こんな生活もいいのかもしれない
――いた。
前方の草むらの中に飛び切り大きいやつが。
気づかれないように弓を構え矢を番える。そして静かに狙いを定める・・・
・・・・・そして放つ。
どう、と獲物が草むらに倒れる。そして獲物に近づくとそれは大きな猪だった。矢は見事に的中し、獲物はもう息絶えていた。
今、矢を放ったのは篠宮真治。
彼はここ日本・・・否、日本であったところで狩猟生活をしている。
「今日は大きい獲物だな。
もう今日はいいか。」
時はもう日が陰るころ。夜になると野犬に襲われてもおかしくは無い、しかも狂犬病を持っているかもしれない、やっぱりこの生活は都合の悪いものばかりだ。
彼は少し前ならこんなことを考えなくてもよかったのにな、と思いながら帰路に着く。
そう少し前ならばこんな生活も犬に怯えなくてもよかったのだ。
§§§
この国がおかしくなってきたのは今から30年ほど前、しかし最初のころはみんなそんなに気にはしなかった。
彼、篠宮真治はそのころに生まれた子供の一人だった。
事の発端は世界で人口爆発と呼ばれる現象が起きていたこととこの国のように食糧自給率が低い国のあったことだった。
世界人口は人口爆発により急激に増え、諸外国での食糧需要が増加しもちろん輸出用の食糧は自国用に回された。その結果日本のような外国に食糧を依存してきた国は食糧が不足しことごとく消えていった。
日本もその国のひとつだった。食糧自給率40%という低さでは食糧不足には太刀打ちできずにどんどんと衰退し、いまや国という形こそ維持してはいるがもうなくなったと同じだった。
そのとき日本国民はいくつかの者に分かれた。政治家のような金のあるものは早々に外国へ移り住み、残された国民の殆どは餓えていって死んでいくものいた。
しかしその国民の中でも幾分かマシな人もいた。そう、真治のような武術の心得があったり、猟銃の使えるものたちだ。彼らは自らの力で獲物を捕まえ、それを食糧とし、またそれを商品とし飢えを凌いだ。
しかし猟銃なども使うものたちはすぐに弾薬がなくなり飢えていった。
そして多く生き残ったのが武術の心得があるものや成功した商人、行商人、農民たちだった。
この国はそういったものが多く生きる弱肉強食の世界になった。
§§§
真治は森を抜け自分の住んでいる家に着いた。
この家には自分と同じく両親を亡くした幼馴染の渡利優美が同居している。
「あ、おかえり〜。どうだった?」
彼女は飼い猫とじゃれながら彼に訊く。
「上々だな。ほら。」
彼は今日獲ってきた猪をどうだとばかりに見せつける。
「大きいね〜、これじゃあ少し干し肉にしたほうがいいかなぁ?」
「そうしないと肉が腐っちゃうだろうな。」
二人とも獲物を見ただけでそれをどう調理すればいいのかを判断できるようになっていた。
それはすごいといえばすごいのだがいかにこの国が廃れているかということも窺い知ることができる。
「じゃあ早くしたほうがいいね。
とっとと調理しちゃおうか。」
彼女はどうすればいいかと考えながら猪を見て周っている。
「まず適当に捌いてみたらいいかもしれないぞ。」
「う〜ん、それもそうだね。
それじゃあ少し手伝ってよ。」
「分かった。」
そう言って彼もどこから捌くべきかと考えながら猪にむかって歩く。
「どうする?やっぱり内臓から抜き取る?」
「まずはそうするか。」
そんなことを言いながらどんどんと捌いていく二人はもうこんなことは手馴れたものだ。
こんなことをするなんて少し前は考えも及ばなかっただろうなと思いながら彼はどんどん猪を捌いていく。
「こんなもんか。」
「そうだね。じゃあどこを干し肉にしちゃう?」
「モモでいいか?」
「うん、そうしよ。」
そう言って彼らは肉から脂身を取り除くと真治があらかじめ用意しておいた塩水に漬けていく。
やっぱりこれも手馴れた手つきだ、彼らはもうかれこれ10年ほどこの作業をしていることになるのだから。
そう思うと真治はやや暗い気持ちになる。
「これで全部か?」
「全部だと思うよ、って、みぃ食べちゃ駄目でしょ。」
優美は肉に手を出そうとしていた飼い猫のみぃを抱き寄せる。
「優美、この肉はもういいか?」
するとそれを見ていた真治が小さな肉片を指差す。
「これは今日の夕食で、これは明日のだからたぶんいいと思うよ。」
「さんきゅ、ほれみぃ。」
そういい彼はみぃに肉片を投げる。
「みゃー。」
そう一声鳴き、みぃは肉片に齧り付く。
それを見て優美は幸せそうに微笑む。
それを見ていると真治はこんな生活も良いのかなと思えてきた。
このお話で伝えたいことは§§§内の事柄です。
この国もこうなってしまうのでしょうか・・・書いていて鬱になりました。




