第74話 白熱
研究所は急ピッチでポーションと“魔法使い”について調べ出した。
「ポーションなんて夢物語みたいなもの、
調べて良いなんて最高っス!」
ミタニさんが“勇者”ごと田園調布のダンジョンを封じて以来、
手に入らなくなったポーション。
小田さんと緒方さんが大喜びで調べている。
「“魔法使い”についても、調べてるぞ。
我の情報だと、ダンジョン学の先駆者とも呼ばれる、
かの竹谷教造教授が確立した技術とのことだ。
教授は私生活はおろか、
顔も声も露出しないことでも有名な方でな。
数十年ダンジョン学を専門でされている、
我々も尊敬する方だ。
秘密主義なのは昔からで、
“魔法使い”の研究もほぼ一人で完成されてる。
そのせいで、研究に関する情報が皆無だ。」
小暮さんがそう言う。
なるほど、筋金入りの秘密主義者か。
情報のセキュリティが固いのはもちろんだが、
知る人が少ないのは異常に思える。
「盗撮の件はおじさん、本気だしちゃうよ。
だから、涼治君はゆっくり休んで。
健治も装備ができて、
以前より張り切ってるしね。」
盗撮の件は未だに謎が多い。
おじさんの言葉に甘えて、お任せすることにした。
それと、藤堂の装備ができた。
俺のピッチリタイツスーツとは異なり、
プロテクターのような見た目をしてる。
「“精神感応繊維”だとさ。
あの全身タイツの検査のおかげで、
スーツを着てるのに裸みたいな感じがする。
落ち着かないから、
コートも作ってもらったよ。
でも、イメージ通りに身体が動くし、軽い。
この飛び出すワイヤーとアンカーは左腕だけにしかないけど、
とんでもなく良いよ!」
このスーツは俺の“触手”スーツを参考にしたらしい。
パワーアシストもできて、頑強なものだが、
藤堂の言う通り動きは邪魔しない。
頭部は最初フルフェイスメットだったが、
視界を塞ぎたくない藤堂の要望でヘッドギア型に変更したとか。
バギン、とドラム缶がへしゃげる音がして、
筋肉のように身体の各所が膨れて盛り上がるスーツは、
“マッスルスーツ”と呼ぶにふさわしい。
左腕の甲の方にワイヤーとアンカーが内臓。
打ち出す速度は弾丸と変わらず、
ワイヤーの長さは三百メートル。
モーターは二トンの重さまで引き寄せる馬力があるとか。
蜘蛛スーツとは少し違う。
これは、妖精のスーツだ。
コートも着てるから、
俺としてはトランプとか棒を持ってもらうのもアリだ。
「ネルとミタニ様のご協力のもと、
アルジ様の身体を保護する魔法を開発しました。
筋量、体力の低下を防ぎます。
ただ、回復までは至らないようです。
申し訳ありません。」
「短期間でそこまでできたんだ。
十分ありがたい。
皆、ありがとう。」
俺はそう言ってガーネットを頭を優しく撫でる。
だが、視界に入った自分の腕は細く華奢になっていた。
ふた回りどころか、
かなり縮んでしまった俺の身体。
幼少期の傷痕で突っ張っていた皮膚が少し弛むほどだ。
さっそく魔法をかけてもらったが、
かなり具合が良い。
おかげで、松葉杖は一つで歩けるほどになっている。
この数ヵ月の研究の結果、
バフや祝福、呪いは“ステータス”ではなく、
俺の身体に直接かかることがわかった。
「あれだ、ほら、身体がないヤツがいるだろ、
ヲタとか。
でも、生きてる。
バフもかけられる。
つまりは、身体は“どっかにある”んだよ。
ここじゃぁないどこかにあって、
ステータスがそれを隠してる。
俺はぁ生き物は専門じゃねぇが、
それを解読できりゃすげぇ刀とかも造れるはずなんだよ。」
眠そうな泉屋さんは、そう説明してくれた。
四徹らしい。
俺は強めに寝るよう伝える。
ダンジョンにはまだ行けていない。
行きたくても、この状態ではかなり難しい。
いつか大ケガしたときと違って、
痩せ細った身体では安全マージンもろくにとれない。
「何を差し置いても、
このゲームみたいな身体がべらぼうに不快だ。」
俺は思わず呟いた。
そう、ゲームみたいな、だ。
一定値を越えた途端動かなくなる身体。
一定値までしか出力できない腕力。
ステータスに身体能力の閾値が決められている。
仮説は、単純に言うと“アバターのようなものを動かしている”。
本当の身体はどこかにあるが、ここにない。
だから、ステータスが“アバターのような身体”を用意して、
本当の身体は遠隔でそれを動かしている。
意識や感覚はアバター側にあるので、
本人は身体がここにないことに気づかない。
しかも、アバターと身体は同調してるので、
アバターが死ねば死ぬ。
でも、動かすのにステータスを経由するので、
ステータス以上のことはできない。
本来の身体の能力以上を発揮できても、
身体に染み付いた動きが全てリセットされている。
反復訓練したものが、全て使えない。
俺にとっては、アバターの良い部分が一つもない。
そこまで調べるのに、
かなり時間をかけてしまった。
いつの間にか夏休みは終わり。
残暑が厳しいものの、学校は後期に入った。




