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婚約式



 王子と聖女候補の婚約ということもあり、私達の婚約式は神殿で大神官のもと執り行われる事となった。


 国内外への正式発表は婚約式の後、王室主催の夜会で発表する手筈だ。なので婚約式に出席する参列者は限定されていた。

 参列席には国王陛下と王弟で宰相のサンジェルマン侯爵、私の父ルーツェンベルク辺境伯の名代として参列して下さったダンドール教授と、私のお友達として来て下さったリリーローズ様だけ。大物揃いではあるけど密やかな式だった。

 

 大神官の前で誓約の言葉を口にし、署名をするだけなのだけれど。それでも緊張する。そんな私の手を取り、気に掛けて下さるアレク様。


『大丈夫か?』


『は、はい。何とか…』


 ドキドキとなる胸は、緊張だけではない。

 盛装に身を包んだ婚約者が格好良すぎて、どうしたらいいの…


 私が身悶えている間にも式は粛々と進み、誓約を述べた後、署名の儀式に移る。


 【アレクセイ=サフィール・ルキア】の署名の横に、【ダリア=ブラン・ルーツェンベルク】と書き記した。


 ファーストネームの後に付けられる、魔力保有者のみが持つミドルネームは、伴侶を見つけた際に初めて神殿から授けられる。通常であれば婚約時。今この時だ。

 

 魔力色に因み名付けられるそれがとても愛おしくなって、サフィール(サファイア)ブラン()の文字を目でなぞりながら。右手に嵌る白金にダークブルーのサファイアが施された指輪に触れた。


 前世の記憶を思い出し、攻略対象達に振り回されて。どうなる事かと思っていたけれど、今こうして私は愛する人の隣に並んでいる。そして誰よりも祝福してくださる最推しのリリーローズ様が涙ながらに微笑んでくださってる。



「アレク様…私、とても幸せです。」


「ああ、私もだ。」



 微笑み合った瞬間。


 あ、と思う。


 大切なこの人を愛おしく思う気持ち。それが溢れて、最後の一押しになった。

 計算していなかったと言えば嘘になるし。この場で覚醒するのが1番効果的だわなんて思っていたし。ゲームの流れ上そろそろだと覚悟だってしていたけれど。


 そんなことも全て忘れてアレク様への想いに満たされた瞬間だった。


「…ダリア?」


 驚いたような彼の声と、視界の端で揺れる真白。

 私を包み込む魔力が、完璧な純白へと変わっていた。


 参列席から国王陛下の感嘆の声が上がる。

 神殿の神官達が目を見開き、そのうちの1人が息を呑んで呟いた。


「聖女様の覚醒だ…!」


 私の体を包む純白が光を増して神殿を包み込み、幻想的にステンドグラスを彩り満ちて行く。

 視界が純白に覆われる程の光の中心でアレク様を見やると、彼は微笑んで私の手を取り唇を寄せた。







「ダリア、おめでとう。感動いたしましたわ。」


「ダリア嬢、よくやりましたな。」


 リリーローズ様とダンドール教授から笑顔で祝福され、こちらも笑顔で感謝を述べる。


 国王陛下とサンジェルマン侯爵からも祝辞を受け取り、婚約式は無事に終わった。


 アレク様と漸く2人きりになれたのは、婚約式を終えた神殿の控室だった。

 婚約式の直後に聖女覚醒の神託やら儀式やらも行われてすっかり疲労困憊の私を労ってくれるアレク様。


「大丈夫か?」

「はい、何とか…」


 その肩にもたれ掛けさせてくれるアレク様は、私を甘やかし過ぎではないだろうか。



『王太子は動くでしょうか?』

 人に聞かれてはまずい話なので心の中で問うと、アレク様は微笑んだ。


『私が止めなければ暴走する方だ。間違いなく動くだろう。

 そなたの覚醒は兄上の耳に入るよう仕向けてあるので、今夜の盛大な夜会を前に兄上の妄想は炸裂しているはずだ。聖女となったそなたを自分のものにするという有り得ない妄想がな。

 今夜の夜会もその為に用意された場だと思い込んでいるだろう。兄上がこの機を逃すことはない。

 私がフォローをしなくなってから兄上は既に多くの問題を起こしている。

 そして国王陛下は問題行動が目立つようになった兄上に不信感を抱き始めている。今夜兄上が計画通りに馬鹿げた発言をすれば、必ず廃嫡されるだろうな。』


 嬉しそうなアレク様は、少し前まで王太子の為に全てを捧げて尽くしていた人と同一人物とは思えなかった。

 私としては大歓迎だけれど。


『それにしても…たった数週間の間に問題を起こし過ぎでは?聞いただけでもリリーローズ様への侮辱発言、貴族議会での失言、私的な近衛隊の流用に王室資産の散財、侍女への手出しに従者への無理難題やら学院内での横柄な態度…それに加えて職務怠慢で執務が滞りまくっていると噂になってます。これは流石に目に余りますよ?アレク様が魔術でけしかけていらっしゃるんじゃないのですか?』


 疑問に思っていたことを問うと、アレク様は声を立てて笑った。珍しい姿を目に焼き付けていると、耐え切れないように彼が私に秘密を教えてくれた。


「それがな…本当に何もしていないのだ。」


「え?」


『あれは元々の兄上の本質だ。これまでは私が事前に止めたり揉み消したり、肩代わりして来ただけで、私というリミッターが外れた兄上の暴走は全てありのままのあの方の所業だ。』


「ちょっと待って下さい。…あれが素なんですか?」


「そうだ。」


「それを今までは、全てアレク様が止めていらっしゃったと?」


「そうだ。」


「執務が滞っているのはまさか、ずっとアレク様が肩代わりされていたからですか?」


「…そうだ。」


 色々と待って欲しい。流石にそれは酷すぎやしないだろうか。セクハラミソカス野郎だとは思っていたが、王太子うんぬんの以前に人として終わってる。


 あんなんでよく完璧な王太子だなんて言われてると思っていたら、全部アレク様が創り出していた虚像だったなんて。


『兄上も疑問に思っているだろう。今まで通り過ごしているつもりが、周囲には叱責され落胆され、執務も進まない。首を捻っている頃か。いや…、あの兄上ならそれすらも気付いていない可能性があるな。』


 ……………。


『…アレク様。今までアレク様は、そんな方を未来の国王にする気だったんですか?』


 呆れ果ててそう指摘すると、アレク様は私から目を逸らした。自分でもどうかしていたという自覚があるのか、この話題は未だに気まずいらしい。


「生涯私が面倒を見るつもりだったのだ。どうせ王太子としての執務は全て私に丸投げだったしな…」

 ボソボソと言い訳する彼には呆れてものも言えなかった。生涯面倒を見るだなんて、子供じゃないんだから!


 私は今日、聖女として覚醒したけど。この人に王太子を見限らせた功績こそ、国を救った聖女として賞賛されるべきだと思う。



 つくづくリリーローズ様と王太子の婚約破棄を願った瞬間だった。




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