マスター・キィの建国9
『そ、それは……この場では返答できない』
「使者なんだろう?」
『使者といっても伝言役に近い。俺達に決定権はないんだ』
本気で狼狽している様子を見て、キィは思う。
恐らく「誘き出せ」と言われているのだろうと。だがまあ……その誘いにのって幸せな結果になると信じる程、キィは無垢ではなかった。
むしろ、誰にとっても幸せにならない結果になるであろうことは間違いない。
「なら、伝えてくれ。こちらで歓迎の準備をする。日程が決まったら伝えてくれ……とな」
『……そっちからは、どうしても来られないのか』
「行くつもりはない」
『分かった。伝えよう』
去っていく冒険者パーティを見送り、キィは軽く頬を掻く。
……状況は、あまりよくはない。
グッドコップ&バッドコップ。
先程はそう言ったが、正直に言って「グッドコップ」と呼ぶにはあの剣士の男の態度もあまりよくはない。
なんだかんだで、最終的にキィが負けると思っているからこそ、あの態度があるのだろう。
それは恐らく、武装ドローンをこちらの戦力の基準に考えているからだろう。
何しろ、今の世界には魔法がある。大魔法と呼ばれる類のものを使えば、旧世界の核を超える破壊力など簡単に出す事も可能だ。
だからこそ科学文明は敗北したのであり……それを基準に「武装ドローン」を加味したのなら、まあ……そういう判断になるだろう事も納得できる。
「アイン」
「はい」
「ナルミのオーガへの教育はどうなってる?」
「予定通りに進行しています。現時点で計画の7割です」
「……なるほどな。それなら間に合いそうだな」
この先は「決裂」か「ジパングでの会談を受け入れる」かの、どちらかにしかならない。
そしておそらく、高い確率で後者になるだろうとアレイアスは予測していたし、キィも同じ考えだった。
向こうは、キィとジパングを徹底的に舐めている。
そして今回の報告も「自分の牙城から出たがらない」という風に報告されるだろう。
なら、向こうのとってくる手段も予想はつく。
「向こうはたぶん、選りすぐりの戦力を揃えて……まあ、足りない分は数合わせを連れてくるだろうな」
「威圧ってこと?」
「ああ」
ダルそうにしているナルミにキィは頷く。
人数を揃えて、どうだ怖いだろうと威圧する。
数は力。いつの時代も変わらない、簡単な論理だ。
しかし同時に、強力な力に蹴散らされるのが「数という力」でもある。
B2A。場合によってはナルミが口にしたそれも出さなければならないだろう。
そうはならないことを……キィは、願っていた。