第3話「1日限定ループ」
テト歴108年4月1日16時00分。
その後、和気藹々と他愛も無い当たり障りの無い会話を続けた。
皆おっかなびっくり話しているが、どうやら全員元は日本人らしくて安心した、だから日本語が通じるわけで。
と、その時。カン! カン! カン! と塔の上から見張りが役の兵隊が警鐘を鳴らす。兵は「敵襲! 敵襲!」と周りが慌ただしく動き出し、鎧を着た兵隊達が隊列を組んでいく。敵の数は武装した盗賊30人と牙付きのマンモス1匹。
何だ何だとおっさんは3階から街の外を視ると、戦闘が始まっている。
ループがおっかなびっくり窓から一部始終を見ていると、一目散に走り出したのがケイサツとバクゴウだった。
「お、流石戦闘員。行動が早い」
オタクは異世界での戦闘を生配信して日本国? に向かって電波を流し続けている。
「こんな異世界で閲覧数とか稼いでも1円にもならんぞ?」
そもそも、通過が円ですらないので。仮に稼げたとしても円だから意味が無い。ただの目立ちたがり屋だった。
テンセイとバケモノとアクヤクは王城の奥の方でビクビクしている。
バケモノとアクヤクは解る、普通に女子だから。だが、テンセイは心は男なので「いやお前、男なら状況観察ぐらいだな……」と思うところはあった。
門の近くでは、剣や弓矢による激戦が続いていた。
そこへ、颯爽と現れたのがケイサツとバクゴウである。
「周りの盗賊は俺が倒す、バクゴウはあのマンモスを何とかしてくれ!」
元自衛隊、ケイサツが拳銃を発砲。パンパンパン! と軽く重い音が響く。
剣しか持っていない、盗賊30名は拳銃という謎の武器に対処できず、次々と倒れてゆく。
その間にバクゴウが演唱呪文を唱え始める……。
《空想庭園、獄帝の竜王! その覇道を貫きしは漆黒の灯ともしび!》
《混沌世界の概念を浄土と化し、黄昏の日の元に壊滅かいめつせよ!》
《絶対の焔よ、円廻の理より還るは覚醒成る両翼!》
《大いなる破局を我が神眼に示せ!》
《森羅万象、誓約の名の下に、あまねく魂に悠久の炎を!》
極大火属性魔法『スーパーフレア・フルバースト!』
瞬間――爆轟の名の通りの爆音。
巨大マンモスは上手にお肉となって焼けた……。
残りのモブ盗賊は去って行った。
「いや、連携良すぎだろ……」
ケイサツとバクゴウは戦闘が得意、……これで良くわかった。
そしておっさん含めて、戦闘では役立たずがループ、テンセイ、バケモノ、アクヤクだと言うことがこれで解った。
何かあったときはあの2人に頼むべきだ、……だがこの2人が居ないと詰むと言うこともこれで解った。
7人中、5人が戦闘では役立たず……。
「……ん~~王様短剣をくれ、長剣とかは訓練してないから使えないけど。ナイフぐらいだったら護身用であっても良いはずだ」
ということで、冒険者特権で王様から〈ふつうの短剣〉を貰う。
流石におっさん自体が戦えないほど非力かというと、そういうわけでも無いので。
これは良い選択だと思う。
「問題は、街の外を出ると盗賊団が居るってことか……」
おっさんは時計と国王からメモ帳を貰う。
【テト歴108年4月1日16時00分。盗賊30人とマンモスゾウが門の前で街を襲う】
「テト、このメモ帳を持ててループ後に渡す事は出来るか?」
『まーメモぐらいだったら良いかな。〈大切なもの〉とかはまだ考えさせて』
「オーケーそれでもいい、助かる」
これで、ループ2週目で盗賊を迎え撃つことが確定となる。ケイサツとバクゴウが到着する少し前。多少なりとも兵士達が血と共に犠牲になった、命が死んだ。
それを回避出来る……。
そうこうしている内に17時00分、……日が暮れてきた……。
18時00分。
すかり夜になって。冒険者召喚に成功の祝賀会が執り行われた。
流石に王城だけあって、宴会は華やかだった。よかった、歓迎されている……と安心するループ。
王城だし、部屋の守りも堅い。誰かが攻撃してくることも無いだろう。
「今日はもう夜だし、何も起きないんだったら眠っても良いか。……寝よう」
そう思って、ケイサツの腕前を褒め称えて。自分の自室は何処かと聞き。
メイドさんに部屋まで案内して貰ってあとは寝るだけ……とその時。
鬼のような悪夢が再び笑顔で微笑んだような悪寒が走った――!
パアン! パアン!
2発の銃声、ループが後ろを振り向いた瞬間には。ケイサツとバクゴウが何者かによって銃撃されていた。
慌てて、ケイサツの方へ駆け寄ったら。ケイサツの第一声が「隠れろ! 窓の外だ!」だった。
ここで王様が意味深な言葉を無意識に発する。
「ひー! やっぱり来てしまったかー! 怖いよーう!」
!? おっさんは聞き逃さなかった
(そういう事だ? 前から知ってたって事か? 知ってて俺達に言わなかったのか?)
瞬間、ケイサツを置き去りにして。窓から離れて壁柱へと隠れるループ。
そしてケイサツがループに顔を向けて、叫んだ」
「M24だ!!!!」
パアン!
次の瞬間、ケイサツは脳天を撃たれて絶命した。
M24? 何の単語だ? 一般市民のおじさんには解らない。
対人狙撃銃、M24SWS。有効射程800M。
陸上自衛隊として初となる本格的な対人用の狙撃銃の事である。
つまり敵はスナイパーライフルを使ったことを意味するのだが、やはりおじさんには解らない。
ヤバイ状況なのは解る、しかし。ループ出来るとは言え、ギリギリまで情報は欲しい。何かループする前に、何か少しでも鍵となる情報を手に入れておきたかった。
「ク! ……この!」
壁柱の向こう側から見る、窓の外からは時計塔が見える。
『あ、そうだコレ言うの忘れてた』
横からテトが話しかけてくる。テトは神、霊体なのでこんな時でも悠長である。
「何だよ!?」
『デイライフのルール。【死んだり死後の世界では、この魔法は発動できない】なんだよ』
「それを速く言え! 自分が死んだら使えないって事じゃねーか!?」
その間もパンパンパン! と色々な物が壊れている。明らかに銃撃戦だ。何で剣と魔法と弓矢の世界で敵側の銃が乱射できる!? と顔面蒼白になる。
そうも言ってられない、ケイサツとバクゴウが死んだ。次へ生かすには自分は生き残って居なければならない。
「あーもう! 1日限定ループ!!!!」
瞬間、真っ白な光に包まれた……。
……。
――――。
異世界テトリシア、テト歴108年4月1日12時30分。2週目。
「おお冒険者よ、死んでしまうとは情けない!」
「ちげーよジジイ! こういう時はよく来た冒険者よ! って言うんだよ!」
始まりは、王様と遊戯の神テトとの軽快な第一声から始まった。
よく見ると、この儀式の間に窓は無いことにおっさんは気づく……!
「てめえ王様! どういうことか説明しろ!」
おじさんは、王様の胸ぐらを掴んで激怒しながら叫ぶ。
1日1回1度きりの能力を使ってしまった。
もう後戻りは出来ない、おっさんは王様に決死の覚悟で状況説明を要求した。
銃撃戦開始まで、残り5時間30分。