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魔道具と第二王子



 私は学院生活をそれなりに満喫していた。元々勉強は好きな上に、学んでいるのは推しの住む世界の歴史や文化。オタクの学力を舐めてはいけない。学業だけじゃなく、前世では有り得なかった魔術なんて学問に出逢ってしまったのも大きい。


 気づけば私は成績上位者になってしまっていた。更には魔術についても、魔力を錬れば練るほど使える魔術は増えるし、鍛錬した分だけ心なしか魔力が白に近づいていく気がする。


 このまま聖女になるのは面倒くさそうだけれど、聖女としての地位はきっとリリーローズ様の為に役立つはず。そう考えると、一日でも早く聖女になってリリーローズ様を保護しなければ、と思い始めたのも、学問と魔術に励む理由だ。

 ダンドール教授にも直接教えてもらったりして、日々の鍛錬に勤しんだ。


 そして攻略対象を避けつつ、物陰からこっそりリリーローズ様の様子を窺う、と言うのがルーティーンになりかけたある日のこと。


 学院内の美しく整理された中庭を通り抜ける際に目に止まった噴水。どうしようもない既視感を覚えて近づくと、水面に揺らめく光を見付けた。


 前世の記憶、ゲームの中の出来事を思い出してピンときた私は、迷わず水面に手を突っ込んだ。序盤に出てくるイベントで、アイテムがこの噴水に隠されていたはず。手に固い感触を探り当てて引き抜くと、繊細な装飾を施された濡れた手鏡に自分が映っていた。


 それは、ゲーム内でお助けアイテムとして登場する魔道具だった。鏡に映した相手の心の声を聞けるというチートアイテム。イベントを思い出して手に取ってみたはいいけど、本当にあっさり手に入ったわね。いや、でも…私は別に攻略したい相手がいるわけでもないし……となんとも冷めた気持ちで手鏡を見下ろす。


 ちょっと待って。これがあれば…リリーローズ様の心の声を聞けるってこと?


 バッと頭を振った。ダメよ、ダリア!そんな不埒なことを考えたらリリーローズ様に失礼よ!


 私の目的はあくまでもリリーローズ様の幸せ。そうよ。これを使用するのなら、何よりもリリーローズ様の幸せに繋げる為に使用すべきだわ。


 手にしてしまったアイテムをどう使用するか思案していると、茂みの向こうに派手な金髪が見えた。

 王太子の出現に慌てて隠れた私は、ふと思う。王太子はリリーローズ様のことを、内心ではどう思っているのだろう。


 表向きは婚約者のことなど興味ないふりをしているけれど、内心では気にかけているとかベタな展開があるかもしれない。あの王太子に限っては可能性がかなり低そうだけど。むしろ腹の立つような事しか考えてなさそうで嫌だけれど。

 でも、確かめてみる価値はある。私は意を決して、手鏡を手に王太子の背中を追い掛けた。


 気付かれたら面倒ね。見つからないよう中庭を抜け、渡り廊下へ続く道で意を決して手鏡をその背中に向ける。その時だった。


「何をしている」

「きゃっ!」


 王太子に手鏡を向けようとした瞬間、王太子を守るかのように遮った人影。

 取り上げられた手鏡は閃光を放ち、パリンと音を立てて割れてしまった。顔を上げると、驚いた表情の第二王子と目が合った。


『何だ今の光は?妙な違和感があった。危険なものか調査する必要がある。しかし何故、聖女候補のルーツェンベルク辺境伯令嬢が兄上にこのようなものを…』

「!」


 手の中で割れた手鏡と私を見比べる第二王子から、口を開いていないのに言葉が聞こえて私はギョッとした。


(やだ、今ので第二王子に魔術が発動しちゃった!…何とか誤魔化さないと。)


「魔術、発動……だと!?」


 目を見開いて呟いた第二王子の声に、こちらも驚愕する。


(えっ?どうして第二王子に気づかれたの!?これじゃあまるで私の心の声が聞こえているみたいじゃない)


『は?』

『ん?』


 私は呆然と第二王子を見上げた。そして第二王子も目を見開いて私を見ている。これってまさか…


『も、もしかして、私の心の声が聞こえていますか?』

 どうか気のせいであってと、半信半疑で心の中で呼び掛ける。目を見開いたままの第二王子は、私の祈りも虚しくゆっくりと首肯した。



「……ルーツェンベルク辺境伯令嬢、話がある」

 第二王子がハッキリと口に出して私を見据えた。私は観念して頷きを返し、人目を避けるように移動する第二王子の後に続いた。



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