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物語のクライマックス





 これが謂わゆる、物語の強制力なのだろうか。



 思えばどんな形であれ、攻略対象からの好意も、様々な事件も、私の聖女としての覚醒も、王太子の婚約破棄も、リリーローズ様の糾弾も、大筋で見ればゲームの展開と同じ。


 残っているゲームの展開…悪魔と契約したラスボスの登場。本来それを引き起こすはずのライはリリーローズ様の為に隣国で勝利を掴んだ。2人は婚約し、幸せになるはずだ。



 なのに…


 その日、王都には突然の雷雨が鳴り響いた。暗雲は一瞬で全てを飲み込み、薄闇の中。それは突然始まった。


 ゴオオォという地響きと、大きな揺れ。前後不覚になるような地震に驚いていると、王太子妃教育を受けていた私の元にアレク様が駆け付けてくださった。


「ダリア、無事か?」

「大丈夫です。いったい何があったんですか…?」

「詳細はまだ不明だ。だが、王都で漆黒の魔力が目撃された。」

「それって…!」


 漆黒の魔力を持つのは悪魔契約者のみ。つまり、ライの代わりに悪魔に魂を売ったラスボスが現れたという事。



 今、この世界線で…復讐の為に悪魔に魂を売ってこの国を滅ぼそうとする存在がいるとすれば。

 更に。悪魔と契約出来るほどの魔力と血筋を有する者といえば。


 元王太子…テオバルドしかいない。


 だけど、テオバルドに古代魔術の知識があるとは思えない。いや、彼に必要な知識を授けた者にも心当たりがあった。テオバルドと同じ監獄に収監されていたイージャス助教授。


 悪魔との契約は、正確な知識と膨大な魔力、特別な血筋がないと成立しない。テオバルドでは知識が足りず、イージャス助教授は魔力を剥奪された身でそもそも血筋の条件を満たしてない。どちらか一方だけでは成立しない契約が、今この時起こっている。


 ゲームの結末を変えようとしても、こうして物語の強制力によって大筋のシナリオ通りに戻ってしまう。恐ろしさを感じつつも、王都を守る為にはアレク様と一緒に戦うしかない。



「住民の避難は始めているのですよね?」

「すぐに手配している。本当にこれが悪魔契約者の仕業なら…聖女であるそなたの力が必要だ。私と共に来てくれるか?」

「勿論です、行きましょう。」



 アレク様の移動魔術で王都の都市に移動すると、地割れが続いてあちこちから煙が立ち上がり、建物は崩壊していた。

 凄惨な様子に眉を寄せたアレク様の手を握り直して、自分の中の魔力を引き出す。

 聖女の浄化と再生の魔術は、悪しき物を浄化し、壊れた物を元に戻す作用がある。


 アレク様の魔術で浮遊しながら、壊れた街を治していく。少しずつ元に戻っていく地割れの先に、大きな漆黒の闇が見えた。


「あれが本体でしょうか?」

「恐らくな。…この破壊痕、間違いなく悪魔契約者の闇魔術だ。」

「…アレク様。」


 彼を見ると、痛みに耐えるような顔をしていた。アレク様も、あの魔力の正体がテオバルドであると予想しているのだろう。


「我々にはこの国を守る義務がある。私は大丈夫だ。行こう。」




 聖女の魔力は悪魔の魔力を浄化できる。


「私の魔力は攻撃には使えません。アレク様、剣を。」

 素直に抜かれたアレク様の剣に、魔力を捧げた。よく磨かれた刀身が純白の魔力を帯びる。ゲームでラスボスを倒す時に使った方法だ。


「なるほど。この剣を使えばアレに攻撃が可能になるのか。」

 すぐに理解してくれたアレク様は、剣を構えると早速特大の攻撃を仕掛けた。


 闇を切り裂く剣撃が真っ直ぐに漆黒の塊へ向かう。

 こちらの攻撃が効いたのか、浄化された漆黒の塊は小さくなり動きも鈍くなった。


 しかし、こちらのことを認識されてしまい、魔力の攻撃が向かってくる。

 それをアレク様が振り払う前に、黒い炎が闇魔術を遮った。



「アレクセイ殿下、ダリア。加勢に参りましたわ。」


 リリーローズ様とライが、ピンキーを伴って駆け付けてくれたらしい。



 怒ったように闇魔術が次から次へとこちらに向けて放たれるけれど、子豚姿のピンキーが私とアレク様を援護してくれる。鉄壁の黒い炎によって闇魔術は私達に届かない。

 地上ではライと共に見守ってくださるリリーローズ様。


 ゲームのシナリオ通りで役者だって同じように揃ってはいるけれど、全く違うこの展開。ここを乗り切ればその先に待つのは、私達の新しい未来。リリーローズ様の真のハッピーエンド。


 私は更に力を込め、アレク様の剣に魔力を捧げた。純白の閃光が煌めき、漆黒を覆い尽くしていく。


 再びアレク様が剣を振るう。


 激しい一振りが当たって吹き飛んだその塊は、人と同じ大きさに戻っていた。後はアレク様が私の魔力の宿った剣でトドメを刺せば完全に倒せる。


 漆黒の魔力に覆われてよく見えないけれど、人型になったそれが揺れる度に残像のように見え隠れする金色の髪と碧い瞳…そこに在るのは間違いなくテオバルドのなれの果てだった。



「兄上…」



 アレク様のその声は、悲痛に満ちていた。私でさえ凍てついてしまいそうな程。深く絶望した彼の声。


 それでも、剣を握り直したアレク様は一歩前に出て、剣を振り上げた。これで本当に終わる。ラスボスを倒し、私もアレク様もリリーローズ様もライも、ついでにピンキーだって幸せになる。

 更に力の篭った彼の腕に、誰もが終結を悟った。




 その時だった。




 アレク様は、振り上げた剣をゆっくりと下ろしてしまった。


「アレク様…?」


「ダリア」


 振り向いた彼と目が合って、その瞳に宿る思いを見つけて私は溜息が出てしまう。

 まったく。この人は…。


「…兄上を、元に戻してくれないか。」


 悪魔を切れば英雄になれる。そもそも相手は長年自分を見下してきた異母兄。それも父である国王陛下に見限られた上に悪魔に成り果てた、どうしようもない男。

 スッキリサッパリ切り捨てたところで、アレク様を責める人なんていない。


 なのにアレク様は…肝心のトドメを刺すこの瞬間にそんなことを言う。



「兄上がこうなってしまったのは私の責任だ。

 王座に未練もなく兄上に尽くす私の態度が、兄上を傲慢にしてしまった。尽くすのではなく、正すべきだったのだ。その努力を怠った責任は私にある。」


 どうしていいか分からずに言葉を探していると、背後から大好きな声が聞こえた。


「私からもお願い致しますわ。」


「リリーローズ様」

 あれだけ傷付けられ疎まれたのに…どうして貴女まで。


「私はテオバルド様の婚約者でありながら、テオバルド様の愛を得る努力をしなかった。感じていたのは政治的な義務感のみ。愛される努力も、愛する努力もない私の無関心が、テオバルド様を惑わせてしまったのですわ。」


 最推しと愛する人から請われて、無視できる人間がいようか。


「わかりました。やるだけやってみます。」


 私は覚悟を決めて、揺らめく人だったはずの闇を見る。


「邪悪な部分を浄化しますので、テオバルド様に少しでも善良な部分が残っていれば死ぬことはない筈です。ですが善良な部分がなければ、消滅してしまうでしょう。それでも構いませんか?」


「ああ。ダリア、宜しく頼む。」

「お願いしますわ、ダリア。」


 まったく。優しすぎるのも困りものだわ。だからと言って、2人の想いを無視する気はないけれど。こうなったら遠慮なく、思いっきりやらせて貰うわよ。




 私はゆっくりと、魔力を解放させた。

 そして、全ては純白に包まれた。



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