レイブレイド
「逃げろ! オーガの襲撃だああああ!」
「げっ……」
オーガの襲撃。そしてそれを率いる強力な個体。となれば……。
「オーガリーダー……か? やべえ、逃げなきゃ!」
身を翻そうとした紀伊の視線の先で全力で走ってきた馬車が見えて……すぐに「何か」に粉砕され御者や荷物が宙を舞う。
それは、イノシシ。鎧をまとったイノシシ。そして……それに乗った騎士のような格好の鬼……いや。モンスター、オーガだった。しかし、それは「オーガリーダー」などではない。
「オーガナイト……いや、オーガナイツ……か? 嘘だろ……」
その数は、総勢5体。オーガナイトと呼ばれるそのモンスターたちと、明らかに装飾の違う1体は周囲の冒険者たちに襲い掛かり、その悉くを薙ぎ払っていく。
「ヤバイ、ヤバイぞ……! 【鉄犀騎士団】も遠征に出たばっかりだってのに!」
そもそもこの街は別名「初心者の街」だ。あまり強力なモンスターも出ず、【鉄犀騎士団】が僅かな強いモンスターを遠征で薙ぎ払っているからこそ比較的安全な状況が確保されている。
その彼等がほとんど出払っている今、あんなものが襲ってきたら……街は。
「おい! 戦闘母艦とか言ってたよな!? 何かないのか!」
―現在アレイアスに使用可能な武装はありません。直接サポート機能の解放に全リソースを利用しています―
「くそっ!」
―提案。現在、マスターキーから『レイブレイド』を解放可能です―
「!? そ、それはどうやって!」
―使用方法をマスターにインストールします―
瞬間、襲ってくる頭痛に紀伊は絶叫をあげて。その絶叫に気付いたオーガナイトの一体が、槍を構え突進してくる。
それは避けるにも防ぐにも、紀伊には無理なはずの絶望じみた突進。
けれど、紀伊は。
「マスターキー、解放」
オーガナイトに手を向けて……その言葉を、告げる。
そうして放たれるのは、輝き。展開されていくそれは……金属の、筒?
いや、違う。それは、それこそは!
「レイブレイド、展開完了!」
金属の筒から伸びる光の刀身が、オーガナイトの槍を腕ごと切り裂いて。
「オガアアアアアアア!?」
「うあああああああああああああ!」
レイブレイドを手に、紀伊は反転しようとするオーガナイトへ襲い掛かる。
ジャイアントラットにも苦戦する程度であった紀伊の剣……レイブレイドは振るう度にアーマーボアを、そしてオーガナイトを切り裂いて。
「オ、ガアアア……」
倒れるオーガナイトを前に、紀伊は荒い息を吐く。
「倒した……俺が……オーガナイトを……?」
倒した。自分がオーガナイトを倒した。未だ戦闘音と悲鳴が響く中で、紀伊はその事を強く実感する。