閑話“憤怒”
何もできない。
でも、なんとかしたくて廃墟の中をさ迷い歩く。
道に倒れている人を見れば、
駆け寄って声をかけた。
誰も彼も、死んでいた。
矢はもう飛んでこない。
でも、戦闘音が遠くで聞こえていた。
きっと、彼らが闘ってる。
周囲には人影も敵影もない。
風が土ぼこりを巻き上げ、
何かが焼け焦げる匂いがする。
そして、私はここにいるだけ。
大きな音と強い光が周囲を包む。
決着の時だと解る。
私のせいだ。
光が晴れて、
視界には生活感の溢れる廃墟が見えた。
繁華街の賑わいすら感じ取れる。
もう、元には戻らない。
小さい子もいる家族の遺体を見つけた。
他と同様に丁寧に弔い、並べておく。
私が殺した。
ふと、顔を上げると、
向こうから見知った顔が駆けてくる。
“大和桜”のメンバーだ。
彼らは自衛隊や救急隊を引き連れて、
私に駆け寄って来た。
「黒川さん!
無事でしたか?!
今、モンスターが全て討伐されたと連絡がありました!
救護班!
黒川さんを!」
終わったんだ。
安堵感は全くない。
自分を取り囲む人たちに申し訳なさ過ぎて、
救護を断り自分も同行したいと言った。
「ダメです!
装備もないし、
ボロボロじゃないですか。」
仲間たちはそう言って、私を担架に押し込めた。
彼らは知らない。
私が全て悪いんだ。
でも、彼らは心配そうに私を見る。
やめて。
無理だ。
今は被害者のフリ(演技)なんて、できない。
少し離れたところに、救急車が複数待機していた。
さっきの場所より壁から遠い位置だ。
処置を受けながら、
たくさんの遺体袋が運ばれていくのが見えた。
私が殺した。
そこに、
ひときわ大きな声が聞こえる。
白衣の人達がどこかへ駆けていく。
その声は聞き覚えのある声だった。
櫻葉さんの研究所の人だ。
その人たちは大きな担架を引っ張って駆けていく。
櫻葉さんになにかあったんだ。
私は身体を持ち上げて、担架からおりる。
彼らを追って歩いていくと、
担架に乗った櫻葉さんがいた。
血の気が引くのが解る。
藤堂さんがその大きな担架を押して、
どこかへ向かって行く。
研究所の人達はそれを追って行った。
櫻葉さんの身体はよく見えなかったが、
周りの彼らの顔つきでただ事じゃないと理解する。
「黒川さん!」
聞き覚えのある声だ。
振り返ると、
壁の周囲にいた“大和桜”のメンバーたちがいた。
四つの遺体袋を担架に乗せて運んでいた。
「黒川さん、無事でしたか!
良かった!」
良くない。
でも、彼らは泣いて喜んでいる。
おかしい。
違和感に気づく。
でも、気づいてはいけないと、直感がささやく。
風呂場でゴキブリの気配を感じたときのような。
重要な書類やなんかを誤って捨てた事を、
ゴミ収集車が行った後に気づくような。
足りない。
そうだ。
足りない。
一人、足りない。
いつもなら、ここで皮肉か軽口が……。
私は彼らの運ぶ遺体袋の一つが、
やけに小さいことに気づいた。
嘘だ。
彼は泣きながら、
“私が気づいたこと”に気づいた。
「黒川さん、……財前さんが。
……財前さんが。」
私は震える足をなんとか運び、
その小さい遺体袋にすがり寄る。
震える手が、ジッパーを上手く掴めない。
引っ掻くように、ゆっくりジッパーを開いた。
そこには、財前吾朗がいた。
息ができない。
声がでない。
視界がぼやけているのに、
嫌になるほどよく見える。
吾朗のこめかみに穴が空いている。
どう見ても即死だ。
これでは魔法でも助からない。
私のせいだ。
右の顔のキズが露になっている。
手足がない。
息をしていない。
ゆすっても、何も言わない。
こんなに近くにいるのに、
おしゃべりな彼は何も話さない。
死んでいる。
私は何をしていた?
あてなく廃墟を歩く暇があったのに、
戦場へは向かわなかった。
誰よりも早いのに。
私は何をしていた?
飛び交う矢を防ぐとこもできず、
死に行く人々を救うこともできず。
誰か助けて。
私は何をしていた?
誰もよりも、何よりも、
自分が憎くて腹立たしくなってきた。
私は、私の、私が。
「私のせいだ!」
かすれた金切り声で叫んだ。
演技でもなんでもない。
私がそこにいた。
誰のせいにもできない。
ただ一人舞台に残されたオーギュストは、
笑ってる。
クラウンは、もういない。




