第73話 白旗
「死にかけの重傷、って報告したやつ、
誰だよ。」
リーダー格の青年はそう呟く。
なるほど。
今俺が弱ってるから、
捕縛してしまおうと言う魂胆だったのか。
確かに俺は以前より弱ってるが、
コイツら程度ならどうと言うことはない。
「俺を捕まえたきゃ、
“魔王”くらい連れて来いよ。」
俺はさらに煽る。
だが、どうやら全員怯えてしまって、
動こうとする者自体いなくなった。
もう一度魔法で攻撃させたかったが、
失敗だったようだ。
「やっほー!
皆、元気ー?」
教育テレビのお兄さんのように、
藤堂が車椅子を押しながら部屋に入ってきた。
怯えていた入り口そばの隊員が反射的に藤堂へ銃口を向ける。
藤堂はその瞬間に隊員から銃を奪い、
隊員の腕をへし折って持っていたグレネードランチャーの銃口を突きつける。
さすがの早業だ。
腕を折られた隊員は呻きながら震える。
「鍛練不足だね。
君たちも、
国がなくなって無法地帯になった大陸を歩くと良いよ。」
「藤堂、
ソイツらにそんなアドバイスする意味ないぞ。
そんな機会は、もう来ないんだからな。」
俺と藤堂のやり取りを見て、
“富岳”隊員たちの顔に絶望が広がった。
「戦闘中?」
「まぁな。
ちょうど良い。
藤堂、代わってくれるか?
俺がやると死体も残らないからな。
藤堂なら、死体を回収できるだろ。
“魔法使い”のサンプルとしていただこう。」
「俺にはどこまで破損させるとダメか、わからんよ。
櫻葉が“触手”で絞め落として、
生け捕りでよくね?」
まるで、まな板の上の鯉のような扱い。
リーダー格の青年は俺と藤堂をにらむ。
美少年は自分の失策を悔いてか、頭を抱えている。
藤堂が頭をかきながら尋ねてきた。
「ポーションをもらうんじゃなかったの?」
「コイツら、報酬を踏み倒すつもりらしい。
だから、現地調達だ。
“魔法使い”のサンプルなら、
ポーションと同価値かな、ってな。」
雰囲気に耐えかねて、
更に隊員の何人かが床にへたり込む。
もう立っている“富岳”隊員は片手で数えるほどしかいない。
付け足せば、
まだ戦意を保っているのはリーダー格の青年ぐらいだ。
「俺、さっき自衛隊の人からポーションもらったよ。」
「そうなのか?」
藤堂は懐から1本の瓶を取り出した。
「俺は“鑑定”できないけど、たぶん本物だよ。」
ガーネットが念話で本物だと告げる。
「もらったなら、良いか。
帰ろう、藤堂。」
「おっし!
車椅子乗るか?」
俺に駆け寄る藤堂。
俺は“触手”スーツを緩めて、
藤堂が押してきた車椅子に座る。
「あ!
……あの。」
美少年が声をかけた。
この状況で俺たちを引き留めるとは、
なかなかの根性だ。
俺はため息混じりに言う。
「なんだ?」
「……謝罪します。
申し訳ありませんでした。」
ほぅ、謝るのか。
今のこのタイミングで。
美少年は深々と頭を下げた。
今も俺をにらみながらも何も言わないリーダー格の青年より、
こっちの方がリーダーっぽいな。
俺が感心していると、藤堂が口を挟む。
「自分の実力を理解できて、
なおかつ無傷で済むのは奇跡だからな。
精進しろよー。」
「藤堂、その言い方おじさんっぽいな。」
「え。
そんなつもりなかったけど。
マジか。複雑な気分。」
駄弁りながら俺たちは部屋を出た。
人質とその辺に転がってる死体の処理はコイツらに押し付けよう。
藤堂に車椅子を押してもらいながら、
得たばかりの情報を姿を消している三人から受けとる。
「アルジ様、詳しい情報は研究所に回しました。
とりあえず、
気になるものをピックアップしてお伝えします。」
ガーネットがそう言いながら俺の膝の上に座る。
それを見たネルが反応するが、
まだ分析中のようでガーネットを恨めしそうに見つめることしかしない。
「まず、隊員たちが全員十代でした。
若すぎます。
魔力には確かに生まれつきの要素もありますが、
筋肉と同様に成長と訓練で伸びるものです。
十代より年上の方が良いことのが多いはずです。
青田買いだとしても、
今前線に出すなんてあり得ません。」
若さで言うと俺もそうだが、
あのリーダー格の青年や美少年はたぶん俺と歳が近い。
自衛隊の規則に詳しくないが、
さすがにあんな未熟な隊員を戦地へ行かせるのは無策過ぎる。
「二つ目は、ステータスです。
彼らのステータスに“魔力”の値はありませんでした。
藤堂様のステータスと同様に、
どちらかと言えば前衛向きの者ばかりです。」
魔法が使えるのに“魔力”がない。
例の“手術”がどんなものか知らないが、
怪しい感じがする。
「最後がとびきりです。
彼らの所持する“スキル”に、
魔力を行使するためのものは一つもありませんでした。
むしろ、“スキルなし”の隊員ばかりです。
あの副隊長と名乗った人が、
“魅惑”のスキルを持っていたぐらいです。
補足すると、
“魅惑”は同性、異性、種族も問わず、
接した相手に好意を持たれやすくなるスキルです。
魔力も魔法も無関係です。」
あの美少年、魔性だったのか。
俺は俺の中の彼の評価を少し下げる。
スキルで感覚に下駄がはかされているかもしれないからだ。
俺はとりあえず三人に礼を言う。
「ありがとう、ガーネット。
ネルとミタニさんも、助かった。
ありがとう。
“賢者”は、まだ仕事中か。
ありがとう。」
ガーネットが満面の笑みで喜ぶ。
ネルは恥ずかしそうに微笑んだ。
ミタニさんはピースサインをして笑う。
“お寿司を握ってもらえるくらい回復してもらわないとですし、お寿司!”
“賢者”、貴女はさすがだな。




