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クッキーの味

泣くのに疲れたのか、それとももう出る涙も残っていないのか俺には分からないがとにかく下北さんが泣き止むと俺たちは教室に戻った。


こんな時間に教室に残っている生徒などいるはずもなく、広々とした教室はやけに静かに感じる。俺たちはまた一つの席に三つの椅子を集め小さく纏まった。


「あーあ私なんかいろいろどうでも良くなっちゃったよ」


下北さんは天井をみつめ誰に向けて語りかけるでもなく静かに唇を動かした。


「いや何もそんなに自暴自棄になる事はないんじゃないか」


しかし俺はその言葉を無視する事は出来なかった。いや、出来るはすがないんだ。前までは確かにクラスメイトという関係でしかなかったが今はもう友達と呼んで良い間柄だろう。だからこそ放ってはおけなかった。


「そんな失恋くらいで自殺するなんて――」

「「え?」」

「へ?」


 俺の言葉に下北さんと彩加ちゃんは首を傾げ、二人の反応に俺もまた首を捻った。


「ちょっと宗田なんか勘違いしてない?なんの話をしてるの?」

彩ちゃんは笑いを堪えながら首を傾げまた下北さんも口の隙間から笑いが漏れ出ていた。

「私は別に自殺するなんて一言も言ってないよ。てかフラれたくらいで自殺なんか絶対しないし」

「えっ、だってさっき、どうでも良くなったって言ってたよな?」

「言ったけどそれは佐山くんとか彼氏を作るとかの事だよ」

「なんだ……。てか彩加ちゃんも途中で教えてくれよ……」


俺は自分の顔が紅潮しているのを確かに感じながらぼそっと呟くように言った。


「言おうとしたけど宗田がどんどん言っちゃうから。……それに宗田間違えてたけどちょっとカッコよかったし……」


ごにょごにょと喋る彩加ちゃんの言葉は上手く聞き取れなかったが心なしか耳が赤い気がする。


まさか共感性羞恥を与えてしまうくらいに俺の行動は恥ずかしかったのか?いや、確かに結構、黒歴史認定有力候補だけども。


「というか今はフラれた事よりこれがショックだよ」


そう言って下北さんは佐山に渡すはずだったクッキーを机に置いた。


「せっかく彩加に教えてもらって作ったのに渡すの忘れちゃったんだ〜」

「まぁそれはしょうがないよ」

彩加ちゃんは慰めるが下北さんは申し訳なさそうに肩を丸める。

「でもせっかく苦労したのにもったいないよね……」

「じゃあそれ一つもらっていいか?」

「え?別に良いけど、どうせもう渡す人もいないし」


俺は下北さんの持つ袋に手を伸ばしクッキーを一つ取ると口に運んだ。


凡庸な見た目の素朴なクッキーは何故か特別美味しく感じた。いや、あの下北さんが普通のクッキーを作れてる時点でだいぶ凄いんだけどな。


「えっ、私も食べたい、いただきまーす」


彩加ちゃんもクッキーを一口食べ思わず目を見開く。


「自分で教えたクッキーに対して言うのも何か辺だけど凄い美味しいよ」

「あー二人ばっかり食べてずるいよ。私も食べるからね」


下北さんもクッキーを食べ始め袋はあっという間に空になった。


下北さんがどうしてこんなに美味しいクッキーを作れたのか、その答えを俺は知っている。一緒に食べた二人もそれを知っているだろう。答えは彩加ちゃんが最初に言っていた愛情なのだ。食べる人の事を思い、使いもしない包丁を使おうとしながらも一生懸命下北さんが自分で作り上げたクッキーだからこそこんなに美味しいんだ。そこには愛情が溢れんばかりに入っているからな。


クッキーを食べ終え下北さんの泣いて赤くなった目の腫れが引いてくると俺たちは下校する。

校門まで三人で歩き下北さんだけは方面が別なためそこで解散となった。


「二人ともいろいろとほんとにありがとねー!また明日―!」


大きく手を振りながら下北さんは靴に羽根でも生えたんじゃないかという軽やかな足取りで帰って行った。このまま後ろ姿を見続けたらちょうど曲がり角辺りでホップステップジャンプをしだすんじゃないかというくらいだ。


落ち込んでいるんじゃないかと心配していたがその振る舞いが強がりでは無い事はなんとなく分かった。


「ねぇ、宗太」


二人になり家に向かって歩いていると彩加ちゃんが突然俺の前に回り込み可愛らしい顔で俺を下から覗き込む。


「どうした?」

「宗太はさ、今でも自分に好きな人が出来ないって思う?」


そう聞かれ思い出した。前に健人と話している時に何の根拠もないがそんな事を口にした気がする。というか、彩加ちゃんよくそんな事覚えてんな。


「うーん、どうだろうな。今はまだ分からないな」

「そっか……」

「でも、下北さんを見ててあんなに素直に人の事を思える気持ちがいつか俺にも出来たらいいなって今は思うかな」

「宗太……。うん、そうだよね!」


妙に嬉しそうに微笑む彩加ちゃんは下北さん同様に軽やかな足取りになっていた。


失恋したのに二人とも今朝より元気になってないか?うーん、やっぱり恋愛は良く分かんねぇな……。


最後まで読んで頂きありがとうございます!


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