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触手とダンジョン攻略  作者: 桃野産毛


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閑話“装着”

 小田は藤堂をあしらいつつも、

話は聞いていた。


「染料は黒だけっス。

しかも、

強度を上げるためのコーティング剤入り染料っス。」

「わかってるけど、あの名前はいただけない。」


 藤堂はげんなりしている。

小田はその原因となるあだ名を聞いて、

笑ってしまったので否定しづらい。


「あのスーツはお兄さんのスキル“触手”のスーツを参考にしたものっス。

エネルギー不要、装着感は皆無。

動きをアシストして筋力を爆発的に上げる、

バフみてぇな効果も付けたっス

 その上で強度は以前のお兄さんのスーツより硬いっス。

世界的にもトップクラスの装備になんの不満があるのか、と

意気込んでみたら、色って。」


 作成者の意図しない使用方法で道具を使うユーザーは良くいる。

その用法のための機能がないのに、

上手くいかないとクレームをつけるやからもいる。


「こればっかりは、俺のわがままなんだけどさ。

“黒衣”って……。

ない、ない。」

「差し色に赤のスカーフでも巻くといいっス。

差し色でおしゃれ度アップっス。」

「赤いスカーフとか、どこの改造人間よ?」


 藤堂も無理を言っている自覚がある手前、

強くは言わない。


「櫻葉のスキルが元なら、

せめてサブアームとか付けられない?

小田さんのみたいな。」

「電源はダンジョン仕様にできてないので、

無理っス。

まぁ、ジュニアならスキルでダンジョン仕様にできるっスから、

無理じゃないと思うっス。」


 渋い顔をする小田に、

藤堂は感じた疑問をそのままぶつける。


「なんか不都合があるの?」

「サブアームとか、

本来は漫画や映画じゃねぇと成立しないっス。

 まず、電源と動きを制御する装着とは別に

装着者の意図を読み取るコントロール装置がいるっス。

その上、人間の身体には腕は二本なんで、

操作はかなりの難度になるっス。」

「櫻葉はホイホイ使ってるけど、

“スキル”で補助されてるのか?」


 藤堂が櫻葉の戦闘を間近で見た感想は、

変幻自在だった。

あれは無理でも少しくらいは、

と思ってしまう。


「それは、っスね。」


 小田が苦々しい顔で語りだす。


「あのスキルは本当に単純に“触手が生える”だけっス。

操作は完全なマニュアル。

オートで動作するのは、

人間の身体と同様に脊髄反射だけ。

 内臓のように筋肉の塊ではあるんっスけど、

ちゃんと“手”なんっス。」


 小田がため息のような息継ぎをした。


「だから、

年単位で反復訓練すれば、

あんな風に使いこなせるって代物っス。

いきなり、突然で使えるのはお兄さんだからっス。」

「なんか、言いづらそうだけど、

聞いて良いの?」

「ジュニアなら、良いと思うっス。

他の人はダメっス。」


 小田はロボットアームをクロスしてバツマークを作る。


「それは、なんというか。

アイツの昔のことが関係あるのか?」

「ジュニアのお察しの通りっス。

 わかりやすく言うと、

お兄さんは“自分の身体の境界線があやふや”なんっス。

あのアニメじゃねぇっスけど、

自分のフィールドって言うか、

境界線がほぼないっス。」


 藤堂は黙って続きを促す。


「おそらく、

幼少期の酷い虐待で精神が身体を“自分の物”とみなさない、

別の物として処理することで身体的苦痛を軽減してたっス。

 だから、

今もお兄さんは自分のダメージに鈍いっス。

あんな重傷でも動けてしまう。

動くから治るものも治らないっス。」

「悪いことにしか聞こえない。

ってか、それと“触手”になんの関係があるんだ?」


 小田はロボットアームを駆使してホワイトボードを引き寄せて人の絵を描き出す。


「あの親は異常っス。

聞いた話だけでも人間の所業とは思えないっス。

殺意とも違う、

お兄さんに苦痛を与える事に固執してたっス。

 お兄さんはそのダメージに対して身体が限界に近づく度、

精神と身体を切り離して冷静に行動するんっス。

まるでゲームのように、瀕死でも身体は動ける。

それで生き延びたっス。」


 藤堂の顔が曇る。

小田の顔も歪む。


「身体と精神が別だから、

お兄さんは感情の起伏があんまりないっス。

目の前の事象に対してモニタの絵をみてる気分、ってか、

モニタのプログラムコードを眺めてる気分が近いっス。

意味はわかるけど、実感が伴わないんっス。

 だから、他人に対する興味も薄い。

だから、ためらいなく拳を振るえる。

 お兄さんを人間たらしめてるのは、

間違いなくジュニアのお陰っス。

ジュニアがずっとお兄さんといたから、

お兄さんはコードじゃなくて人を見ることができてんっス。

 ジュニアは誇って良いっス。

人をここまで助けられるのは聖人だけっス。

だから、あたしもこのお話しをしてるっス。」


 突然褒められて照れる藤堂。


「いや、だから、

それと“触手”とはなんの関係があるんだよ?」

「良いっスか?

“自分がどこまでか”決まってないから、

突然手が増えても抵抗なく受け入れるんっス。

本来は異物扱いでもいいくらいの物っス。」


 小田は人の絵に一本の腕を描き足して、

その腕だけ黒く塗りつぶした。


「でも、生まれつき腕が幾つあったかすら、

お兄さんの中の概念として存在しない。

概念がないから、

増えても減ってもなんとも感じないっス。」

「ちょい待った。

減ってもって。」


 小田はマジックで描いた人の絵の腕を消す。


「怪我で四肢を失っても感覚が残るから、

幻肢痛とかあるんっス。

 でも、お兄さんにはそれが全くない。

逆に手が増えても、

産まれながらにあったように使える。

当たり前に、当然のようにっス。」


 小田は人の絵にたくさんの手を描き足す。


「今あたしもロボットアームを使ってるっス。

全部で四十八本のこれも、

動かすのに分業させてるっス。

腕の役割を二本、

他は足とか腰の役割をしてるっス。

現に今もマジックで描けるのは1本の腕でだけっス。

 でも、お兄さんなら、

数本で同時に別のことを描けてしまうっス。」


 人の絵のたくさんの手にマジックの絵を描き足した。


「それに、あたしもスキルがあるっス。

“接続”ってので、

電子機器に直接触れていればそれにアクセスして、

物によってはコントロールできるっス。

このアームはこのスキルありきの物っス。」


 小田は自分のロボットアームを広げて見せる。


「そして、お兄さんの境界線は広いんっス。

お兄さん、

本とか動画で格闘技の知識を仕入れてる、

って言ってたっス。

見とり稽古とか、聞いたことはあるっス。

でも、見ただけであそこまではなかなかならないっス。

 これも、境界線があやふやだから、

動画で見た他人の身体の動きを

自分の身体のものとして認識、学習してるんっス。」


 悪いこともあって、と小田は続ける。


「お兄さんがためらいなく人をかばうのも、

この境界線が広いからっス。

昔のジュニアやガーネットちゃんの危機を見て、

自分の身体の危機として処理する。

 でも、“安全圏にある本来の自分の身体は、

自分のものとして扱われない”。

だから、

本来の自分の身体を剣に、盾にしてかばうっス。」


 小田は頭をかいて補足した。


「あと、お兄さん見境がないから、

虫とか動物の動きすら自分の物として処理してるっス。

“触手”で蜘蛛とかトカゲとか、

比較的身近な人間以外の生き物の形をとるのはそのせいっス。

 あれはあんまり良くないっス。

自切の機能のある生き物が参考にされてるから、

ただでさえ雑に扱われてる身体がもっと雑に扱われるっス。

人間の腕は蜘蛛の足とか、

トカゲの尻尾みたいに生えないっスから。」


 まるで、失ったものを渇望するような力だ。

藤堂はそう思ったが、口には出さなかった。

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