実感のない大勝利
オーガナイトリーダーを紀伊が倒した。
その事実を正しく理解できている者は、その場にはほとんど居ない。
当然だ。今の紀伊の放った一撃は「日暮 紀伊」という男を知る者程理解し難く、そして「日暮 紀伊」を知らない者であっても理解の外にある一撃だった。
だから……オーガナイトリーダーが倒れ、オーガナイト達が全滅したという事実。
それによって町が守られたという現実すら、未だ曖昧な者ばかりだったのだ。
しかし当然、アインはそうではない。
銃を仕舞うと、アインは落ち着いた様子で紀伊の下へとやってくる。
腰を抜かしてへたり込んだままの紀伊を上から覗くように、アインはその無表情な顔を紀伊へと向ける。
「おめでとうございます。マスター」
その祝辞に、紀伊自身も自分が勝利したという事実をようやく嚙み締め始める。
撃った紀伊ですらも現実として受け止めきれない、そんな一撃。
それでも紀伊は自分の手の中のレイガンから目を離し、アインをじっと見つめる。
「おめでとう、でいいのか……?」
「他にどのような評価が?」
「いや、だって俺……正直、わけわかんないぞ」
紀伊の率直な言葉にアインは首を傾げ……やがて「そうですか」と頷いてみせる。
「解説は可能です。可能ですが……まずは此処を離れる事が先決かと」
「えっ」
「注目を集めています」
言われて紀伊は周囲を見回し……思わず「げっ」と声をあげてしまう。
「今のって魔法だよな……?」
「いやでも、あれって銃じゃね? 本で見たことあるぞ」
「てことは、アイツじゃないってことか? なら、一体誰が」
「いや、でも確か……」
「あの子可愛いな」
オーガナイトリーダーを一撃で倒した武器。そして……どう見ても美少女なアイン。
この2つが揃った今、紀伊の注目度が上がるのは必然とすら言えた。
とはいえ、紀伊は今腰が抜けて動けない。
「えっと……どうやって逃げようか」
「緊急事態と判断します」
「うおっ……って、うわああああああああ!?」
ひょいと紀伊を抱え上げたアインが地を蹴り、走り出す。
町の壁をも越えてを家の屋根を蹴り、遠く、更に遠くへと遠ざかるアインと抱えられた紀伊を追う者は、その場にはなく……残された、そして生き残った冒険者達はポカンとした表情でそれを見送る。
「な、なんなんだあの子は……」
紀伊よりも……どちらかというとアインの方に、強い印象を残して。