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悪役令嬢幸福計画

 その夜、私は王都にあるルーツェンベルク家のタウンハウスで眠れぬ夜を過ごしていた。


 計画は完璧だ。私の目標はリリーローズ様の幸せな未来。リリーローズ様の為に、攻略対象とは距離を置く。そしてリリーローズ様と婚約者である王太子殿下との仲を揺るぎないものにして差し上げて、王太子妃となったリリーローズ様のお子をこの腕に抱くこと。そしてあわよくばリリーローズ様と一緒に子育てをして生涯を共にする。


 考えれば考える程、胸が高鳴り色んな意味で鼓動が煩くて眠れない。

 あの。夢にまで見たリリーローズ様の幸福なお姿が現実のものになるなんて。その場に私が入れるかもしれないだなんて!あぁ、死んでよかった。転生して良かった。神様、心より感謝致します!


 リリーローズ様の幸福を完璧にする為に、計画を練らなくちゃ。

 攻略対象と距離を置く。これはいい。今や憎悪の対象な奴らだ。関わりたくもない。けれど、リリーローズ様を幸せにするには王太子とリリーローズ様の仲を取り持たなくてはいけない。あの王太子と。あのクソ王太子なんかと。私のリリーローズ様が。け、け、け、結婚なんて。それが推しの幸せだと解っていても許せない。


 いっそヒロインではなくて王太子に生まれ変わっていたら。私の手でリリーローズ様を世界一幸せにして差し上げたのに。王太子死ね。去ね。あぁ、ダメよ。リリーローズ様の為に堪えるのよ、私!

 リリーローズ様という至高の宝玉を婚約者にしておきながら田舎令嬢に浮気したクソ王太子のことを考えるだけで、私の頭は破裂しそうだった。恨みと嫉みと妬みと憎しみで、王太子を呪いたくて仕方ないけれど、リリーローズ様の為に我慢する。

 そう。王太子とは、親しくなり過ぎず、けれど丁度良い距離感を保って友人ポジションに収まって、リリーローズ様がどれ程得難い素晴らしい女性かをアピールする。それが私の計画だった。


 王太子という強い後ろ盾があれば、例え他の攻略対象達が暴走してもリリーローズ様への被害は最小限で済むはずなのだ。上手くやりつつ私が誘導すればいい。間違っても王太子が私に惚れてリリーローズ様を捨てたりしないように。上手くコントロールするのよ。


 そしてあわよくば…私は王太子との仲を取り持ったことでリリーローズ様に見初められて、侍女にして頂くの。そうすればこの先、私は一生リリーローズ様の元で1番近くで生きていける!気に入らない王太子は用が済んだら消せばいいわ!その先は私とリリーローズ様だけの楽園よ!


 うふふふ、なんて完璧なの。


 正直に言おう。16年間、田舎の領地で厳しくも穏やかに育てられた貴族令嬢として生きてきた私は、突然降って沸いてきた前世の記憶のお陰で精神が破綻しかけていた。だって、転生先がよりにもよって最推しの女神、私の最愛、人生を捧げて崇めてきたリリーローズ様のいるゲームの世界。

 つまりこの世界には生きたリリーローズ様がいるということ。息をして、動き、食事をして、寝て、言葉を発する紛れもない現実のリリーローズ様が。そしてそして、私が明日から通う学院。そこで私とリリーローズ様が出逢うという事実。


 なにそれ鼻血出る。


 興奮して眠れない。興奮し過ぎて、精神に異常を来してる。頭の片隅で、純粋令嬢ダリアとして生きてきた私がドン引きしてるのは何となく気付いていたけど気にしてられない。


 だって私は明日、生きた最推しに出逢うのよ!?


 クラスメイトとして出会い、喋り、ゆくゆくは侍女に…だなんて!計画は完璧だけど、私の身が持つかしら。


 こんなにも陶酔してるのに、どこか茫然としているダリアの部分がまだあって…


 しっかりして!!!


 自分の中の、まだ順応しきれていないダリアの部分に叫ぶ。リリーローズ様の素晴らしさが解らない部分が、自分の中にあるなんて信じられない。うん。取り込んでしまおう。


 あぁ、どうしましょう。うっかり手が触れ合ってしまったりしたら。幸せ過ぎて天に召されてしまうかもしれないわ。あのお方は何がお好きかしら?花のように愛らしく、星のように煌めいて月のように凛としたあのお方。あのお方と言葉を交わせると思うだけで、私の心は春の風に吹かれて芽吹き、秋の紅葉のように燃え上がってしまうわ!


 ダリアの口調で思考し始めると、思いの外すんなり馴染んだ。

 前世の記憶に押されていた部分さえも最早リリーローズ様の虜。

 純真無垢なヒロインのダリアもリリーローズ様の素晴らしさに陥落したのだ。

 

「うふふふ、ほほほほ、はははは!なんて完璧なの!」


 この16年何の疑いもなく生きてきた自分の中の無垢な部分をいとも簡単に取り込んだ私は、声を上げて笑わずにはいられなかった。愉快で堪らない。その笑い声が何だか悪役令嬢そのものだと思ったのは、眠りに落ちる寸前のことだった。


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