マスター・キィの建国
ナルミと共に移動したキィは、標高高い山の中をエアバイクで登っていた。
「ほんっとズルいわよね、そのバイク」
「そうか? 俺には君の能力も結構反則に思えるけどな」
コマンダー・ナルミと名乗った少女の能力は「モンスターの統率」であるらしく、今もナルミは身軽そうな二足歩行の魔物に乗っていた。
「アタシの能力は分類でいえば『テイマー』の亜種よ。でも、アンタのは違う」
「かもな」
「かも、じゃなくてそうなのよ。それにサポーター? ズルいわよ、アタシにはそんなの居ないのに」
言いながら、ナルミはじっとキィの背中に掴まっているアインを見ているが……アインは気にした様子もない。
「それに関しては俺も嬉しいし自慢したい。アインは最高の相棒だからな」
「高評価に感謝を」
「はいはい、暑い暑い。それより、もうそろそろ着くわよ」
「ナルミの拠点だったか」
「ええ、そうよ。まあ、乗っ取った拠点だけど」
ナルミがそう言って示した先。そこには……木製の、巨大な壁があった。
いや、壁ではない。あれは……。
「砦、か?」
「そうよ。オーガの砦であり集落。アタシはそこを自分の能力で統率し、リーダーをアタシ自身に挿げ替えたってわけ」
「そんなことが出来るのか……」
「ええ、出来たわ。意思疎通だって可能よ」
砦の上にはオーガアーチャーが弓を構え、オーガランサーが砦の門を守っている。
こんなもの……間違いなく大規模な討伐隊が組まれるレベルの危機だとキィは直感する。
しかしそれが味方であるなら、これほどまでに心強いものも中々ないだろう。
「戻ったわよ! 開けなさい!」
「ガアアアア」
ナルミに応えるようにオーガランサー達が門を開け、その奥の光景が露わになる。
そこにあったのは……住んでいるのがオーガという違いはあるが、確かな生活の光景で。
「さあ、歓迎するわ! アタシの本拠地へ!」
「ああ、そして……俺達の始まりの地だな」
ナルミを乗せたモンスターとキィとアインを乗せたエアバイクが門の中に入ると、ランサー達が門を閉じ……奥から慌てたように重装備のオーガが走ってくる。
「オーガナイト? いや、あれは……」
「アタシの相棒みたいなもの、かしらね」
ガシャリ、ガシャリと重たげな音をたてて走ってきたオーガはその場に跪くと、キィ達にも理解できる言語を話し始める。
「ナルミ様! お戻りになられましたか!」
「ええ、戻ったわ。それと新しい仲間よ。というか、これから始める大仕事のパートナーかしらね?」
「パートナー、ですか?」
「ええ、紹介するわ。彼はマスター・キィ。これから伝説を打ち立てる……かもしれない男よ」