、

適性検査込みでインフルエンザの予防接種くらいの施術時間で終わります。

 今日本には約百万人の“魔法使い”が登録されています。

自衛隊には、

ここの彼ら八千人を含めて一万五千人の“魔法使い”がいます。」


 そこまでいるのか。

せいぜい千人程度の話かと思っていた俺には、

結構な衝撃だった。


「ただ、魔法を自在に操るには訓練か必要でして、

訓練生たちはまだ実戦には参加できないレベルです。

実行部隊として活動できているのは、

現在“富岳”隊員だけです。」

「残り約九割の“魔法使い”たちは、

どうされていますか?」


 おじさんが追加質問した。


「残りの方は、一般のハンターをされています。

 他の駐屯地の話ですが、

魔法の訓練にハンターが参加できるところがあります。

ハンターの“魔法使い”の方々はそこに通っているのがほとんどです。」


 今の日本の総人口は、いつかより減っている。

その上、ポーション事件と魔王の襲来でさらに甚大な被害があった。

それでも、一億人近くいるうちの約一割は“魔法使い”か。

 何をおいても桁が想像より上だった。

さすが、国家プロジェクト。

行動力が違う。


「訓練場に近づきましょう。」


 広報の案内で、

パーティションで幾つかに分けられた区画に向かう。


「始めに“発動訓練”をします。

魔法が使えて当然、と

考えなくても感覚で使えるようになるには必要な訓練です。」


 その場には座禅のように胡座で座り、

等間隔に並ぶ人たちがいた。

皆一様に唸っているが、

見た目にはなにも起きていない。


「この訓練が一番難しく、

例え一度魔法が使えても、

二回目がなかなか使えなかったりします。

自由自在になるには結構な時間が必要です。」


 パーティションの区画の六割はここと同じ光景が広がっていた。

時折、火柱が上がったり、水が吹き出すと、

そこにいた隊員は声をあげて喜ぶ。


「辛く長い訓練な分、

発動できたときに喜ぶことは誰も止めません。

でも、長い時間余韻に浸ってると、

教官の怒号が飛びます。」


 広報の言うとおり、

魔法が出た人が歓声をあげるのは一言、二言程度で、

すぐに座禅の体制に戻ってまた静かになる。

 魔法を意識下でコントロールできることが大きなハードルなのか。


「次は魔法を自在に発動できるようになった訓練生です。」


 次のパーティション内には、

金属の的が等間隔で並べられていた。

“魔法使い”たちは、

その的へ向かって手を突きだして呪文のようなものを唱える。

唱え終えると、

手から火や水が的へ向かって吹き出した。


「詠唱は本来必要ありません。

ですが、魔法をイメージする補助として唱えています。

“色、現象、動き”の順に唱えていると、

威力の均一化もできるので最初はこの形に慣れさせます。」


 なるほど、群青だの紅蓮だのには意味があったのか。

ガーネット曰く、

彼女たちの世界の魔法にはない形の詠唱だそうだ。

あれは格好をつけてたわけじゃないなら、

あの時ノリノリで唱えてた二人は何なんだろうか。


「“富岳”隊員は詠唱なしで魔法が使えます。

ただ、詠唱なしで魔法を使うと、

威力が上がる代わりにコントロールが難しくなります。」


 では、あの時は確実性をとったのか。

俺を侮っているような発言が多かったし、

いわゆるナメプ、だったのかもしれない。


「最後に、“富岳”の訓練場です。」


 俺は広報の背を追って歩き出した。

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