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事件②




『ダリア、話がある』


 珍しく焦った様子のアレク様に呼ばれてついていくと、周囲に誰も居ないのを確認してから彼がとんでもない事を言い出した。


「リリーローズ嬢が謹慎処分を受ける事になった。」


「は!?どう言う事ですか!?」

 ドラゴンの事ならバレていないはずだ。あまりの衝撃に思わず掴みかかってしまったのは致し方ない。


「兄上が…先日そなたがコールドスタイン公爵邸に招かれたことを知り誤解したらしい。そなたを愚弄する目的でリリーローズ嬢が無理矢理呼び出したと…。どこからそんな妄想が飛び出したのかは理解できないが、そなたの気を引く為に王太子権限で令嬢を謹慎処分にしたようだ。」


 私はこの時、怒髪天を突いていたと思う。あまりの怒りで記憶が曖昧だけど、必死で宥めるアレク様の顔は朧げに覚えている。



「そんな妄想で公爵令嬢を処分するなんて、横暴が過ぎます!王太子殿下の暴挙に国王陛下は何も仰らないのですか?」


 ある程度冷静さを取り戻した後でアレク様に問うと、彼はどうにも気まずげな顔をして私から視線を逸らした。


「いや、それは…」


「アレク様…?」


「…陛下は、この事をご存じない、というか…」


「どういう事です?リリーローズ様は公爵令嬢で王太子殿下の婚約者ですよ?王家と充分関わりがあるじゃないですか!」


「それはそうなのだが…」


 一向にこっちを見ようとしない彼に違和感が募る。どうしたと言うのだろう。様子のおかしい彼を見ていると、ある考えが頭をよぎった。


「まさか、国王陛下に露見しないよう、アレク様が手を回したのですか?」


「…」


 無言も。逸らされたままの視線も。それが肯定である事を物語っていた。


「失望しました」


 気付けば口が動いていた。ハッとした彼が私を見るが、今度は私が彼の視線を避けた。


「今まであなたが王太子殿下の為に尽くしてきた事は知ってます。でも、この期に及んで!王太子殿下の手助けですか!?理不尽な暴挙を隠蔽するのがあなたの役割だとでも言うの?アレク様が考えていらっしゃるのはこの国の未来ですか?それとも王太子殿下お一人のことですか?

 あなたはいったい、誰の味方なんですか?」


「ダリア…」


「もういいです。今はあなたの顔を見ていたくありません。」


そうして私は何か言いたげな彼に背を向けて、全力で走り出した。





「リリーローズ様!!」

 コールドスタイン家の屋敷に忍び込んだ私は、私を見つけたライに取り次いでもらってリリーローズ様の元に辿り着いた。


「大丈夫ですか?」


「ええ、驚きましたけれど、この子と過ごす休暇だと思う事にしましたの。」


 心配したにも関わらず、リリーローズ様は優雅にお茶をし、その膝には羽が生えた豚の悪魔…もといピンキーが居た。

 言葉通り謹慎を満喫しているようなその姿に、やはり私の最推しは最高だと思った。


「リリーローズ様がお元気ならそれでいいですけど…何かあったら言って下さいね。絶対力になりますから。」


「勿論よ、ダリア。貴女は私のお友達でしょう?」


 推しのお友達、と言う響きに胸がドキドキする。ふん。アレク様の事なんて忘れてやるんだから。




「帰りは気を付けて頂戴。何ならライを護衛につけましょうか?」


 少しだけリリーローズ様とのお茶を楽しみ、そろそろお暇しますと告げると。夕焼け空を見たリリーローズ様が心配そうに私を見てご提案して下さった。


 けど、私もライも2人だなんて絶対に気まずいのでお断りしたい。でもリリーローズ様のお気遣いもあるし…と思案していると、リリーローズ様の足元に擦り寄るピンキーが目に入った。


「では、ピンキーを貸して下さいませんか?魔力も戻ってるようですし、護衛騎士として充分です。」


 ご指名に気を良くしたようなピンキーが小さく火を吐く。私達に助けられた事は理解しているようで、ピンキーはリリーローズ様とライ、そして私とアレク様には好意的だった。


「そうね。頼みましたわよ、ピンキーちゃん。」


 リリーローズ様に許可を貰い張り切るピンキーと共に、私は人目につかないよう、だだっ広いコールドスタイン家の屋敷の裏に広がる森づてに公爵家を後にし、帰路についた。





 思いの外森を抜け出すのに時間がかかったのか、王都の下町に出た時には夕焼け空は夜に呑まれかけていた。

 急ごうと速歩きになったところで、何やら気配に気付いた。


 次の瞬間、物陰からフラリと現れた男。


 最初に異変を感じたのは、ピンキーだった。グルルルと見た目通りの唸り声を上げたピンキーを見て、私も身構える。

「どちら様ですか?」

 こちらの警戒を見てだろうか、待ち構えていたかのように柄の悪そうな男達が次々と出てきて私とピンキーを取り囲んだ。


 王都の人気の無い通りを歩くヒロイン、突如迫り来る悪漢。ゲームの中で幾度となく見た光景。王道の展開ね。


 ピンキーが火の玉を吐き出して、数人が吹っ飛んだ。私も負けじと吹っ飛んだ男が落としたナイフを拾い身構える。簡単にやられると思ったら大間違いよ!





 と意気込んだはいいけれど。数分もしないうちに私は諦めかけていた。いくらなんでも数が多過ぎる。更には私を守ってくれていたピンキーも、回復しかけていた魔力を使い果たしてしまったようで、攻撃方法が魔力攻撃ではなく噛み付き攻撃に変わっていた。有難いけれど、このままでは持たない。案の定、疲れ果てたピンキーは乱暴に振り払われて飛ばされてしまった。


 せめて鞭があれば…と思うも、今手にしてるのは古びたナイフだけ。

 ゲームではここで攻略対象が登場したけれど。現時点でそんな気の利いたことができそうな男は攻略対象の中にはいない。


 聖女の魔力を解放すれば勝機はあるかもしれないけど、今の私ではレベルが足りず力不足なのは自分が1番解っている。

 しかし、勝てないと思っていても、逃げ場が無さそうだと確信しても、私は決して悲観的にはならなかった。何故なら…。


 その瞬間、目の前に迫っていた男が吹き飛んだ。


 しゅるり、と鳴るのは鞘に収められた剣の音。そしてバタバタと倒れる男達。その内の何人かがポケットに入れていた金貨と共に地面に叩きつけられ派手な音を立てたのは一瞬の出来事だった。

 気付けば立っているのは私と目の前の影…アレク様だけ。


 軽やかに登場したアレク様は目視で私に怪我がない事を確認すると、ふっと息を吐いた。

「無事か?」

「はい。来てくださると思ってましたから。」

「そうか。遅くなってすまない。」

 当然のように言ってのけるアレク様は、何事もなかったかのようにグッタリしたピンキーを抱き上げて私の手を取った。


 もれなく全員気絶している男達を魔術でお縄にして一纏めにすると、視界が反転する。次の瞬間には私の邸宅の目の前に瞬間移動していた。


「…」

「…」


 喧嘩別れのようになっていたアレク様と私の間に数秒だけ沈黙が落ちる。


「ダリア、私は…」

「やめてください。」


 彼が何かを言い出しそうになったところで、その先を制した。


「人にはそれぞれ譲れないものがあります。そしてあなたにも立場や考えがあるでしょう。王太子殿下の件なら、私が言い過ぎました。」


 そう言って彼を見ると、真剣な眼差しが私に向けられる。


「いや、そなたは正しい。」


「え…?」


 アレク様に抱えられていたピンキーがモゾモゾと動き出す。それを見たアレク様は、ピンキーの様子を確認して私を見た。


「この話は後日改めてするとしよう。私はピンキーを送り届けてからあいつらを処理してくる。後ほど連絡を入れるので、そなたは休んでいろ。」

「わかりました。お気をつけて」

 少しだけ乱れた彼の襟元を正しながら見上げると、アレク様は頷いて反転しながら姿を消した。


 さてさて。私も準備をしなくちゃ。と、先程拾い上げた金貨を握り締めた。



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