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事件解決②



 翌日、私を訪ねて来てくれたアレク様はリリーローズ様からのお見舞いの品だという大量の花と、彼が選んだと言う大量のスイーツを抱えてやってきた。競い合ったような二つの山は有り難く見なかったことにして、昨日の事件についての話を聞く。


「調査の方はどうですか?」

「尋問で黒幕の目星はついたのだが、確実な証拠が欲しいところだ。」


「それでしたら…これに検分の魔術を使ってみてください」

 暴漢が持っていた金貨を手渡すと、早速アレク様が魔術を展開する。


「これは…錬金術だな…」


 苦々しげに呟いたアレク様は、素手で金貨を二つに割った。…強いとは思っていたけれど、馬鹿力まで持っていたなんて。


「国立研究所以外での私的な錬金術は禁止されている。これは間違いなく違法な金の製造だ。…それにしても質が悪いな。更に検分し分解すれば何らかの手掛かりが掴めるかもしれない。」


 どこぞの誰かが一生懸命作ったであろう金貨は、アレク様の手でボキボキと飴細工のように分解され、捏ねくり回され、錬金術で無理矢理掛け合わされていた材料がまるで巻き戻されたかのように分裂していった。


「鉛と水銀、蜂蜜に卵の殻、硝子…そしてこれは…毛髪か。」


 金貨っぽく錬成されていた物は最早、アレク様によって完全に元の原料に戻されてしまった。そしてアレク様が最後に取り出したのは、アッシュグリーンの細い髪の毛。




 前世の時点で、ずっと怪しいと思っていたのだ。ゲームの中でヒロインが暴漢に襲われるこのイベント。どのルートでも必ず発生する重大イベントであり、どのルートでも100%リリーローズ様が暴漢をけしかけた犯人にされてしまう忌々しいイベントだった。

 大まかなストーリーは同じ。一人で(今回はピンキーがいたけれど)歩くヒロインに大人数で襲いかかる暴漢達。ピンチに現れる攻略対象。しかし、私がプレイしていたゲームの中では一人だけストーリーの異なる攻略対象がいた。


 ドレウィン・イージャス助教授。


 彼のルートの時だけピンチのまま助けが現れず、ヒロインは聖女の力の半分を解放した。魔力のステージが上がり、白に近づいた反動で魔力爆発が起こって暴漢達は吹き飛ばされるというオチだ。そしてその後に現れた助教授が力を使い果たしたヒロインを介抱し連れ帰るという流れ。


 どう考えても怪しい。来るなら早く来い。何でこいつだけ助けに来ないんだ、こいつが真犯人なんじゃないか、とプレイする度に考えていたくらいだ。そして彼の特徴の一つは、アッシュグリーンの猫毛。ゲームの中では動機までわからなかったけれど、現実としてあのマッド助教授と接してきた今なら動機も明白だった。

 そんなに聖女の魔力を研究したいって訳ね。






「…私は何も知らない」


 分解した金貨から出てきた毛髪を証拠として突き付けられた助教授は、自ら作った金貨をあっさり分解された事が悔しくて堪らないようではあったけれど、シラを切り通した。どう見てもプライドにヒビが入った顔をしているけれど。そんな助教授に、アレク様は追い討ちをかける。


「この金貨だけではない。ダリアを襲った暴漢を尋問したところ、錯乱と記憶改竄の魔術が掛けられていた。奴らは当初、依頼主は女だったと言い張っていたが、掛けられていた魔術を解除したところ、すぐに白状した。依頼主は眼鏡をかけた男だったと。」


「嘘だ!私の魔術がそんなに簡単に解けるはずはない!デタラメを言うな!」


 助教授にとっては余程完璧な作戦だったのだろう。万が一失敗しても、リリーローズ様に罪をなすりつけて自分は関係ないフリをするつもり…だったのが、アレク様がチートを発揮して助教授の魔術を簡単に破ってしまったせいで台無しだもの。

 自分の魔術を過信していた助教授は、魔術を掛けたと自白していることにも気付かないくらい頭に血が上っているようで、鬼の形相でアレク様を威嚇した。


「私の魔術は完璧だ!私は最強の魔術師であり、天才錬金術師だ!そして聖女の魔力覚醒を立証し、後世に名を残す偉大な魔術学者になるのだ!」


 普段あれだけクールぶっているくせに。口を開けば開くほど自分の首を絞めているのが解らないのかしら?流石に興奮しすぎじゃない?と思っていると、案の定。よくよく見てみれば、アレク様が何やら助教授に魔術を掛けていた。恐らく理性を失わせるような幻惑魔術みたいなものでしょう。文字通り教え子の掌の上で転がされている教師のどこが天才なのよ?


「聖女候補の危機的状況による魔力覚醒…あと一歩で立証実験が成功したものを…よくも邪魔してくれたな!世紀の発見にケチがついてしまったじゃないか!」


 やはり動機は聖女候補である私の『命を故意に危険に晒す』事によって、無理矢理『聖女覚醒』を起こす事だった。助教授が授業で言っていた、近年有力視されているこの仮説…はただ単に助教授の持論で、それを実証し世間に自分の名を知らしめたかったらしい。傍迷惑もいいところね。


 アレク様の魔術に踊らされて白状しまくり完全に言い逃れのできなくなった助教授は、悔しそうに歯を食いしばっている。

「そんなに私の力を解放させたかったのですか?たかだか研究の為に?」

「たかだか、だと!?お前の中に秘められた魔力は凄まじい可能性を秘めている!それが何故わからない!」


「ええ、ええ。勿論存じ上げておりますわ。この魔力が特別だということは。ですが、それを何故わざわざあなたのような地位も名誉もない下っ端なんぞに管理されなければなりませんの?

私の魔力は私のものです。好きに使わせて頂きますわ。」


 鼻で笑って差し上げると、助教授は歯を剥き出しにして私に飛び掛かろうとした。いつも気取っているのとは対象的にまるで獣みたいね。それを取り押さえたのは、他でもないダンドール教授だった。


「もうよい。これ以上は我慢が効かん。」


 普段温厚な人が怒ると怖いのは定石だけれど…その昔、戦闘狂として有名な私のお父様と戦場を駆けずり回っていたと言うダンドール教授は、尋常じゃない怒りの魔力を拡散していた。


「お前の本性が危ういのは見抜いていたが、弟子にとったのだから最後まで責任は持つつもりでいた。じゃが、どうやら見限る時が来たらしい。」


「きょ、教授…」


「ドレウィン…お前はわしの弟子になる際、誓約したな。どんな事を成そうとも、道だけは踏み外さぬと。あれが口約束だけのものだと思っとるのか?誓約を破った代償は払ってもらうぞ。」


「あ…あぁ…私の魔力が…」


 それは恐ろしい光景だった。助教授の体から、目に見えてアッシュグリーンの魔力が抜けていく。シュウシュウと音を立てながら消えていくそれを、必死に手を伸ばして取り戻そうとする姿に少しだけ同情するくらいには。悲惨な末路だった。




 その後、魔力を抜き取られた助教授は私を暴漢に襲わせた件と、違法錬金術の件で王国最高峰の監獄に投獄された。


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