第68話 白鷺
ニュースの後、世間は騒然とした。
財前の遺体は国の研究所の所員が紛失したらしい。
医学の専門家なら、
人の臓器から何からバラバラにして売りさばける。
だが、今回は関わっていた研究員全員が関与を否定している。
認めたのはアルバイト大学院生の殺害と遺体損壊だけ。
「さすがの国も、
司法も見逃せないって。
ポーション事件で組織を解体して、
人員洗って再編してもこれだからね。
見せしめも兼ねて、
ポーション事件のときに誰か逮捕しとくべきだったんだよ。
貴重な人員だとか言わずにね。
無罪の前例を作っちゃったんだから、
何もかも今さらだよね。
重大な問題が起きてから、対策だって。
本当の愚か者は、これだっていう感じ。」
おじさんがため息混じりにそう言った。
俺はそちらより気になることがある。
「あの動画はどこから撮影して、
どこから漏れたのかわかりましたか?」
「それは全く不明。
透明になれる、とかの
“スキル”で撮影された可能性すらあるよ。
ネットへの漏洩も既にIPは捨てられてて、
残る後続は愉快犯や承認欲求モンスターの犯行だ。」
あの教会で俺が遺体のすり替えに気づいて腹を立てたことを、
どこかかから誰かが動画撮影していた。
それがリアルタイム生放送されていたようで、
また呉羽さんたちが火消しに奔走してくれている。
おじさんが情報を追加する。
「米国を皮切りに、
各国首脳がこの件を関与を否定する発表をしてるよ。
特に前科のある米国は慌てて、という感じ。」
ポーション事件のことがあり、
財前の遺体すり替えについても海外の勢力によるものと見られていた。
しかし、早々に各国が記者会見をして否定している。
「米国大統領がそれだけのために会見を開いた。
あの涼治君の怒り様を見て、
不安になったみたいだね。
今までさんざん非難してたのも、
日本国政府を非難してたんだ、とか。
彼らは何枚舌なんだろうね。」
俺個人としては、
誰にも気づかれず撮影された方が気になる。
だが、おじさんの言う通り、
“スキル”によるものなら防ぎようがない。
「私もネルもいながら、
気づかれず撮影されました。
悔しいですね。」
「気に病むことはないよ、ガーネット。
俺も気づけなかったしな。
今回は藤堂もおじさんも、
そう言うのに鋭いはずの人が皆気づけなかった。
何らかしらカラクリがあるんだろう。」
動画の画角や画質を電脳研で見てもらったが、
撮影者はかなりの至近距離にいたらしい。
「アルジ君から半径五メートル以内に撮影者がいた、
って考えても何もないね。
私も私たちもあの時のことを再検証したけど、
何も見つからない。」
「ミタニさんも“賢者”さんも何も見つけられなかった、
となるとやはり“スキル”による隠蔽か何かだと思います。
ガーネット様、動画がまたアップされてます。」
ネルは液晶モニタを指差して言う。
そこには俺がしっかり写っていた。
怯える研究員の表情が
はっきりわかるくらいレンズが近い。
「学校生活も下手すると撮影される可能性があるね。
涼治君、少し前から通ってるんでしょ?
おじさん、学校に問い合わせてみるよ。」
「松葉杖姿の俺は目立つんで、
望遠レンズでも撮影可能かと。」
葬儀からしばらくして、
俺はやっと通学できるまで回復した。
期末テストには参加できたが、
松葉杖が手放せないため球技大会には不参加だった。
やはり、身体が上手く動かない。
「父さん。
もうすぐ夏休みだし、
しばらく俺も櫻葉の研究所に通うし。
今から学校に問い合わせても遅くない?」
「まぁ、撮影者に対して警戒しているって、
メッセージにはなるよ。
おじさん、行ってくるね。」
そう言い残して、おじさんは去っていった。
俺の部屋は変わらず狭い。
おじさんが出ていったが、それでも狭い。
俺と藤堂がデカイことを差し引いても、狭い。
「藤堂の言う通り、家が欲しいな。」
「やっぱりそうだろ?
ここは父さんの物件だがら、
安全性は高いけど狭いんだ。」
藤堂は流れるようにテレビの電源をつけた。
ミタニさんがお茶を俺の湯のみに注いでくれる。
「身体が上手く動かない状態でのこの寝床は、
結構きつい。
キングサイズのベッドか、
せめて布団を三つくらい並べたい。」
「予算的には簡単ですけど、
物件がなかなかありませんよ。
タカミ様にもご相談しましたけど。
商業ビルは、意外に小さいのですね。」
ガーネットが資料をめくりながら言う。
タカミさんがすぐに入れる物件をリストアップしてくれたものだ。
だが、どれも俺にはいくぶんが小さい。
「前に櫻葉が言ってたぶち抜き壁なし五十畳、
なんてなかなかないよな。」
「壁の厚い物件なら改築してそれに近いものは造れるらしいが、
なかなかないって言われた。
キングサイズのベッドも玄関から入らないそうだ。」
日本の物件は、
一部屋の広さより部屋数が多いのが人気らしい。
俺は寝室とその他の二部屋、とかで良いのだが、
そんな物件は単身者用のマンションになる。
「横に広いと、今度は天井が低いんだ。
藤堂でも、天井で頭をするくらい。」
「俺でするなら、櫻葉は頭がめり込むな。」
「土地を買って、とも考えたが。
最近土地の値段が跳ね上がっててな。」
「櫻葉の効果か?」
「おじさんとタカミさんも、
そう言ってたからそうだと思う。」
声を大にして安直と言いたいが、
俺の生活圏の土地の値が五倍以上になっている。
俺の住む辺は地味におじさんが牛耳っていたので、
大事になっていない。
だが、少し離れると壮絶な争奪戦が起きていると聞いた。
地上げや地面師、
なんて言うものまで出てきているらしい。
俺の家の近所に住んでるだけでは何も変わらないと思うが。
「皆、テレビ見て!」
ミタニさんが突然声をあげた。
俺たちは身体をテレビの方を向ける。
画面がバラエティー番組から特報のニュースに切り替わった。
流れるニュースの内容に、
俺は頭を抱える。
「……これは、ないな。」
藤堂がそう呟いた。
ガーネットとネルがパソコンに向かう。
ミタニさんは俺の携帯で研究所に連絡した。
“アニメとか映画だと、
これ破滅フラグっていうんですよね。
わかります。”
“賢者”がそう言う通りだ。
誰が見ても破滅フラグだが、
それをつかむ程日本政府は追い込まれていたらしい。
おじさんとタカミさんに、
何がなんでも国からの要請は全部断るように言っておこう。
「“魔法使い”の防人か。」
俺は呟いた。
モニタに映る青年たちは、
手から炎や水を出している。
ニュースのタイトルは、
“魔法使い”を人為的に作る技術の発見。
これが破滅フラグじゃないなら、ナニがある?




