ステータスがないということ
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そしてそれは、紀伊に今まで感じてこなかった強い興奮を呼び起こさせた。
オーガナイト。今までの紀伊であれば命をかけても逃げられるかどうかすら分からなかった、そんな強敵のモンスター。
それを倒したという実感が、朽ちかけていた紀伊の心を強く呼び覚ましたのだ。
雄叫びにも似たその声に、残りのオーガナイトが、そしてオーガナイトリーダーが反応する。
「す、すげえ。なんだアレ。スキルなのか……?」
「光の剣……?」
倒れた冒険者たちの呟きも、紀伊の心を刺激する。今の自分なら出来る。そんな万能感すら感じてしまう。
事実、このレイブレイドはオーガナイトに通じた。
ならば勝てない道理はない。紀伊の中に沸き上がったその自信は、オーガナイトへの恐れを一時的ではあるが消し去っていた。
「オガアアアアアアアアアアア!」
「来いやあああ!」
だからこそ、オーガナイトの怒りの咆哮にも紀伊は怯まない。
負けるかとばかりに叫び返し、オーガナイトと紀伊は交差する。
そして……一方的に打ち負けたのは、紀伊の方だった。
「ぐあっ……」
振るわれた巨大槌に吹き飛ばされ、紀伊は無様に地面に転がる。
敗因は単純で……「攻撃が見えなかった」という、ただそれだけだ。
そしてオーガナイトの勝因もまた「紀伊の攻撃が見えていた」という、それだけだ。
「は、ははっ……げほっ。そりゃそうか。俺、ステータス……ないもんな……」
そう、紀伊はステータスの恩恵を受けてはいない。子供でもステータスの恩恵を受けて強化されている中、1人だけ何もない。
ステータスで強化された冒険者たちを吹き飛ばすようなモンスターの攻撃を、避けられるはずもない。
そして……そんな強烈な一撃を受けて、立っていられるはずもない。
起き上がれない。痛みで意識が飛びそうだ。
レイブレイドを握った手も持ち上がらない。
……この事態を打開する手立てが、全く見つからない。
そして紀伊を見下ろすのは、ニヤリと笑うハンマー持ちのオーガナイト。
(あ、死んだな……)
振り上げられたハンマーをぼけっと見ながら、紀伊はそんな事を考えて。
その更に頭上で光った何かに気付く。
なんだ、あれはと。そんな月並みな感想が口からついて出るその前に、その「何か」は……高速で落下し、ハンマー持ちのオーガナイトを叩き潰した。