エルンの町
そうして、しばらく突き進んだ後。
キィ達は無事にエルンの町へと「歩き」で辿り着いていた。
「はー……あの快適さに慣れると歩きたくねえなあ」
「忘れろ。夢だったんだよ」
「無理だろ。はー……ほんと羨ましいよ」
そんなシンの台詞に、キィの動きが一瞬止まる。
「どうした?」
「……羨ましい? 俺が?」
「おう。あんなもん出せて、しかも強ぇ。大体の奴は羨ましがるだろ」
それは、キィにとってはなんとも複雑な気分になる言葉でもあった。
羨ましい。それはキィが紀伊であった時に散々思ったことだった。
何も手に入らなくて、未来さえ見えなかった時の……そんな時に散々味わった感情。
「そう、か」
「なんか妙な顔してんな」
「いや、ちょっとあまりそういうのは言われたことが無かったからさ」
「ふーん」
シンはそう答えると、キィの背中を叩く。
「そりゃアレだな。今まで嫌な奴ばっかりに会ってきたんだな!」
「かもしれないな」
「これからはきっと大丈夫さ」
笑うシンに、キィもつられるように笑う。
「……だといいな」
「ああ。きっとそうなるさ。おーい!」
近づいてくる門に向けてシンが声を張り上げ、衛兵が「シン!?」と負けない程の声をあげる。
「戻ったぞー!」
叫びながら近づいていくシンに衛兵達は本気で驚いたような表情をみせる。
「お前、死んだんじゃ……」
「そこの2人に助けられてな。無事生きて帰ったってわけさ」
言われて衛兵達は初めて気付いたかのようにキィ達を見て……やがて、笑顔を向けてくる。
「そうか! ありがとう、感謝するよ!」
「オーガナイトだって聞いたぞ。どうやって倒したんだ?」
「あー、うん。スキルみたいなもんだな」
「そうかそうか。まあ、シンの恩人なら何も問題ないな。エルンの町へようこそ!」
言われるままにキィとアインはシンと共にエルンの町に入り……その光景にキィは感嘆の声をあげる。
「こっちの町は随分栄えてるんだな」
「そうか? 普通だと思うぜ」
キィがこの前まで居た町とは雲泥の差がある。夢と希望、まだまだこれからだという向上心が詰まったような……そんな空気が感じられたのだ。
「なあ、キィ。お前今日はこの町で泊ってくんだろ?」
「そりゃ、まあ」
「なら、青銅の斧亭がお勧めだぜ。下の食堂で出してる飯も美味いからな」
「ああ、ありがとう」
「いいってことよ!」
手を振りながら去っていくシンに手を振り返し、キィは今までずっと黙っていたアインへと話しかける。
「……青銅の斧亭は無しだな」
「ご英断かと。間違いなく面倒ごとに巻き込まれます」
「逃がさんって顔してたもんなあ……」
世知辛いなあ、と呟きながらキィとアインは町中を歩いていく。




