情報収集
さて、情報を集めると言ってもまずはどうするかな。次の休み時間に俺は考えていた。
しかし、情報を集めるタイムリミットは放課後までで、考えていても仕方ないと思った俺は佐山の尾行から始める事にした。ノートとペンを片手に男子生徒のストーキングをする男子生徒(俺)に対しかなり冷やかな視線も浴びせられたが仕方ない。尾行なんてものは本人にばれなければそれでいいんだ。そう自分に言い聞かせた。
そして俺はその日の食事時間を含めた休み時間の全てを費やし佐山の尾行に専念した事でかなり多くの情報をかき集められた。佐山の情報が売れる環境ならそれなりの収益は見込めるだろう。
放課後になり俺の席一つに三つの椅子を集める。
「三浦君どうだった?」
「ばっちりだ。今の俺は佐山より佐山に詳しい自信があるね」
ごくりと息を呑み心配そうな表情をする下北さんに、俺は得意満面で鼻を伸ばしひらひらとノートを見せびらかした。
「じゃあ早速一つずつ教えて。なにか作戦として使える情報があるかもしれないから」
彩加ちゃんに言われノートを開き一つずつ読み上げていく。
「佐山裕一、17歳、サッカー部に所属しており、昼は弁当ではなく学食を利用する。あっちなみに食堂のおばちゃんによると3日に1日くらいの頻度でご飯は大盛りにするらしい。お気に入りのメニューはかつ丼らしく、かつ丼の日は超大盛りでと言うのがおばちゃんとの定番のやり取りらしい。それと、食堂のおばちゃんは最近趣味でガーデニングを始めたとか」
「……宗太、それってほとんど食堂のおばさんに聞いた情報よね。というか最後のは食堂のおばさんの情報になってるし!全然役に立ちそうなのないじゃない」
呆れつつ深いため息を吐く彩加ちゃん。本当だ!いつの間にか佐山の情報が食堂のおばちゃんの情報に切り替わっている。これは敵対組織の陰謀か!?
「え、えっと、他にもあるぞ。あんまり役に立つか分かんないけど隣のクラスのやつに聞いた話だとお菓子が好きみたいで休み時間にはクッキーなんかを食べてる事もあるらしい」
慌てた俺は読み上げなくてもいいだろうと思っていた情報を伝えた。こんなのきっと役に立たないだろうしな。
「それよ、それ!あるじゃない、ちゃんと良い情報が。そういうのが欲しかったの」
しかし彩加ちゃんは、ぱっと表情を明るくした。
「彩加何か思いついたの?」
下北さんが問うと、思いついた作戦に自信があるようで声色を明るくし髪を揺らしながら説明した。
「簡単よ。お菓子が好きなら手作りのお菓子を作ってプレゼントするの」
「なるほど。その手があったか」
分かりやすく尚且つ、直接的に思いも伝えやすい作戦に俺も納得する。それに女子からお菓子を貰って嫌がる男子はいない。しかし、下北さんだけが何故か表情を硬くし不安の色をみせる。
「まゆか、どうかしたの?」
「実は私、料理とかお菓子作りがその、得意じゃなくて……。下手くそなお菓子なんか渡してもきっと喜んでもらえないだろうし、逆に嫌われちゃんじゃないかなと思って……」
「大丈夫だよ。こういう時のために私たちがいるんじゃない。むしろここで頼ってくれなかったら友達として傷つくよ」
彩加ちゃんは一人暮らしのおかげもあってか料理にそれなりに覚えがあるようで優しく微笑みかけた。
「彩加ー!ありがとう〜!!」
下北さんは目をうるうるさせながら彩加ちゃんの手を握り締める。
「ほらほら、そんな泣きそうな顔しないで材料買って宗太の家に行くよ」
「おい、ちょっと待て!なんでその流れで俺の家なんだよ」
感動的なシーンだがしっかりとツッコむ。昨日は話の流れでつい家に上げてしまったが今日も家にくる意味が分からん。彩加ちゃんは一人暮らしだし二人でガールズトークに花を咲かせながら仲良く作れば良いじゃないか。
「あれ~宗太はまゆかの気持ちを応援したくないの?」
彩加ちゃんがぐさりと言い放つ。
「いや、そういう訳じゃないんだけどさ……」
俺もここまで付き合っているし、もちろん応援はしている。だが、わざわざ俺の家じゃなくても、彩加ちゃんの家だってあるし、なんなら学校に許可をもらえば家庭科室も使わせてくれるだろうと言おうとしたが彩加ちゃんに先を越された。
「なら良いじゃん!それに今日はおじさんもおばさんも出かけてるから宗太の家は自由に使えるしね」
「おい!その通りだけどなんで彩加ちゃんが知ってんだよ!」
「おばさんが連絡くれたんだ~」
ニヤリと不敵に笑い顔の前でスマホをちらつかせる。くそっ、まさか母さんが彩加ちゃん側だったなんて……。今日は家に帰ったら健人に借りたお宝本(R18)をじっくり読み込むって手筈だったのに。だけど、この流れで断ったら俺が下北さんを応援してないみたいに思われるのは確実だろう……仕方ないか……。
「分かったよ。家でお菓子作りしなよ」
「わー宗太ありがとう〜。私の家よりキッチンも広いし助かるよ」
諦めた俺に彩加ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「三浦君、私までごめんね?」
「気にしないでくれ、これは下北さんのためのお菓子作りなんだし。それに家の両親が不在なのは事実だから」
「うん、ありがとう。私頑張って佐山君を失神させるくらい美味しいお菓子を作ってみせるよ」
下北さんは両手を力強く握りふんっと気合を入れた。いや、失神はさせちゃダメだろ……。
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