マスター・キィの建国4
エルンの町では「とある噂」が流れていた。
「なあ、本当かそれ……?」
「実際見た奴もいるって話なんだよ」
その噂の内容は単純にして不可解。
滅びたはずの科学による産物としか思えない金属の壁によって、山岳地帯が要塞のようになっているというものだ。
しかも科学を知る世代であればある程、それは既存の科学を超えた何かのように見える、そういう代物であるらしい。
「いや、有り得ねえだろ……科学文明は魔法文明には通用しねえ。それはもう何度も証明されてる」
「だよな。でも、それなら噂の要塞って何なんだ……?」
その噂はエルンの町を、様々な形で駆け巡っていた。
曰く、旧文明の科学者たちが要塞を作ったらしい。
実は某大国の軍の残党が集結している。
魔法と科学を融合した新しい技術を生み出した奴がいるらしい。
などなど……どれも「有り得ない」と「もしかしたら」が混ざり合う、そんな噂ばかりだった。
そして、それは当然町を管理する者達の側にも伝わっていく。
特に、それらしきモノを持っていた者を確認しているともなれば猶更だ。
「キィ、か……聞いたことはないな」
「はい。この辺りの出身ではないのかもしれません」
キィと直接関わったシンは町長に呼ばれ、キィの事を話していた。
無論、報告にはあげていた。あげていたが……そこまで重要視されなかったのだ。
それは科学というものが完全敗北した残骸でしかないからだ。
そんなものを使っている人間を見たからと報告があがったところで「物好きな」の一言で切って捨てられ、ロクに読まれていなかったのだ。
「そいつが要塞を作った可能性がある、か」
「はい、信じられないくらい高性能の機械を複数持っていました。アイテムボックスも持っているようです」
「ジョブは?」
「聞いておりません。冒険者協会に問い合わせますか?」
「この辺りでは登録していない可能性もあるが……一応やっておけ」
「はい」
一通りの聞き取りが終わると、町長は机をトントンと叩く。
どうするべきか。今さら科学文明の産物などゴミに等しいが、モンスターを倒すほどの科学が実現していたならば、少しばかり面倒な話になる。
だが、もしそうならば何故今まで出てこなかったのか?
何故このタイミングで出てきたのか?
総合的に考えれば「偵察された」という解答が出てきてしまう。
つまり……そのキィという男は再び世界をひっくり返す為の尖兵ではないのか?
このまま放っておいては不味いのではないか?
そんな考えが巡り始める。
「冒険者協会に連絡を。特に腕のたつ奴をリストアップしておけ……とな」