第8話「はじめての散策と金貨」
テト歴108年4月2日、朝5時00分。王都内。
正直、あんな戦闘が何度もあってたまるか! とは思う。
それほどまでに初日のイベントは他の冒険者にとっては刺激が強すぎた。
まぁ、おっさんにとっては自称「激辛カレーです」と呼ばれる小説作品を読んでしまっているというマウント的アドバンテージがあったので耐性はあった。
むしろありすぎた。自衛隊スナイパーの死体は、そのまま王都の墓地地帯に普通に地面に埋葬されたらしい。正直ゾンビになって出てこないでくれよ……とかおっさんは思ったが、いらぬ心配だったようだ。何もイベントは起きなかった……街には平和が帰って来たらしい。
無事、朝を迎え、ループが起きたことを確認した自衛隊のケイサツは、緊張の糸を切らさずに、そのまま眠りについた。
(ケイサツさん、やっぱあんたスゲーよ……)
普通いきなり異世界へ放り込まれたら、一般人だったら錯乱して暴挙に出るのは必至……相当何かしらの形で訓練されたんだろうな……。とおっさんは思う。
6時00分、王城から外へ出て城下町へ向かうループとテンセイ。
残り1人起きている、バクゴウを実質見張り役にして外へ出る。
王城な上に屈強な騎士団も見張りでいるのに警戒感が半端ない。
何せ王様に一度騙されて殺されてるのだ、バクゴウ自身には自覚が無くとも、何かしらの警戒感が頭をよぎる。最悪の事態を想定するために、今だ窓の無い呪術師の召喚部屋から出ていない、流石にトイレとかでは外へ出るが、それ以外は出ない。
まるで敵国に飛び込んで怯えている獣そのものだった。
「あの……ループさん」
テンセイTS美少女がおっさんに声をかける、見た目は幼女。中身は18歳の少年? らしいのだが、いまいち変な組み合わせだった。
「何だテンセイ?」
「おれ、こういう異世界召喚って初めてだから。街へ出るって言っても何を重点的に視れば良いのかわかんねーんだけど……おっさん経験値高そうだし」
先の戦いでのおっさんの統率力の経験値の事を言いたいのだろう。
何の経験値だよ……とかおっさんは思ったがココはスルーしておこう。
さて本題だ。おっさんは今までの人生経験をフル活用する。
「そうだな、まず〈街か世界地図〉の入手だ。情報でも良い、これが結構重要でな、あとは〈宗教〉関係、何が地雷か解らん。毎日決まった時間に太陽に向かって土下座して祈りを捧げないと死刑……とかの世界観だったら詰む」
「むう……なるほど、この土地の地図と宗教か」
まあ、〈トイレの場所〉とか〈食料の入手方法〉とかの説明はこの際省略した。おっさんの重要事項は〈何をやったら危険か、危機回避の方法〉を知っとかないとマズイと言う所だからだ。
と言うことでまずドコで情報を得るか、だ……ここは素直に雑貨屋に入ることにした
ループとテンセイ。
「いらっしゃい!」
「おっさん、これで情報や地図を売ってくれないか? つりはいくらになる?」
言って、ポンと1枚金貨をテーブルに囲碁を指すように置いた。それは金貨だ、銅貨や銀貨ではなくて金貨だった。金貨はただの金の塊では無い、通貨として誰か偉そうな人間の顔が刻印されている。
王様が謝罪の意味も含めて多めにくれたのだ、金貨の沢山入った袋を。
「いイィ!? 金貨!? お客さん何考えてんだい!?」
「「……はい?」」
何も解らないループとテンセイ、もちろん前情報なんて何も無いし伏線も無い。
「金貨1枚で家一軒作れちまうよ! ウチの店や商品全部やウチの家族を購入したってお釣りが来るわい!」
(え、マジで? この金貨1枚でこの店と家族買えちゃうの? 何か王様から50枚ぐらい金貨が袋に入ってるんだけど……何? マンション経営でも俺達始めるの? ……じゃなかった、まず冷静になれ俺!)
おっさんはかなり焦る、この場の情報量と金額が釣り合ってない。
と、テンセイ幼女が口を挟む上に話を勝手に進める。
「じゃあさ、この金貨1枚あげるから、俺達の質問に全部答えてよ」
「お、おい……」
何を考えてるんだという表情のループに対して笑顔でテンセイが答える。
「良いじゃん、ここでこの商人さんの知ってる情報全部知っとけば2週目で実質0円だぜ? タダじゃん。ニヒ!」
可愛らしい笑顔を見せるテンセイ、本当に可愛いし悪気があって言ってるわけでは無い純粋無垢な表情を浮かべているが。言ってる言葉がドス黒い。
「おい! ループする前提かよ!」
「へへへ! 頼りにしてるぜキャプテン! 俺が死んでも2週目の俺によろしくナ!」
嫌なフラグを立てないでくれ、イヤマジで。とおっさんは思った。
幼女の不幸とか死んでも見たくない。
店員は訳もわからずキョトン顔だが話を続ける。
「……長話をご希望なら、そこで座って話でもしようか」
ループとテンセイと商人の男は、店内のテーブルと椅子に腰掛けた。
そして高級そうな紅茶っぽいものも商人は入れてきてくれた、おっさんは一口飲む、……甘くて美味しい。心が安らぐようだ。
そしてこの世界についての長話が始まる……。