恋愛相談
思わずかみかみになってしまうくらいには怖かった。俺は余裕のあるふりをして咳払いをすると話題を戻す。
「えっと、つまり具体的に何の話をするんだ?」
「そうそう。男子ってさ、どんな時にこの子可愛いなとか思ったりするのかな?」
下北さんは紙とペンを持ちメモを取る姿勢で問う。
「そうだなぁ、個人的な意見だけど歌が上手いと可愛く見えたりするんだよな」
「歌かー。歌ならカラオケとか友達とよく行くし割と自信あるよ!今歌ってみようか?」
「まゆか、ここで歌わなくていいからねー。それで歌でどうやって可愛さをアピールするの?」
彩加ちゃんは苦笑しながらマイクに見立てたテレビのリモコンをそっと下北さんから回収する。
「あれは俺が中学の時の話だ」
「なんか導入おかしくない?昔話でも始まるの?」
彩加ちゃんはジト目でこちらを見るが俺は落ち着いて話を続ける。
「まぁ、最後まで聞け。中学の頃の俺には好きなアーティストがいたんだ。好きになったきっかけは友人に借りたCDだった。好きになってからは自分でもCDを買うようになって、いつからか歌と同じようにそのアーティストの事も好きになったんだよ。最初は特に可愛いとも思ってなかったそのアーティストの事を俺はいつしか可愛いと思うようになっていた」
「へぇー、なんかいい話っぽいね」
下北さんは瞳をきらきら輝かせながらすっかり聞き入っている。
「ある時、念願のライブに行ける事になったんだ。歌はもちろんその人に生で会えるのがとても楽しみだった。ライブ当日は凄かった。生で聞く歌は今まで何回もCDで聞いていた曲なのに迫力が全然違った。鼓動が鼓膜が震えるのを実感したよ。そして生で見るその人はやはり今まで何度も見てきたジャケ写とまるで別人だった。全然可愛くなくて俺は勝手に裏切られた気分になっんだ。その日以降その人のCDは買わなくなったよ」
本当に別人か思った……。
「って結局ダメな話じゃん!」
彩加ちゃん机に両手を着いて肩を落とす。
「そもそも深い事は考えずあえて無策で突っ込むってのもありだと思うけどな。偶然から生まれる発明があるように計算しないからこそ得られる解もあると思うんだよ」
俺が座っている椅子をくるくると回しながら自分にはおよそ出来もしない事を口にする。俺には出来ないが下北さんはなんか得意そうだし。
「でも隣のクラスの人だし、何にもなしでいきなり話しかけるのはちょっと緊張するって言うか……」
「自分の好きな物から話題を探してみたら?パンダ好きなんですよーとか」
「なんでパンダ?三浦君パンダが好きなの?」
「えっ!?いや何でもない」
おっとここで先述の情報に誤りがあった事を訂正しよう。下北さんはパンダ好きではないらしい。
「まぁでも下北さんは見た目も可愛いし話しかけられて嫌な思いになる男子はいないと思うからそんなに緊張することも無いと思うけどね」
「えっ?……あっありがとう」
「あっいや、べつに」
無意識に出た言葉だったがそんなに照れられるとこっちまで何故か緊張してくる。
「宗太、そんな事いろんな女の子に言ったりしてないよね?」
彩加ちゃんが氷のように冷たい視線を向けてくる。小動物くらいなら一撃で死にそうなその視線怖すぎる。この視線は冷凍ビームなんてレベルじゃない絶対零度くらいはある。うん、やはり一撃で死ぬな。
「いや、今のは、その下北さんの背中を押すために――」
しなくてもいいはずの言い訳を早口でしてしまうくらいに恐ろしかった。
「はいはい、もういいから真剣に考えてよね」
「はい、真剣に考えます」
呟いて考える。といっても俺に好きな女子はいないし恋愛経験なんてものも勿論無い。しかし、目の前で可愛らしく悩むクラスメイトの力になれるような答えは何か出せないだろうか。
必死に考えを張り巡らしふと頭に浮かんだのは健人だった。いや、このタイミングで思い出すと俺が健人を好きみたいになるがそれは無い。いや、気持ち悪すぎる。冗談にしたって趣味が悪い。
そうじゃなくて、俺が健人に対して思い出したのは会長の話をしている時のあいつの事だ。休み時間になると壊れたカセットテープでも内蔵されているんじゃないかというくらいに毎度毎度会長の話をするのだが、その中で年上の魅力を語っていた事がある気がする。
いや、間違いなくあった。内容こそ聞き流す程度だったため思い出せないが、しかし校内でもトップレベルでモテる会長の魅力から習うというのは偶然にも、間違いのない手段を見つけてしまったのではないのだろうか?
「そうだ、男は年上の人が好きだぞ」
早速伝えると彩加ちゃんがジト目でこちらを見る。
「宗太、相手は隣のクラスって話したよね?年齢なんかどうしようもないじゃん!」
しかし俺には思いついた作戦があるためふぅと一呼吸置いて説明を始めた。
「確かに年上になるのは無理だけど、同世代でも大人の余裕をみせる事は出来るんじゃないか?」
「うんうん!なるほど!……それで、つまり?」
俄然前のめりになりつつある下北さんが早く続きをと急かす。
「つまり、こういう事だよ――」
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