表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

学院生活の始まり



 ルキア王国王立学院。ここは貴族を中心とした才能溢れる若者が集う王国最高の学術機関。


 辺境領で育った私は王都とは無縁で、本来であればこの学院に通う事もなかった。


 領地で家庭教師を雇って教養を身に付け、いずれお嫁に行くのが自分の未来だと信じて疑わなかった。それがある日、お父様との修行で唐突に魔力が目覚め、しかも魔力量が桁外れな上に特殊だということが発覚。お父様が呼び寄せた魔術学者様が目を見開き、私に専門の教育を受けるよう強く説得された。


 厳しくも根が真面目なお父様は娘の才能に気付くのが遅かったことを後悔し、私の望む通りにしていいと仰って下さった。そうして私は、不安と期待に揺られながら王都へ向かう馬車に乗り込んだのだ。


 と、まあ。そんな事実もあり、私の前評判は想像以上だった。と言うのも、お父様が領地に呼び寄せた魔術学者様はこの学院の教授であり、現役時代は歴代最強の魔術戦士として名を馳せた凄い方だったのだ。


 そんな方が太鼓判を押し、是非にと入学を支援した私が注目の的になるのは当然のことだった。

 だからこれは…必然のようなものだ。


「君がルーツェンベルク辺境伯の御令嬢かい?」


 入学早々、私は会いたくもない王太子に呼び止められていた。いくら嫌いと言えど、相手は王太子殿下。16年間貴族令嬢として育てられた私の体は自然と傅いた。


「お初にお目にかかります、テオバルド王太子殿下。ダリア・ルーツェンベルクと申します。お声掛け頂き光栄です」

「そんなに畏まらなくていい。ダンドール教授がとても褒めていたので気になっていたが、まさかこんなに愛らしい御令嬢だとは思わなかった。学院中君の噂で持ちきりだよ。この学院には異例の特待生にして編入生だからね。これからは学友として宜しく頼む」


 にこやかに微笑みながら片手を差し出してくる、流石は王太子さま。残念ながら私はその笑顔に騙されませんけれども。


「そんな、恐れ多いですわ…殿下」


 とは言え、王太子の手を無視する程の無礼を初っ端から働くのは得策じゃない。私は遠慮しながら王太子の手に手を重ねた。


「純真だな、ダリア嬢は。可愛らしいね」


 流石はゲームの中で優しさ王子様担当なだけある。途轍もなく綺麗な所作で手の甲に王太子の唇が触れ、背中がゾワゾワした。制服が長袖で良かった。鳥肌を見られたら余計に絡まれそうだ。


 無礼にならない程度で手を引いた私を、王太子は満足そうに眺めてきた。鳥肌は止まりそうにない。笑顔を崩さないように心掛けながら、私は少しずつ後ずさる。


「おっとダリア嬢、危ないよ……!」


 下がり過ぎて後ろに転けそうになった所で、王太子が私の手を引いて気付けば抱き留められていた。


 ぞわぞわぞわわわ〜っ


 いっその事このまま転ばせてくれた方がマシよ!!

 あまりの事態に息を呑み硬直した私と、何故か同じように硬直している王太子。


「も、申し訳ございません。殿下を相手に私、とんだ失態を」


 固まったまま離してくれない王太子に内心舌打ちしながら自然に体を離すと、王太子は漸く現実に戻ってきてくれたようだ。


「あ、その。気にしなくていい。怪我がなくて良かった」


 居住まいを正した王太子は赤面したまま目線を下げた。なんだ、その興奮を隠せないトキメキ顔は。恐ろしいからやめて下さいませ。


 どうしてこうなったのかと頭を抱えたくなった。距離を置きたいのに、明らかに意識されている。この短時間で何故。

 咳払いをして、挨拶をして退場しようとしたその時。私は気付いてしまった。王太子は照れて目線を下げたのではない。王太子の目線は逸らしたというよりも、私の目ではなく別の場所を凝視する為に意図的に下げられたのだ。


 王太子の目線の先を確認して、私は爆発しそうになった。


 前世の私は日本人で、一般的な体型より少し痩せ型だった。当然そこは貧相だったので、前世の記憶を思い出した時にそのデカさに我ながら驚いたものだ。


 そう、今の私のこの体。深窓の乙女だったダリア・ルーツェンベルクは、その小柄で華奢な体格と童顔に似合わず、齧り付きたくなるような巨乳の持ち主だった。

 密着した時に気付いたのだろう。王太子は私の乳を凝視して固まっていた。


「殿下?」


「っ!すまない、何でもないんだ。とにかく、君とはこれからも仲良くしたいと思ってる。宜しく頼む、ダリア」


 そう言いつつ王太子は私の乳から一瞬も目を離さなかった。その視線が熱心過ぎて恐いくらいだ。ついでに掴まれた手もまだ離してもらえない。嘘でしょ、誰かこれは悪夢だと言って。


「兄上、お時間です。お急ぎ下さい」


どうすることも出来ず泣きそうだった私を救ってくれた声の方を見ると、王太子の弟である第二王子が無表情で立っていた。その眼差しはどこか冷ややかだけれど。


「あぁ、今行くよ」


 名残惜しそうに。本当に名残惜しそうに、王太子は私の乳から視線を逸らして去って行った。あまりの気の重さに気絶してしまいたい。

 

 王太子が、想像以上にクズでした。

 

 王太子の姿が完全に視界から消え、私は力が抜けたようにその場にへたり込んだ。息をするのも辛い。え。なにあの人。まさかのヒロインの乳目当てだったの?ゲームの中で選択肢が関係なかったのは、会話の内容がどうのこうのではなくて、巨乳だけで好感度100%を達成したからなの?


 そういえば、リリーローズ様は悪役令嬢としては珍しいくらいスレンダーで華奢な方。まさか、え、そういうこと?

 短時間で確信するくらい、王太子の巨乳への執着視線がヤバかった。これは設定が酷すぎやしないだろうか。






「そこの貴女、どうかして?」


 絶望に打ちひしがれていたその時、私は女神の声を聞いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ