マスター・キィの始動2
「くそっ! こんな……こんな場所で!」
馬を走らせていた男は、悲鳴じみた声をあげる。
「タケル! このままじゃ……!」
「分かってる! 何故だ! 何故こんなところにオーガナイト共がいやがる!」
騎士を思わせる鎧を纏った男達を追うのは、オーガナイト達だ。
バトルホースと呼ばれる戦闘用の馬に、オーガナイト達の乗るアーマーボアは追いすがり……タケルと呼ばれた騎士の後方を走っていた騎士にオーガナイトの槍が突き出される。
「がはっ……!」
「シン!? くっ……すまん!」
肩を貫かれバトルホースから落ちた仲間をタケルは見捨て走り去り、見捨てられた仲間……シンは、絶望したような声をあげる。
「おい待て! 待ってくれ……!」
自分を囲むオーガナイト達を見上げ、シンはひぃという悲鳴をあげ……しかしその瞬間、1体のオーガナイトの頭が光に貫かれ消し飛ぶ。
「……は?」
「ツインブレード展開」
「オガアアアア!?」
「オガアア!」
振るわれた銀光と、飛び散る鮮血。
不意の痛みに混乱するオーガナイトたちの間に、1人のメイドが降り立つ。
「跳びます。舌を嚙まぬよう要請します」
「は? うおおおおっ!?」
ドンッと。凄まじい音をたててオーガナイトの囲みから跳躍して離脱するメイドの少女。
その腕に雑に抱えられたシンは、その視界に高速でオーガナイトの群れに突っ込んでいく「何か」を捉えた。
「な、なんだアレは!? バイク!? だがこの時代にそんなもの……!」
バイクに乗る何者かが光を放つ度にオーガナイトが倒れ、先程までシンが囲まれていた場所に辿り着く頃には、すでにオーガナイト達は全滅している。
「なんて速度だ……それにうおっ」
当然ながら、跳べば着地も存在する。
その落下の衝撃に舌を噛みそうになったシンはそのまま転がされ、しかしすぐに肩の痛みを我慢しながら立ち上がる。
「な、何者だアンタ……それにそれ、まさか銃……なのか?」
光線銃。旧時代でも創作でしか見た事のないような武器に、シンは信じられないような目を向ける。
「それも光線銃……! まさか、科学が滅びてなかったってのか!?」
「いや、そういうのはたぶん滅びたさ」
「だが、その武器は……まさかマジックアイテムか?」
「それも違う。俺のスキルみたいなもんだ。それより怪我、大丈夫か?」
心配そうな目で見てくる男に、シンは肩の痛みを思い出したように呻く。
「も、問題ないわけじゃないが……白魔法士に診てもらえれば大丈夫だ」
「そうか。なら良かった」
「ああ、まずはありがとうを言わせてくれ。俺はシン。アンタは……?」
シンのその問いに、男は笑みを浮かべて答える。
「キィ。そう呼んでくれ」